恋愛実践録45
「うるさい。俺は寂しい客を不憫に思い、善意で加担しただけだ」とホスト亭主は、もう一人の自分の意見を打ち消した。
「お前が棄て去った後、あの愛人は旦那を棄てたのではなく、逆に旦那に棄てられたのではないのか?」
「その論法だと、客と旦那はとっくに寄りを戻しており、二人は手に手を取って愛人を葬った事を今は笑い合っているという事なのか?」
「いや、二人は共謀しているのではなく、旦那が単独で愛人を棄て去り、客抜きの自分の道を歩んでいるのかもしれないではないか?」
「分からない。それも推測に過ぎないではないか。全く別件というか、我々に取っては第三者の男に棄てられたから、精神的に病み、愛人は自殺した可能性もあるしな。調べてみなければ、その真相は掴めやしないではないか」
「どうやって調べるのだ?」
「興信所があるではないか?」
「そんな金も暇も俺には有りはしないぞ」
「いずれにしろ、お前がやった事が愛人を自殺に追い込んだ要素になっている事だけは、厳然たる事実だろう?」
「うるさい。俺は寂しい客を不憫に思い、善意で加担しただけだ」
「だが愛人は自殺したではないか?」
「うるさい!」




