恋愛実践録13
「惚れていない、惚れていないと、お前は自分に言い聞かせれば、言い聞かせる程に逆効果だと思うが、それはどう思う?」とホスト亭主はベッドの上で自問自答を繰り返している。
「お前はあの女に金で買われたのだから、その金額に見合った享楽及び営業恋愛を施せばいい。それがプロたるお前の役割ではないか。違うのか?」
「そんな事は重々承知の上だ。第一あの女は善人ぶっているが、陰で、金にあかしてどれだけの男を手玉に取り、騙しているのか分からない性悪女だからこそ、夫にも愛想尽かされて引導渡されたんだ。そんな性悪女に俺はけして惚れたりはしない。それだけの話しさ」
「だが本音をひたすら隠す小悪魔的な悪女に男は弱くイチコロだからな。お前も既にあの女の手の平の上で転がされているからこそ、心そぞろに乱れてしまっているのではないのか?」
「うるさい。俺はあんな女に断じて惚れてはいない。それだけだ!」
「あの女は確かに寂しい女だ。だが寂しいのは人間皆同条件と言える理ではないか。それにあの女はお前の幸せを妬み、憎悪を向け、寂しさを伝染させて、お前の心を乱し、散り散りにして、不幸のどん底に陥れようとしている食わせ者ではないか。違うのか?」
「分かっている。分かっているから、少し黙っていてくれないか?」
「惚れていない、惚れていないと、お前は自分に言い聞かせれば、言い聞かせる程に逆効果だと思うが、それはどう思う?」
「その言葉を自分に言い聞かせるしか、この局面を乗り切る手は無いではないか。それ以外一体何があると言うのだ?!」
「他の客と同じように扱い、プロ意識に徹する。それしか道は有るまい?」
「そんな事は分かり切っている。少し黙っていてはくれないか?」
「人の心と言うのは己の思い通りに転がぬもの。それは重々承知した方が賢明だぞ…」