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恋愛実践録117
屋上に上がったボディーガードの元リーダーは「あばよ」と呟いた。
永眠。
その字義通り死ぬならば、眠るように死にたいと、元ボディーガーのリーダーは考える。
自宅マンションの屋上。
非常階段を昇って、屋上に上がった。
微風が頬をくすぐるように当たり、それが妙に心地好い刺激となり、死への恐怖感は無い。
死ねば全て無に帰すと人は口々言うが、無に帰す事が永遠なる眠りならば無も悪くはないと元リーダーは考える。
熱い涙が溢れるままに、家族と離別する悲しみに嗚咽した後、元リーダーは天空を仰いだ。
夕焼けの景色を眼に焼き付けるように凝視して、一度涙を拭い、鼻をすすり上げてから泣き止み、呟いた。
「あばよ」




