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恋愛実践録136
「熱も下がったし、これで心配無いわ」と妻がホスト亭主に言った。
家族全員が底無し沼に足をとられ、引きずり込まれて行く。
足掻こうがもがこうがどうあっても出る事が出来ない。
「パパ、助けて!」
悲痛に叫び声を上げる娘に腕を伸ばし、何とか助けようとするのだが、泥に縛られている手足は全く動かない重い鉛のようだ。
「ああ、このまま家族全員死ぬのだな…」とホスト亭主が覚悟を決めた直後、隣でもがいていた妻が急に満面の笑みを浮かべ、ホスト亭主の手を掴み強く握って来た。
ホスト亭主がその手を握り返した瞬間、ホスト亭主は重い瞼を開き、死地から生還するように眼を覚ました。
妻がそんなホスト亭主の顔を覗き込むような仕種をした後言った。
「熱も下がったし、これで心配無いわ」




