恋愛実践録102
戦いはまだ始まったばかりであり、油断は絶対に禁物だとボディーガードの長は自分に言い聞かせた。
しかしと長は考える。
人間に完璧は有り得ないのだと。
どんなに巧妙に演技しても、あらぬ角度から意外な事柄が勃発して、馬脚を顕してしまう可能性も否めないのだ。
そして以前よりも愛人は数段猜疑心が強くなっている。
誰も信用していないと言っても過言ではない。
その猜疑心の本に裏切り者を探索突き止めるプロを極秘裡に雇い入れる可能性もあるのだ。
世の中には並外れた洞察力を持つ、各セクションのプロフェッショナルがいる。
その者の洞察力にかかったら、自分の猿芝居など簡単に見破られてしまうに違いない。
そして不安材料はまだある。
自分の知らない内通者が他にもいる可能性だ。
策士、策に溺れるではないが、その者が先走り策に溺れ罠にかかれば、一網打尽になってしまう危険性も当然孕んでいるのだ。
人の背中に眼は無い。
万全を期していても、死角を突かれれば、策は簡単に崩れ去ってしまう。
戦いはまだ始まったばかりで、その危うい渦中に己はいて、リスクは常に隣り合わせにあり、油断大敵である事に変わりはないのだ。
そう長は自分に言い聞かせた。




