恋愛実践録156
「このようにゲリラ戦の様相を呈した場合、敵地に赴けば、やはり不利な戦況に陥るのが分かった訳だ。不意打ちを食らわなかった事は僥倖と言えるだろうな…」と旦那は自問自答を繰り返す。
警戒怠りなく慎重に寺から離れへと移動し、己のアジトとも言える部屋に戻り、旦那が脱力したようにバットを投げ出し、大の字になって緊張感に詰めていた息を抜いてから、自問自答する。
「こちらもあの女を見付ける事が出来ず、あの女も不意打ちを食らわすタイミングを見いだせずに、お互い我が身を守るのに精一杯の極限の神経戦のままに今回の戦いは終了か。しかしあの女は何処に潜んでいやがるのだ?」
「分からない。ただ言える事は、あの女はお前が忍び足で入って来て、廊下を歩く軋み音を聞き取って、何処かに身を潜めていた事は間違いない事実だと思う」
「それでは俺は不意打ちを食らわなかっただけ増しという事か?」
「そうだな。タイミングを見いだせなかったのだろうな。と言うか逆に言えば、このようにゲリラ戦の様相を呈した場合、敵地に赴けば、やはり不利な戦況に陥るのが分かった訳だ。不意打ちを食らわなかった事は僥倖と言えるだろうな…」
「しかし、相手が仕掛けて来なければ、こちらが仕掛けるしかないではないか。違うか?」
「それはそうだが、不可抗力でこちらから攻勢をかけるにしても、もう少しリスクを減らす別のやり方を考えなければならないだろうな…」
「別のやり方とは?」
「相手に気取られない、別のやり方だ…」