恋愛実践録39
「後、精神科に一度行ってケアを受けると言うのも手ですよね?」とホスト亭主は言った。
ホスト亭主が真剣な眼差しを客に向けて言った。
「とりあえず自分に向ける志向性とその金を他の事に使えば、気が紛れるのではありませんか?」
客が涙を拭いながら尋ね返す。
「それはどういう意味ですか?」
「ですから、無理にでも自宅から出て、新たに住まいを見付け、その新しい環境で自分を見詰め直せば、寂しさも癒えるかもしれませんよね?」
「住環境を変えろと言うのですか?」
ホスト亭主が頷く。
「そうです。但し過去の捕われたる家具や小間物は全て置き去りして、全く新しい環境に行けば、心もリフレッシュされると思いますが、どうでしょう?」
客が否定する。
「でも人の心は自分の思い通りにならないと、最前貴方が言ったではありませんか?」
ホスト亭主が押し込むように告げる。
「いや、寂しい伽藍とした自宅で寂しさに押し潰されるのをじっと待つよりは、やってみる価値は絶対にあると思います」
客が手の甲で涙を拭い息をつき言った。
「分かりました。やってみます…」
ホスト亭主が少し躊躇った後、生唾を飲み、一言付け加えた。
「後、精神科に一度行ってケアを受けると言うのも手ですよね?」
客が深呼吸してから、溢れ出る涙を拭いもせず答える。
「分かりました…」




