恋愛実践録36
「いや、貴女の自宅に自分が赴くと言う事は、それ則ち貴女の旦那さんの代わりと言う事なので、自分としてはそれだけは避けたいと言う事なのです…」とホスト亭主は言った。
ホスト亭主が一声唸り言った。
「でも愛人は貴女の心理状態をここまでつぶさに読んで、貴女を追い込んだと言うのは無いでしょう。と言うよりは旦那さんを厄介払いするのが真の目的であり、その結果貴女がそうなってしまったという事であって、貴女に対する復讐では無いと自分は思いますが…」
客が涙を流し、それを忙しなく拭い言った。
「でも例え愛人がそう考えていたとしても、旦那を追い出した事イコール私への意趣返し、復讐劇に畢竟なっており、その結果私はのっぴきならないところに追い込まれているのも事実ではありませんか。つまりこれは私と貴方が協調して仕掛けた復讐劇の顛末であり、それを収拾する責任は貴方にもありますよね。違いますか?」
「それはおっしゃる通りだと思いますが、でもこれ以上自分がこの復讐劇と言うか、貴女の寂しさに同調すれば、これは正に感情移入甚だしくなり、本気の浮気になってしまいますよね。それは自分も本意ではなく、宣誓違反だと自分は思うし…」
客が過呼吸を起こし兼ねない程に神経を苛立たせ、喚いた。
「ならば私が思い余って死んでも良いと、貴方は言っているのですか?!」
ホスト亭主が首を左右に振り悲しげに否定する。
「いや、貴女の自宅に自分が赴くと言う事は、それ則ち貴女の旦那さんの代わりと言う事なので、自分としてはそれだけは避けたいと言う事なのです…」




