恋愛実践録4
「人生そのものが泡沫ならば幻想に酔いしれて、寂しさを癒すのも愛の形だと自分は思います」とホスト亭主は言った。
ホスト亭主が客に向かって一言告げる。
「成功して家庭が崩壊したパターンですね…」
客が憂いを湛えた表情をして言った。
「一生遊んで暮らしても有り余るお金はあるのに、何故か私の寂しさは拭われません。本当に馬鹿な女ですよね、私…」
ホスト亭主が助言する口調で言った。
「愛なんて紙風船みたいなもので、飛んで直ぐに無くなっちゃいますから、貴女みたいな女性沢山いるのが、今の世間なのですよ。そのお陰で我々みたいな稼業の者達が飯を食える世の中でもあるわけだから、皮肉なものですよね」
泣き黒子がある客は涙もろく、直ぐに涙ぐむのだが、それを拭い、泣き崩れる事はなく話し続ける。
「皆、お金に眼が眩んで、愛情が割り引かれてしまうのですかね?」
ホスト亭主が頷く。
「金にはそんな魔力は十分有りますからね。だから一番肝心な愛は紙風船になってしまうのですよね」
涙ぐむ眼を充血させながら客が言う。
「私みたいな愛にはぐれた女の人が皆、こうして寂しさを癒す為に店に来るのですか?」
ホスト亭主が頷き答える。
「大同小異それはありますよね。寂しくない人なんかいませんから」
「お金が寂しさを再生産して、寂しさが世間を満たして、その寂しさが又お金を生んで。お金の魔力と言うのは本当に恐いですよね…」
ホスト亭主が伏し目がちに頷きながら答える。
「その通りですね。でも結局お金じゃ寂しさは癒されないのですよ。人の寂しさを癒すのは人と人の絆しかありませんから」
滲み出そうになった涙を健気に指で拭い、客が言った。
「私は愛と絆にはぐれてしまった馬鹿な女ならば、生きている意味とかありませんよね。そう思いません?」
ホスト亭主がすかさず答える。
「いや、貴女は確かに絆にはぐれてしまったけれども、自分と出会った。これも一つの絆ならば、大事にしましょうよ」
客が悲しげに言って退ける。
「でもこの出会いは泡沫の擬似恋愛でしかなく、それは幻想であり、私の寂しさは癒されませんよね?」
ホスト亭主が力強く断言する。
「人生そのものが泡沫ならば幻想に酔いしれて、寂しさを癒すのも愛の形だと自分は思います」