恋愛実践録10
「一家離散直前の私は家族全員揃い幸せでいる貴方に、私の寂しさを伝染させて、困らせているのですよ。そしてもう一つ言わせて貰えば、私は貴方に宣誓を守るべく逆にエールを送っているわけです。その意味は分かりますか?」と客は言った。
客が続ける。
「私は今お金で買った擬似恋愛の対象たる貴方に憎悪を向けているのは分かりますか?」
ホスト亭主が眉をひそめ答える。
「いえ、言葉のニュアンスが分かりません」
客が敵愾心を顕にしながら言った。
「一家離散直前の私は家族全員揃い幸せでいる貴方に、私の寂しさを伝染させて、困らせているのですよ。そしてもう一つ言わせて貰えば、私は貴方に宣誓を守るべく逆にエールを送っているわけです。その意味は分かりますか?」
ホスト亭主が首を振り答える。
「すいません。自分には言葉のニュアンスが伝わって来ません」
眼を充血させきつい顔付きをした客が続ける。
「貴方に一家離散の経緯、その寂しさの境遇と言う不幸の種を植え付け、貴方を苦しめ困らせようとしている私なんかに金輪際惚れてはならないと、私は提案しているのですよ。それは取りも直さず、私と貴方が交わした宣誓を遵守して欲しいと言う提案でもあり、私の言葉は矛盾しているかもしれませんが、憎悪としてのエールであり、あくまでもこの擬似恋愛は遊びだと言う事を念押ししているのです」
ホスト亭主が深く深呼吸してから言った。
「あくまでも宣誓通り、遊びに徹しろと言っているのですか?」
客が頷き答える。
「そうです。その宣誓を守ってくれなければ、私はもうこの店には来ません」
ホスト亭主が恭しく頷き言った。
「分かりました」