恋愛実践録30
「このゴミはあんたが拾っておいてくれないか。尤もゴミ以下の人間にゴミは拾えないか?」とホスト亭主は愛人に向かって捨て台詞を吐き、背を向けて立ち去った。
タクシーから降りて、愛人宅マンションに入る直前、ホスト亭主は偽造の離婚届けをおもむろに懐から出し、破りくしゃくしゃに丸めて捨て、冷静そのものの口調で言い放った。
「あんたみたいな盗っ人女の為に離婚なんかする訳がねえじゃねえか、この阿婆擦れ女め。お前そんなに人の物を盗むのが愉しいか?」
状況が掴めず唖然とした後、気を取り直すように愛人が言った。
「何を言っているのですか。貴方が私を奥さんよりも好きだから、貴方は離婚に踏み切り、私の婚約者に直談判すると言ったのではありませんか?」
ホスト亭主がせせら笑い、言った。
「盗っ人にも三分の理と言うが、あんたの理屈は全て被害者意識で凝り固まっているだけで一分の理にもなっていないじゃないか。あんたそれでも脳みそはあるのか。そんなんじゃ単細胞生物以下、あんたの脳みそはノロウイルスで出来ているんじゃないのか、阿婆擦れさんよ?」
うろたえ、眼を白黒させ、顔面蒼白の呈で絶句している愛人に向かってホスト亭主が淡々とした口調で続ける。
「他人の庭の芝生は綺麗に見えると言うが、その他人の芝生しか見えず、それを欲しがるあんたは正に狂人以下、全身盗っ人の眼で出来ている化け物、怨霊以下の腐れ外道以下の下等動物と言えるわけだ。その辺の事情は分かっているのか、腐れ外道の阿婆擦れさんよ?」
立ち尽くしたまま涙を溜め、小刻みに震え出した愛人にホスト亭主は容赦なく追い撃ちを掛ける。
「どうせこのマンションで一緒に暮らす婚約者とやらも他人の芝生なのだろう。その他人の芝生が自分の物になったやいなや、あんたは直ぐさま飽きて、盗っ人の眼で違う他人の芝生を妬み、羨ましがって盗む段取り道理しか眼中にないわけだろう。だが残念な事に俺は家族をこの世で一番愛している亭主なんだ。だからあんたみたいな全身盗っ人の阿婆擦れ女に盗まれる程俺の芝生は腐っちゃいないと来ているのさ。大体あんたは俺が自分の芝生を綺麗に見せていたのも感づかない、低能腐れ阿婆擦れのお馬鹿さんならば、こんな風に忠告してやる価値すら、あんたには無いと言うことさ。ではさらばじゃ。盗っ人阿婆擦れ腐れ外道女さんよ」
そう言った後、ホスト亭主が捨てた離婚届けを指差し言った。
「このゴミはあんたが拾っておいてくれないか。尤もゴミ以下の人間にゴミは拾えないか?」
そう捨て台詞を言って、ホスト亭主は颯爽と振り返りもせず、愛人に背を向けて立ち去った。




