恋愛実践録121
そして又流れ出した涙を、客は悔し涙だと怨嗟燃えたぎる心で断じ、決するように手の甲でふっ切り、拭った。
客の電話にも見知らぬ者から(お前の愛しい者達は皆殺しだ)というメールが届いた。
客はそのメールを見ても、事前に予測していた範囲内の事なので別段うろたえる事もなく、そのメールを保存してから電話をテーブルの上にそっと置き、立ち上がって食事の準備に取り掛かる。
キッチンに入り、習慣付いた行いの本に、食材を冷蔵庫から出し、レシピ通り調理して行くのだが、そこで一旦客は手を休め、思い付いたように独り言を呟く。
「作るのは一人分よ…」
そう呟いてからもう一度調理する手を動かし始め、一人が食べる分量を作って行きながら、眼に一杯の涙を浮かべ、それを手の甲で順番に拭いそぞろ考える。
この涙は家族を失った寂しさに流れ出したものではなく、愛しい人に会えない寂しさが、涙となって流れ出したものだと。
そして再び一人分の食事を調理しながら、客は思う。
愛しい人に会えない、その寂しさと悲しみの分量を、そのまま愛人に対する尽きる事の無い怨嗟怨念に変え、その思念をひたすら愛人に送ろうと。
そして又流れ出した涙を、客は悔し涙だと怨嗟燃えたぎる心で断じ、決するように手の甲でふっ切り、拭った。




