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恋愛実践録34

「家族崩壊を招くので、電話連絡だけで、自宅で逢うのは勘弁して下さい。どうかお願いします…」とホスト亭主は客に言った。

電話での申し入れを拒み続けられ、客は捩込むように店を訪れ、ホスト亭主に縋り付いた。





「すいません、無理なのは重々承知しているのですが、どうか私を一人ぼっちにしないで下さい。お金はいくら掛かってもいいですから、私が救いを求めている時は自宅の方に来てくれませんか。さもないと私、もう気が変になりそうなのです。これを見て下さい?」





生々しく包帯が巻かれている手首を差し出してから客が続ける。





「私はリスカなんかするの初めてなのですが、一人ぼっちに耐えられなくなって、これをすると、何か気が落ち着くのです。でも落ち着く先に絶望としての死が待ち受けているのがとても恐いのです。だからどうかお願いします」





ホスト亭主が首を左右に振り拒絶する。





「それは出来ません。それをしてしまったら自分の気持ちに収拾が付かなくなりますので。それだけは勘弁して下さい…」





悲しそうに涙ぐみ客が言う。





「でも私が寂しさにいたたまれなくなるのは、自宅に一人ぼっちでぽつりといる時しか無いのです。ここに来て貴方に会っても私のリスカ癖は治りません。そんな私はどうしたら良いのですか?」





ホスト亭主が念を押すように告げる。





「でも、それをしてしまったら自分は後戻りが出来ないのです。許して下さい…」





「私がリスカの果てに死んでも良いのですか?」






これ以上無い程に苦渋の表情を作り、ホスト亭主が敢えて告げる。




「家族崩壊を招くので、電話連絡だけで、自宅で逢うのは勘弁して下さい。どうかお願いします…」

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