恋愛実践録1
少しばかり編集に失敗しましたm(__)mホスト亭主の浮気騒動に於ける苦悩懊悩を描きます。よろしくお願いします。m(__)m
1
美しい浮気?
そんなものは無いとホスト亭主は考える。
自分が子供の父親であり、一家の大黒柱たる夫ならば、それが仕事であろうが何であろうが浮気には変わりないとホスト亭主は考える。
仕事の上での純愛恋愛ゲームはあくまでも成り切りゲームであり、プライベートに立ち返れば、演技をしている自分に対する自己嫌悪、罪悪感しかない。
その埋め難いギャップとジレンマにひたすら苦悩懊悩している自分が常にいるのに、腐れ縁とも云えるこの仕事を辞める事が出来ず、ホスト亭主の心は泣き笑い、常時苦悩している。
今、一番気掛かりな客は人妻だ。
その人妻は夫の浮気性に悩み、それを悩み事としてホスト亭主に打ち明け、ホスト亭主は自分の身をおもんばかるように相談に乗っている内に恋に落ちた。
その客が言う。
「私なんか夫にとっては単なるお飾り、最愛の人はいつも愛人だから…」
その言葉にホスト亭主は己の罪悪感を刺激され恋に落ちた。
妻よりも愛した客は十指に余る程いて、妻に対する罪悪感の本にその女性達と断腸の思いで離別して来た罪悪感は、妻に対する罪悪感と共に最愛の人達に別れを告げた、その罪悪感、二つを心の中で紡ぎ、構成している事実にホスト亭主は悩みのままに立ち尽くす。
子供を慈しむ慈母たる妻を誰よりも愛している事は紛れも無い事実なのだが、一人の女性として最愛であるのかと自問自答して行けば、到底それはなく、その心の本音とも云えるジレンマが、ホスト亭主の心を散り散りに悩ませている。
ホスト亭主は客に言った。
「それじゃ、貴女はそんな浮気性の旦那さんでも今でも愛しているから、嫉妬しているわけですね?」
客が答える。
「そうですね。それは認めます。だから私はその憎しみと云うか、腹いせにここに来て、こうして旦那の事を論い、悩み事を相談しているのですから…」
ホスト亭主が頷き営業スマイルを浮かべ、言った。
「それじゃ、貴女は自分に成り切りゲームの擬似恋愛を持ち掛けているのですね?」
客が相槌を打ち、答える。
「そうですね。私は擬似恋愛をして旦那に意趣返しをしたい、それだけを願っているのかもしれません…」
ホスト亭主がハイボールのお代わりを作り、おもむろに言った。
「ならば条件は自分も貴女と全く同じです。営業上の擬似恋愛に自分は没頭しますが、けしてプライベートを冒すような本気恋愛はしません。それは貴女も承知の上でこの擬似恋愛を楽しみましょう。出来ますか?」
客がホスト亭主に尋ね返す。
「それは私にけして本気になるなと言っている事なのですね?」
ホスト亭主が断言する。
「そうですね。お互いに本気にならないと云う不文律の本に、誓い合いましょう?」
「分かりました。大人の恋に徹する事ならば、私誓います」
その言葉を聞いた直後ホスト亭主が宣誓をするように手を挙げ、それに倣い、客も手を挙げたので、二人は意気投合するように声を揃えて笑い合った。
そして営業が引けた後、二人はリムジンでの夜景を愛でるドライブ愉しんだ後、閨を共にした。
客の鍛え抜かれた官能は緩急自在、技術的にも正に大人のそれであり、溢れる蜜に塗されて、その押し寄せるエクスタシーに溺れるが如く性交に二人は埋没して行き、めくるめく一夜を過ごし、その寝物語を交わす。
手入れの行き届いた肢体を惜し気もなく見せながら、客が言った。
「貴方の浮気は営業上で鍛え抜かれた浮気ならば、絶対に本気にならない指数のところで私も絶対に負けません」
その言葉にホスト亭主が乳房を揉みながら短く笑い言った。
「本気恋愛指数の争いならば、自分に勝てる相手はいません。お望みとあればとことん闘い抜く所存です」
客がホスト亭主を上目遣いにねめ付ける形を取りながら、挑発するように告げる。
「プライベートとこの擬似恋愛を分け、二つの心を持ち、擬似恋愛に徹する事を誓う貴方の心を、私の二心としての性交力は打ち破り、貴方をきっと本気にさせて見せます!」
乳房から手を離し、ホスト亭主が軽くキスをした後、言って退ける。
「貴女こそ自分の性戯に溺れ、その両刃の剣のようなエクスタシー変身して、自分に惚れないように警戒怠りなくお願いいたします」
客が小悪魔のように微笑み言った。
「貴方は悪魔ですね?」
ホスト亭主が返す。
「貴女こそ」
2
昼夜逆転の生活を送っているので、ホスト亭主は夕暮れに眼を覚まし、シャワーを浴びて酒を抜く為にスポドリを飲んでいるところに買い物から帰って来た妻が物憂い感じで切り出し話し掛けた。
「昨日の夜、あの子が、お父さん生活の為にお母さん以外の人と浮気してお金稼いでいるのと尋ねて来たのよ。私はそんな事お父さんがするわけが無いじゃないと言ったのだけれども、あの子私を睨みつけて、本当なのと言って来たの。私は本当よ。嘘を言ったって仕方ないじゃないと押し切ったのだけれども、私どう答えればいいか分からなくなっておろおろしちゃって。だから逆にあの子の不信感を買ったみたいなのよ?」
ホスト亭主がスポドリを一気に飲み干してから答える。
「女の子は早いからな。嘘言わずに本当の事を言えばいいじゃないか?」
「お金の為に浮気していると打ち明けるの?」
ジャージ姿のホスト亭主がおもむろに顎を引き、言った。
「生活の為なのだから仕方ないじゃないと、言えばいいのさ」
妻が腕を組み難しい顔付きをしてから言った。
「あの年頃の子は感受性豊かだから、そう言う大人の都合と言うか常識を説いても割り切れないのよ。変に押し付けると、非行の火種にもなりかねないし」
ホスト亭主が苦悩のままに眉間を指で挟み、ため息をついてから言った。
「ならばお父さんはお金の為に浮気はしているが、本気ではなく、全てお金に勘定して割り切っていると言えばいいじゃないか?」
「そんな事言ったら火に油を注ぐ事になって逆効果じゃない。それじゃあの子にお金の為ならば援交してもいいと言っているのと同じじゃない」
ホスト亭主が辛そうに顔をしかめ言った。
「ならば俺はどうすればいいんだ。この仕事辞めて他の仕事やれと言いたいのか?!」
感情的になるのを抑える為に息を吐き出してから妻が答える。
「そんな事は言ってはいないわ。ただ私はどう言えばいいかを尋ねているだけじゃない。感情的にならないでよ?」
ホスト亭主が妻に対して会釈した後言った。
「すまない。仕事で疲れているんだ。だからもう一度改めて質問に答えれば、お父さんはお金を稼ぐ為に好きでもない女性と毎日お酒を飲み、笑いを売って商売しているのよと伝えればいい。売笑は辛い仕事だから、お父さん大変なのよと、そう伝えればいいさ」
「浮気についてはどう伝えればいいかしら。そこが一番肝心なのだけれども」
「店外デートは店側も強制しているわけじゃないし。同伴してもお客さんと一緒に食事をする程度で、けして浮気なんかしちゃいないさと伝えてくれ」
「一緒に食事をする事もあの年頃の子にとっては立派な浮気になるのよ」
ホスト亭主が天を仰ぐように天井を見詰めてから、妻に視線を戻し言った。
「生活の為だから、それは仕方ないと押し切るしかあるまい…」