恋愛実践録161
愛人が旦那に奇襲を掛けた。
くの字に壁にはめ込まれている木製の下駄箱の上段を両足で足掛かりにしてバランスを取り、天井裏へ繋がる戸板を二枚音を立てないように押して外し、旦那は邪魔になるバットを玄関に放置して、上体だけを押し込むように天井裏に入れ、懐中電灯で中を照らし出してみた。
天井裏は予想以上に真っ暗で視界が極めて悪く、懐中電灯で照らし出しても、その光芒に照らし出されるのは、埃と蜘蛛の巣だけで方角すら全く定まらず、動きが取れそうに無い。
例え力づくで体重を載せて潜り込んだとしても、古い材木で出来た天井裏の老朽化した構造は、旦那の体重を支え切れず、下手をすると抜け落ち落下する可能性が高いのが見て取れる。
旦那はその姿勢で天井裏からの奇襲作戦を諦めるかどうかの自問自答をする。
「この天井裏は相手に待ち伏せされ奇襲をかけられる恐れは減るが、こんなんじゃ明らかに移動困難であり、多分音も相手に筒抜けとなるだろし、戦略にもならず無理だろう?」
「ならばどうするのだ?」
「又危険を承知で渡り廊下を歩いて探索するしかあるまい…」
そう旦那が結論を下した瞬間、踏ん張っている右足のふくらはぎに激痛が走り、旦那はつんざくような絶叫を上げ、下駄箱の上段から転げ落ちた。