恋愛実践録32
客がむせび泣き嗚咽し、ホスト亭主は声を上げずに抱擁しつつ泣き続けた。
いたたまれずホスト亭主が再度客を震える手で熱く抱擁してから言った。
「空との絆を断ち切って、孤独なる真っ暗な海になって本当にその寂しさに一人ぼっちで耐えられますか?」
ホスト亭主のその言葉に客の涙腺が堪えられず切れて、客が熱い涙を流して嗚咽したのに連動して、ホスト亭主も誰憚る事なく熱い涙を流し、応える。
客がむせび泣き嗚咽し、ホスト亭主は声を上げずに泣き続ける。
客が泣きながらホスト亭主に懇願する。
「御免なさい。少し悲しみや寂しさを絞り出す為に泣くのが足りなかったみたいです。すいませんが少しこのまま泣かして下さい。お願いします」
ホスト亭主が恭しく頷き答える。
「悲しみを涙で絞り出して、本当に喜びだけになるのですか?」
客が嫌々をするように激しく泣き崩れ、むせび泣きながら答える。
「分かりません。とにかく今は泣かして下さい。お願いします」
とめどなく熱い涙を流しながら、ホスト亭主がしきりに頷き言った。
「分かりました。思う存分泣いて下さい。それで切なさと悲しみ、寂しさしか残らなかったって、その時はその時じゃありませんか。自分はそう思います」
関が切れてしまい、客はひたすらむせび泣き、嗚咽して、夜の帳が夕焼け空を掻き消すように、辺りは段々暗くなって行った。




