恋愛実践録37
「あの家から出る事も出来ず、私はこの寂しさに負けそうなのです。それで宣誓違反になっても構いません。お金なんかいくら掛かっても良いです。どうか私の心をこの殺人鬼たる寂しさから救って下さい。お願いします」と客は言った。
客が再度涙を拭い言った。
「それは分かっています。家族を大事にする貴方を見たからこそ、私は離婚を決意したのも事実であり、私は潔く旦那と離別した後、その寂しさを貴方の言わば家族を思う美徳で補い、癒しながら生きて行こうと思っていたのですが、自分の心を制御出来ず、やっぱり駄目でした。この寂しさに負けたくない負けては駄目だと念じれば念じる程に、この寂しさは意に反してどんどん募り、私の心を蝕むのです。この寂しさは私をまるで捕われの囚人のように縛り上げ、あの家から出る事も出来ず、私はこの寂しさに負けそうなのです。それで宣誓違反になっても構いません。お金なんかいくら掛かっても良いです。どうか私の心をこの殺人鬼たる寂しさから救って下さい。お願いします」
客の顔から視線を外し、ホスト亭主が瞼を伏せ言った。
「それは出来ません。その一線を越えたら、自分の心は必ず崩れてしまうのが、自分には、はっきりと分かりますので…」
客が涙を流しながら懇願する。
「そこを金で買われた仕事として割り切る事は出来ないのですか?」
ホスト亭主がおもむろに相槌を打ち断言する。
「出来ません…」




