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第四章 異形のリリー

東京が、喰われていた。



比喩ではない。東京にあるたくさんのビル、店、住宅のあちこちが、大きくえぐれているのだ。



それは巨大な歯形だった。





夕方、一人の中年の男が、道に散らばった建物の残骸、コンクリートの破片を乗りこえながら、必死で逃げていた。

泣いていた。鼻水を流していた。服がぼろぼろになっていた。ズボンの股間の部分が濡れていた。小便をもらしていた。力の無い、ふらつく足取りで、走っていた。



……ずずっ



巨大な、何かをひきずるような音が響いた。

その音と同時に、地面が揺れた。



「ひぃぃっ……」



男は前のめりに転んだ。そのまま、はいずりながら、逃げようとした。



……ずずっ




……ずずっ




……ずずっ、ずずっ、ずずっ




何かをひきずる音は、どんどん大きくなっていった。

それにあわせて、地面の揺れも大きくなってゆく。



「ひっ、ひっ、ひいい」



男は顔をくしゃくしゃに歪ませながら、思わずふりかえってしまった。すぐにふりかえったことを後悔した。



五百メートル後方にある、十階建てのビル。その後ろに隠れるような形で、それはいた。



巨大な存在。



それは、大音量の、かわいらしい女の子の声で言った。



「このビル、邪魔ね」




ばくんっ




一瞬だった。

その巨大な存在は、十階建てのビルを一口で喰らった。

そして、口の中で、よく噛んだ。ビルのコンクリートの、鉄柱の、硝子窓の噛み潰されてゆく凄まじい音がした。まるで爆音のようだった。

ビルが無くなり、その巨大な存在の姿が丸見えになった。



異様な姿だった。



それは、かわいらしい少女の顔をしていた。十二歳くらいの、黒人の少女だ。

ただ、その顔の大きさが異常だった。縦の長さが、先程喰らった十階ビルと、ほぼ同じだった。

しかし更に異様なのは、首から下の胴体だ。そこは、まるで蛇のような形をしていた。長いホース状の胴体が、一キロ近くの長さで廃墟の上に横たわっていた。

それは大腸だった。

少女の巨大な顔の首から下には、薄桃色の、長大な大腸が生えていたのだ。それは分泌液で、ねちゃねちゃと濡れていた。



ジュオームチルドレン・リリー。



それが、この怪物の名前である。





ジュオームエネルギーを浴び、変化する前は、十二歳の黒人の少女だった。

ヘンリーが人面手首とするならば、このリリーの姿は人面大腸と呼ぶべきだろうか。



リリーは噛み砕いたビルを飲み込むと、男を見下ろした。目があった。



「ひっ、ひいいいいいいいいいいっ!!!」



男は絶叫して立ち上がり、再び走りだした。



しかし、二、三歩足を踏み出した時だ。



急に体が、宙に浮き、ぐるんと回転したかと、思うと、突然周囲が闇に包まれた。



「……え?え?え?」



男は混乱した。

気がつくと、真っ白な岩のようなものの上に乗っかっていた。

突然の闇で、一寸先も見えなかった。

物凄い異臭がした。男は顔をしかめて鼻をおおった。

少しして、闇に目が慣れてきた。

真っ白な岩のようなものは、男が乗っかっているものの他にも、横一列にたくさん並んでいた。

その下に、ピンク色の、濡れた柔らかそうな地面が広がっていた。それは、ぐねぐねとうごめいていた。

まわりを見渡して、男は気付いてしまった。



「………あ、ああ、ああああああああああっ!!」



ここはあの怪物の口の中だ。この真っ白な岩のようなものは巨大な歯だ。ピンク色のぐねぐね動く地面は巨大な舌だ。

いつの間にか、食われていたのだ。

さっき逃げようとしたとき、リリーは一瞬で男に追いつき、男の体を口にふくんだのだ。

ごおっと、上から何かが降ってきた。

それは、真っ白な岩のようなもの。

巨大な上の歯だった。

男の肉体は、巨大な歯に挟まれ、噛み潰された。



「ぎゃぎっ、ぎぎぎぎっぎゃあああああああああああああああああああっ!!!ぎぎゃあああああああああああああああああああっ!!!!ぎゃあああああああああああああああああああっ!!!」



挟まれた巨大な歯からはみだした上半身を、痙攣させた。激しくばたつかせた。腕を振り回した。血をべしゃべしゃと吐き散らした。

上の歯があがっていった。一噛み目が終わったのだ。男の下半身の肉は、ぶちゃぶちゃに潰れていた。男はなぜかぼんやりともんじゃ焼きを思い浮かべた。

すぐに二噛み目がきた。

上の歯が降ってきた。

今度は悲鳴をあげる間もなく、男の頭はあっさりと噛み潰された。



リリーはどろどろの肉片になった男の体を飲み込むと、かわいらしい笑顔を浮かべて、唇についた血をなめた。




あの日、大量のジュオームを浴び、変化した自分の体を見たとき、リリーは絶望した。

異様に膨れ上がった頭。その首から下には、両腕も無く、両足も無く、胴体も腰も無くなっていた。

長い長い大腸だけが生えており、汚らしくぬらりと輝いていた。



「何これ……、何これ!?いやだ、いやだ、いやだよおっ!」



顔を青くし、泣き叫びながら、その丸出しになった長い大腸を振りまわした。どごんどごんと、土煙があがった。



「何が嫌なんだい?」



そのとき、やさしい声がかけられた。



リリーの目の前をひとりの少年が、浮かんでいた。



白髪の美少年。



ルークスだった。



ルークスは、リリーの巨大化した顔をそっとなでた。

リリーは、少し落ち着いてきた。



「何が嫌なんだい?」



ルークスはもう一度聞いた。

リリーは鼻水をすすりながら答えた。



「だって、だって、こんな格好になったら、わたし、いろんなひとに、化け物扱いされちゃう。嫌われちゃう。みんなにいじめられちゃう。きっと何かの研究の対象とかになって、さっきみたいに痛いことされちゃう」



巨顔を震わせた。



「大丈夫だよ」



「え?」



「大丈夫。こんな姿になっちゃったけど、その代わりに、僕達は凄まじい力を得ることができた。もう、誰も、僕達をいじめたりはできないよ」



「……本当?」



「ああ、本当さ。僕達は、もう、弱い子供なんかじゃない。超常エネルギー体、ジュオームの力を身につけた、そう、ジュオームチルドレンだ。僕達は、今、限りなく自由なんだよ」



「……自由?」



今まで不自由な思いしかしてこなかったため、リリーにはルークスのその言葉が、いまいちピンとこなかった。だから、不安はまだ消えていなかった。



「でも、でも、私達みたいな化け物を見たら、大人の人達は、私達をこ、殺そうとするよね?」



「だろうね。でも殺せやしないよ。自分の体をよく見てごらん。ほら、ジュオームの力が満ちているだろう?」



リリーはうなずいた。

確かに、とてつもない力が、体内にみなぎっているのを感じる。

それでも、不安は消えなかった。



「でも、でも……」



「人間が、怖いんだね?」ルークスは、あわれむようにつぶやいた。「気持ちはよく分かるよ。僕も、物心ついた頃から、まわりには残酷な人間しかいなくて、毎日いたぶられて、いたぶられて、いたぶられて、生きるのが怖くて、でも生きるたくて、………地獄だった」



「…………」



「君も、似たような人生を送ってきたんだろう?だから、ジュオームの力を得ても、人間が怖いんだよね?」



「……うん」



リリーはうなずいた。



「じゃあ、滅ぼしちゃおうよ」



ルークスは、にっこりと笑って言った。



「え?」



「人間を滅ぼしちゃおう。地球を、僕達ジュオームチルドレンだけのものにするんだ。そうすれば、もう誰も君をひどい目にあわせたりはしなくなる」





そうして、ジュオームチルドレン達は、破壊と殺戮を始めた。



リリーは、最初は人間に対する恐れをかかえていたが、様々な街を破壊し、たくさんの人間を喰い殺してゆくにつれて、その恐れはあっさりと消えていった。



自分の口の中で、噛み潰され、悲鳴をあげるたくさんの人間の味を感じながら、思った。

なんだ、人間ってこんなに弱いんだ。こんなに小さいんだ。ゴミ虫みたい。まるでゴミ虫みたい。わたし、こんなのに怯えてたんだ。馬鹿みたい。馬鹿みたい。



恐怖心が、消えると、強い欲望がわいてきた。



それは食欲だった。



まだ人間だった頃、リリーはいつも飢えていた。家が貧しかったため、毎日ろくな食事がとれなかった。

その身を売られたあとも、劣悪な環境で働かされ、満腹になったことなど一度も無かった。いつも、胃袋がひりひりと痛むくらい空腹だった。全身がガリガリに痩せ、腹部だけが丸く膨らんだ。



アメリカの八乙女研究所でジュオームを浴びたとき、凄まじい痛みの中、こんな問いかけが聞こえた。




君の望みは、何だい?





リリーは心の中で叫んだ。




食べたい。食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたいっ!!





思いきり食べたいっ!!!



そしてジュオームは、リリーの体を巨大な人面大腸へと変えた。



それは、まさに「食べる」ことに特化した肉体であった。体のほとんどが消化器官。リリーはどんな物でも、おいしく食べられるようになった。

人間だろうと、ビルだろうと、地面だろうと、森だろうと、どんなものでも喰らい、消化し、栄養にした。

毎日毎日、満腹になるまで、たくさんの人間を食べた。たくさんの建物を食べた。リリーは幸せだった。















「臭いがするわ。まだ人間の臭いがする」



男を飲み込んだあと、リリーはまわりを見回しながら、鼻をひくつかせた。

まわりには、リリーが食べ散らかした東京の廃墟が広がっていた。



「すぐ近くね。人間の臭いがする。大人の男が三人と、…………小さな女の子」



リリーがいる位置から、五百メートルから離れた場所、倒れたマンションの陰に、一台の大型車が隠れていた。



八乙女研究所の輸送車である。



中には、八乙女研究所の男性所員が三人と、ミチが乗っていた。

ミチは無表情で、後部座席に座っていた。腕には、小さな熊のヌイグルミを抱えていた。誕生日、父が八乙女タツミと会った日に、仕事の報酬としてタツミに買ってもらったものだ。かわいいので気にいっていた。

それに対して、所員達三人は、顔を真っ青にして震えていた。





……ずずっ



……ずずっ



……ずずっ




音が、近付いていた。



あの巨大な化け物、大腸に人の顔がついた化け物、ジュオームチルドレン・リリーが、こちらに向かって体をひきずっていた。



所員達はささやきあった。



「おい、まだ距離があるうちに、全速で車を走らせて逃げたほうがいいんじゃないか?」



「バカ、逃げきれるわけないだろう?道路のほとんどはアレにぶっ壊されてるんだ。すぐに追いつめられる」



「そうさ、このまま、アレが通り過ぎるのを待つしかない」



三人共、恐怖のあまりにこみあげる吐き気を必死でこらえていた。



「大丈夫だよ」ミチが言った。「このまま、じっとしていれば、大丈夫。お父さんが、絶対に助けにきてくれる」



確信を持った口調だった。



三人は、不気味なものを見る目つきで、ミチを見下ろした。こんな状況で、どうしてこの六歳の少女はこうも落ち着いていられるのか?頭がおかしいのではないか。



その時、大音量で、女の子の声が響いた。



「あれええ?このあたりなんだけどなああ?」



輸送車が巨大な影に包まれた。



三人はいっせいに息を呑んだ。



巨大なリリーの顔が、輸送車のすぐ横にあった。

水音がした。助手席に座っていた所員が小便をもらしていた。ミチが身をかがめて隠れた。はっとして、三人もそれに習って伏せた。これで彼等の姿は、窓から見えないはずだ。

リリーの視線は、輸送車を見ていなかった。ミチや所員達には気付いていないようだった。



「おかしいなあ?わたしの勘違いだったのかなあ?」



そのままリリーは、輸送車の横を通り過ぎていった。




……ずずっ



……ずずっ



……ずずっ




気の遠くなる時間だった。

リリーの胴体部分である大腸の長さが約一キロメートル。

それだけの質量が輸送車のすぐ横を通り過ぎるのを、ミチと所員達は息を殺してじっと待っていた。



そうしながら、三十分くらいたっただろうか。




……ずずっ



……ずずっ



……ずずっ




リリーの体をひきずる音は、だいぶ遠くまで離れていった。

そこで、所員達は顔をあげた。



「……行ったか?」



「……ああ、もう姿は見えない」



三人は大きくため息をついた。



「助かった」



車内の空気がゆるんだ。



「ああ、くそ、おれびびって小便ちびっちまったよ」



「無理ないさ。あんなのが目の前にあらわれたらなあ」



「それにしても、すごいなあ、君」後部座席にいた所員がミチを見下ろして言った。「あんな状況でも泣きださないなんて。正直おじさんのほうが泣きだしそうだったよ」



ミチは、足をぶらぶらさせながら言った。



「お父さんと一緒に暮らしてて、何度か危ないことがあったから、怖いのには慣れてるの」



「へ、へえ」



「さ、さすが、あの破藤豊作の娘さん」



車内になごやかな笑い声が響いた。







その時だ。








「見いつけた」









リリーの声がした。









……ずずっ



……ずずっ



……ずずっ



……ずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずずっ!!!!!





ひきずる音がすごい勢いで近付いてきた。



突風と共に凄まじい量の土煙があがった。地面が揺れた。大量の土砂が、ばちばちと輸送車の窓ガラスに当たった。

輸送車が大きく揺れた。車内にいた全員が硬直した。混乱した。何が起きたのか分からなかった。



やがて土煙が晴れ、窓の外の景色がはっきりと見えた。



車内にいた全員が、絶望した。



瞳孔が。

輸送車よりも大きな黒い瞳孔が、車の中を覗いていた。



リリーの目だ。巨大な顔を地面に押しつけるようにして、車内にいる四人を見つめていた。

笑っていた。



「きゃはははははははっ!きゃはははははははっ!安心したっ!?安心しちゃったあっ!?残念でしたあっ!わたしはとっくにあなた達を見つけてたの!ちょっとからかってあげよう思ってねえ!きゃはははははははっ!」



リリーは通り過ぎたと見せかけて、すぐに振り向き、凄まじいスピードで戻ってきたのだ。



「きゃはははははははっ!!きゃはははははははっ!!……じゃあ、食べるね」



「う、うああああああああああああああっ!!」



運転席にいた所員が、泣き叫びながらハンドルを握り、思いきりアクセルを踏んだ。



輸送車が走りだそうとしたときだ。



突然、周囲が闇に包まれた。



「え?」



所員は驚いて、思わずアクセルから足を離した。



「な、なんだよ?何がどうなってんだよ?」



助手席の所員が、震える声でつぶやく。



「……食べられちゃったみたいね」



ミチが言った。







「え?」



運転席の所員が、車のライトをつけた。光に照らされて、周囲の風景が見えるようになった。

前方に、真っ白な岩のようなものが、横一列にたくさん並んでいた。車の下には、ピンク色のやわらかそうな地面が、広がっていた。



巨大な歯と、巨大な舌。



ここはリリーの口の中だ。




「あ…あ…あ…」



所員達は、悲鳴をあげる気力すら失った。壊れた機械のように、体をふるわせはじめた。

ミチも、さすがに顔を青くしていた。



「食われるのか……?おれ達……食われるのか……?」



「嫌だ……。嫌だよお……」



その時、闇の中に光が射した。

リリーが、少し、口を開いたのだ。

輸送車の前方、並んだ歯と唇の向こう側に、外の景色が見えた。



「やった!……で、出られるぞ!」



三人の所員はいっせいに輸送車のドアを開いた。



「待って!何かおかしいよ!」



ミチがあわてて所員のひとりの足をつかんだ。なぜリリーは口を開いたのか?



「うるせえ!離せ!クソガキ!」



その所員は、ミチを突き飛ばすと、車の外に飛びだした。他の二人もそれに続く。舌の上に乗ると、三人は口の外に向かって駆けだした。



「がっ!?」



その時、三人の足に激痛が走った。三人は、下を見て、それぞれ絶句した。

足が、溶けだしていた。

三人の足が、白い煙をあげながら、どろりと溶けているのだ。




リリーの唾液は、とてつもない濃度を持った強酸だった。ジュオームも入り混じったその唾液は、鉄をも溶かし、消化することができる。



三人の所員達は、ミチの目の前で、激痛に苦悶しながら溶けていった。



「痛い痛い痛い痛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!いだだだだだだぎゃああああああああああああっ!!」



「えぐっえぐっえぐっぐべべべべべぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



「た、た、た、たたたたたたたた助けでぇああああああああやだぎゃあああああああああっ!!」





やがて悲鳴がやんだ。



リリーの舌の上で、肉色のねばついた水溜まりが三つできていた。これをしたいがために、リリーは口を開き、所員達を惨死へと誘ったのだ。



ミチの目に、涙が溜った。



車の下から、しゅうう、と音がした。どうやら、輸送車のタイヤも溶けだしているようだ。このままでは車体が溶け、中にいるミチも……。



「お父さん……」ミチはつぶやいた。「助けて、お父さん」



熊のぬいぐるみを握りしめる。



「あなたは逃げないのね。つまんないの」



リリーの声が響いた。声と同時に舌がぐねぐねと動き、輸送車が大きく揺れた。

ミチは座席にしがみつき、外へ転がり落ちないようこらえた。



「まあ、いいわ。噛みつぶしてあげるから」



リリーは舌を器用に動かして、輸送車を巨大な歯の上にのせた。



ミチはもう限界だった。



「……お父さんっ」



上の歯が降ってきた。

輸送車は歯に挟まれた。

べこっと音がして、輸送車の天井板が内側に向かってへこんだ。

ミチは、思いきり泣き叫んだ。



「助けてぇぇぇぇぇっ!! お父さぁぁぁぁぁんっ!!」





「ミチィィィィィィッ!!!」





輸送車の通信機から、野太い怒鳴り声が響いた。





その時、空から東京タワーが飛んできて、リリーの右目に突き刺さった。



血が飛び散った。



突然あらわれた巨大な質量による激痛に、リリーは呆然とした。



口から力が抜け、くわえていた輸送車を外に落とした。



輸送車は落下し、地面にぶつかった。すると、車内に設置されていたエアバックが大きく膨らみ、座席にいたミチの体を落下の衝撃から守った。



リリーはまだ呆然としていた。



「ちょっと……、何……、これ……?」



混乱する頭を無理矢理落ちつけようとしたときだ。






ドグォッ






凄まじい圧力が、

圧倒的な圧力が、

破壊的な圧力が、

突然、横殴りに衝突してきた。




リリーの巨体が、遥か遠くへ吹っ飛んでいって、見えなくなった。






輸送車の通信機から、野太い声がした。



「ミチっ!大丈夫かっ!ミチっ!」



ミチは我に返った。その声を聞いて、再び目に涙を浮かべる。



来てくれた。やっぱり助けにきてくれた!



「お父さんっ!」



「ミチっ!……よかった。無事だったんだな。……よかった。よかった、よかった……!」



その声、破藤豊作の声は、涙交じりになった。



「お父さん!いまどこにいるの?」



「何言ってんだ。すぐそばにいるじゃないか。お父さんはいま、車の前の『それ』に、乗っているんだ」



ミチは、ゆっくりと窓から外を見た。



輸送車の前に、見上げるほどの巨大な機体が、どっしりと立っていた。

それは猛牛のような形をしていた。四足で立つ、野獣を模した機体だ。

頭部に、頑とした感じの長い角が二本ついている。

全身が黄土色に包まれていた。

太い機体であった。

頭が太い。

角が太い。

首が太い。

胴が太い。

足が太い。

二つの目を模したカメラアイも太い。

いまにも、地面が割れ、沈みだしそうな、そんな重量感を感じさせる機体であった。

この機体が、いまさっき、あの体長一キロメートルもあるリリーを、遥か彼方まで吹き飛ばしたのだ。



「ラザガ我王っていうんだ」



豊作が、自慢げに言った。







三十秒前、ラザガマシン三機は、東京に着いた。



レーダーで、ミチの乗った輸送車が、リリーの口の中にあることが分かると、破藤豊作はすぐに叫んだ。



「ラザガァァァァァッ!!チェェェェェンジッ!!」




ラザガマシン三機は、空中で一列に並んだ。



修羅号は、腹部に変形した。



残酷号は、下半身に変形した。



我王号は、上半身に変形した。



そして、ラザガは合体した。




巨大な機械の猛牛が、地響きを立てながら着地した。



豊作が、野太い声で叫ぶ。



「チェェェェェンジッ!!ラザガ我王!!」




ハイテンションチェンジシステムは、その時、最も戦闘意欲の高かった、破藤豊作の機体、「我王」にあわせて姿を変形させた。







「ミチィィィィィィッ!!」



変形してすぐに、豊作は動いた。



ラザガ我王は、側にあった東京タワーに向かって走ると、勢いよく頭部の角を突き刺した。そして強く首を持ち上げた。



グギッギギギギィィィ………バキキッ………バキッ



凄まじい音響と共に、東京タワーが地面から剥がされ、ラザガ我王の頭上に持ち上げられた。



コンクリートの大きな破片が、大量に地面に落下し、車や建物を潰してゆく。



「うおおおおおおおおっ!!」



ラザガ我王は、首を大きく降って、東京タワーを投げた。



ごおっと突風を巻きあげながら、東京タワーは矢のように飛び、リリーの右目に突き刺さった。



ラザガ我王は、呆然とするリリーに向かって走り出した。



豪音。

豪音。

豪音。

豪音。

豪音。



ラザガ我王が地面を蹴る度に、ダイナマイトが爆破したかのような土煙が上がった。機体が地面を蹴ったあとには、いくつもの巨大なクレーターができていた。

ラザガ我王が走る風圧で、いくつものビルの窓ガラスが全て一気に割れ、地面に降り注いでいった。



ラザガ我王は、リリーに体当たりを喰らわせた。



一キロ以上の巨体が、一瞬で、遠くへふっ飛ばされた。






ここまでが、三十秒である。







リリーは遠くまで飛ばされ、落下した。



体長1キロメートルの人面大腸の巨体が、地面に衝突し、地響きが起きる。



「っ痛・・・・・・ここは?」



東京タワーの刺さった右目から血を流しながら、リリーは周囲を見渡した。



そこは、ゴミの山の中だった。大量の粗大ゴミが、広範囲にわたって積み重ねられている。



ここは第三夢の島。



東京湾の海上に埋め立て建設されたゴミ集積用の土地である。



ラザガ我王に吹き飛ばされて、さっきいた場所から30キロ以上の距離を飛んでしまったようだ。



「・・・・・・あれが、ラザガ。ヘンリーちゃんを、殺したやつ・・・・・・」



リリーは眉間にシワをよせた。



「油断しちゃったわ。いきなり襲ってくるなんてね。・・・・・・まあ、いいわ。まずこの傷をなんとかしないと」



そう言ってリリーは、目の前に積み上がる大量の粗大ゴミにかぶりついた。プール一杯分のゴミをリリーは一口で口に含み、ゆっくりと咀嚼し、飲み込んだ。



しばらくすると、異変が起きた。リリーの右目の肉がぐちゅぐちゅと蠕動したかと思うと、刺さっていた東京タワーが抜け落ち、その下から、新しい眼球がにちゃっと生えてきたのだ。



これが、リリーの能力だった。



リリーの首から下の巨大な大腸は、ジュオームエネルギーにより、異常進化していた。リリーの大腸は、食べたものを有機無機関係なく、どんな物質でも栄養に変え、その栄養を元にして短時間で肉体を変化させることができるのだ。



リリーは食べたゴミをすぐに栄養に変えて、右目を回復させたのである。



新しい右目を動かしてみながら、リリーはため息をついた。



「・・・・・・さて、反撃といきましょうかね」



にやりと笑い、上を向く。





その時、空から東京スカイツリーが飛んできて、リリーの右目に突き刺さった。





またもや右目を激痛が襲う。怒りに我を忘れ、リリーはスカイツリーを目に刺したまま、歯を食いしばって、空を仰いだ。



左目の視界に映ったのは、こちらへ飛んでくる大量のミサイル。



空を埋め尽くす、ミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイルミサイル。



第三夢の島上空まで来たラザガ我王が、空中から放った小型ミサイル全弾百二十発が、煙を吹き出しながらリリーに迫っていた。



「早く、ミチを抱きしめて安心させてやりたいんでな・・・・・・。さっさと終わらせる」



操縦席で、豊作がつぶやいた。



ミサイルが、雨のごとく、リリーの顔面に降り注いだ。



しかし、爆発は起きなかった。



音も無く、百二十発のミサイルは、リリーの眼前で、全て一瞬で消えたのだ。



豊作は、眉間にしわを寄せた。



ラザガ我王の巨体が着地した。島全体が大きく揺れ、地面が少しかたむく。



リリーは、右目から血を流しながら、笑みを浮かべそれを見ていた。



「何が起きた?」



豊作の疑問に、通信モニターから、雄介が答える。



「ミサイルを、食べたみたいですね。・・・・・・全部」




「ミサイルを?」



「ラザガチェンジっ!!」



策郎がとっさに叫んだ。



ラザガ我王は、三台のラザガマシンに分離した。



その分離によって、リリーが放ったジュオームビームをぎりぎりのところでかわす。



ビームは突風を巻き起こし、雲を吹き飛ばしながら、天に消えた。



ラザガマシン三機は、いったん上空に逃れた。



リリーは舌打ちを漏らしてそれを見上げる。



「ぼやっとしてんじゃねえぞ!オッサン!」



策郎が怒鳴った。



「娘さんのことで、少し冷静さを失っているようですね。いまは戦闘中です。そんなことでは困りますよ」



雄介も、少しいらだった声でつぶやく。



「うるせえ黙ってろ」



豊作は低い声で言った。




その声色からにじみでる怒りの重さに、ふたりは思わず息を呑んだ。



豊作は言った。



「さっさと合体するぞ。我王だ。行くぞ」



「ちょっと待ってください。一旦ラザガ残に変形して、様子を見ましょう」




雄介の言葉に、策郎が噛みついた。



「雄介、てめえ、またあの時みたいに、だせえことする気じゃねえだろうな?」



「いまはそんな余裕はありませんよ。相手の攻撃をかわしながら、作戦をたてようと言っているのです。機動速度では、ラザガ残が一番です。どんな予想外な攻撃がきても、よけられる可能性が一番高い。一度じっくり相手の動きを観察しながら、弱点を見つけましょう」



「弱点なら、もう見つけた」



豊作が言った。




「見つけたって、おっさん本当かよ?」



策郎は目を丸くした。



まだ戦いが始まってから、それほど時間はたっていない。こちらの攻撃であたえたダメージはすべて、リリーの大腸による、特殊な消化力によって回復されている。



そんな化け物のどこに弱点があるというのか?



「・・・・・・信じていいんですね?」



雄介が、通信モニター越しに豊作の目を見つめる。



豊作は、うなずいた。



「ああ、すぐに終わらせる」



数秒考えてから、雄介もうなずきかえす。



「わかりました。破藤グループのトップである、あなたの判断にまかせましょう」



「ま、おっさんが大丈夫ってんなら、大丈夫だろ」



策郎がのんきに笑う。





「行くぞ」豊作が、重々しくつぶやいた、「ラザガ、チェンジ」





空中で、ラザガマシン三機は変形した。



修羅号は下半身に、



残酷号は胴体に、



そして我王号は上半身に、



三機は空中で合体した。




地響きをたて、島全土を震動させながら、機械の巨牛、ラザガ我王は、ゴミの堆積した地面に降り立った。その瞬間、ゴミに足をとられてバランスを崩し、横に倒れそうになった。



「おっと」



豊作は、ラザガ我王の前足を動かし、態勢を立て直す。



「くそ、やはり、これ邪魔だな」



無造作に積まれ、たくさんの山を作っているゴミ溜まりを見下ろしながら、豊作はつぶやいた。



ラザガ我王は、前足を高くあげ、いらだちをぶつけるかのように、地面を強く踏みつけた。再び島が揺れ、地響きが鳴る。島の周りの海に、津波のような波紋が広がる。



「・・・・・・この音」



まわりを見回しながら、ふと雄介がつぶやいた。



そのとき、かわいらしく巨大な少女の声が、地響きをかき消した。



「なあに、また牛さん?つまんないのお」



いつの間にか、リリーがすぐ近くまで迫っていた。合体の間に距離を詰められていたらしい。その目が、赤い光をはなっている。



またジュオームビームを撃つつもりのようだ。



「ちょっとまずくねえか?」



策郎が言った。修羅、残とはちがって、我王は陸上での動きがのろい。いま、この至近距離でビームを撃たれたら、よけられない。ラザガチェンジの分離による回避も間に合わない。喰らったら死ぬ。



リリーの目からビームが放たれた。



死ぬか?でも目はつぶらねえぞ。



策郎は前のめりになり、画面越しにリリーの顔をにらみつけた。すると突然、リリーの顔面が下に沈みだした。まるで落とし穴にはまったかのように、ゴミの山の中に、全身がめりこんでゆく。それによって、ビームは狙いを外し、ラザガ我王の角をかすめ、空へと吸い込まれていった。



「ちょっと、な・・・」



リリーはとまどった。突然地面に大きなヒビが入り、胴体の大腸がそこにはまりこんだ。強い揺れを皮膚に感じた。島が、揺れている。




ばき、ばきゃ・・・ずぞぞぞ・・・ばきゃずずず・・・




リリーのいる場所だけではない。島の他の場所でも地面が裂け、ゴミがそこに流れ落ちてゆくという現象が起きている。ふと潮の臭いが強くなっていることに気付いた。ぴちゃぴちゃという感触。地面が海水で濡れていた。裂け目から噴き出しているのだ。





島が、沈没しはじめている。





「破藤豊作、これはあなたの仕業ですか?」



雄介が聞いた。



「まあな」



豊作がうなずく。



ラザガ我王の足元からも、海水が高く噴き出した。地面がひび割れ、かたむく。第三夢の島にいくつも積みあがっているゴミの山が、雪崩を起こしてゆく。



「どういうことだ?」



策郎が聞いた。



「さっきラザガ我王の足で、地面を思いきりぶったたいたろう?あれでこの島全体をぶち割ったんだよ」



「・・・・・・マジかよ。この島、結構でかいぜ」



「おまえがうちの会社で働いている時に教えただろう。自分が使う武器の性能は、しっかりと把握しておけって。ラザガの破壊力なら、これくらいのことは問題ない」



「でも、島なんか壊してどうするんだ?」



策郎の問いに、雄介が答える。



「ほら、前を見てください」



うながされて前を見ると、頭以外を地中に沈ませたリリーの姿が見えた。その顔は青ざめている。




リリーは自分が陥っている危機にようやく気が付いた。りりーの体には、頭と大腸しかない。ただただ食べることだけを望み、ジュオームの力で進化した、食欲の怪物だ。手は無い。足も無い。



このまま海の中に沈めば、この体では泳げない。間違いなく溺れ死ぬ。



混乱して動悸が激しくなる。いくら異形の体を持っているとはいえ、その精神は10代の少女だ。頭の中が真っ白になり、思考が働かない。



やがて瓦礫と化した島とゴミといっしょに、リリーの体は海中に沈んだ。海水とゴミが、泥やコンクリート片が、まるで土石流のような勢いで、鼻の穴の奥に流れ込んでくる。リリーは激しくせき込んだ。しかし呼吸は楽にならず、開いた口からも海水が流れ込み、塩味と人工の汚物の苦みが口いっぱいに広がり、無限に喉に流れ込む。胴体の大腸を蛇のように激しくうごめかせるが、どうにもならない。リリーの体はどんどん暗い海底へと落ちてゆく。水圧で頭が痛い。いきなり訪れた死の恐怖で、リリーは吐いた。今までに食べた、たくさんの消化途中の人間の死体が海中にぶわあっと散らばり、浮かんでゆく。



いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ。



リリーは涙目で周りを見渡した。



突然海中にあらわれたリリーを見て、魚の群れが逃げてゆく。



ああああああ、くそぼけがああああああああああああ、っ目の前で平和にゆらゆらゆらゆらゆらゆら泳ぎやがててててててててて、いや沈む吐く気持ち悪い頭痛い沈む沈む沈むなんでわたしこんなめにあああああああああああああああああああああああああああわたしも魚になれたら魚になりたいあああああいやなれ魚になれえええええええええ




現実逃避な考えを頭に抱いたとき、




急に呼吸が楽になった。




「え?」



水圧による頭痛がすうう、と引いていった。海水の味の不快感も消えている。



何が起きたの?



呆然としながら、自分の体を見て、リリーは驚いた。



胴体の大腸が、びっしりと鱗でおおわれていたのだ。それだけではない、体のあちこちにヒレがついており、視界には入らないが、喉元にエラができているのを感じた。



リリーの体が、魚型になっていたのだ。



説明しよう。先ほど東京スカイツリーに目をつぶされたとき、リリーがゴミを食べることによって自分の目を回復させたことを覚えているだろうか。どんなものでも、食べれば、体つくりのための栄養に変えることができる消化力。それがジュオームによって進化した、リリーの大腸の特殊な能力である。



魚の群れを見たリリーは、混乱する思考の中で、自分も魚になりたいと望んだ。



リリーの大腸は、それに反応し、大量に流れ込んできた海水を栄養源にして、リリーの体を魚の形に進化させたのである。



リリーはしばらくの間、ぼうぜんとしていたが、遠くからこちらに向かう巨大な影に気付いて、我にかえった。



ラザガ我王だ。



どうやらリリーの死体を探しているらしい。













「瓦礫が邪魔だな」



豊作はいらただしげにつぶやいた。



島に長年堆積していた、大量のゴミも、周囲をただよっていて、視界をふさいでいる。数メートル先すら、確認するのも困難な状況だ。



ラザガ我王は、そんな中を潜行しながら、リリーの姿を探し回る。



策郎が言った。

「面倒くせえなあ。おっさん、ミサイルでまわりのゴミ、全部ぶっ飛ばしちまえよ」

「あれを倒したあとも、戦いは続くのです。弾の無駄遣いはやめたほうがいい」

雄介がたしなめると、策郎は舌打ちをもらした。



「でも、このままじゃあ、埒があかねえな。いったん海上に浮上するか」



そう言って豊作は、操縦捍を引いた。



「・・・・・・?」



しかし、ラザガ我王は反応しなかった。むしろ少しずつ沈みはじめているような気がする。



「・・・・・・!」



豊作は目を見開いた。



ラザガ我王の足が、無くなっていた。四肢が、いつの間にかちぎりとられている。



「ちっ、やられた」



状況はまだはっきりとしないが、リリーに気がつかない間に攻撃をされ、足をちぎりとられたようだ。このままではまずい。



「策郎、雄介、一旦分離してこの場を離れ」と豊作が言いかけた瞬間、ラザガ我王の目の前に、巨大な顔面があらわれた。黒人の少女の面。リリーだ。その皮膚は、さっきは無かった分厚い鱗におおわれていた。笑っている。口にラザガ我王の、足を四本くわえている。たくさんの気泡があふれだしている。首元に、エラが見えた。


こいつ、魚になってる?


魚になった姿で、三人に気づかれぬよう接近し、ラザガ我王の四肢を喰いちぎったというのか。



「ラザガチェンジ!」



雄介が叫んだ。ラザガ我王は、三機のラザガマシンに分離した。とにかく一旦離れた方がいい。雄介はとっさにそう判断し、残酷号を、海面に向かってとばした。しかしリリーはそれを見逃さなかった。



「ジュオームビーム」



リリーの両目から放たれた光線が、残酷号を焼いた。操縦席に座っていた雄介は、跡形もなく、吹っ飛ばされた。その死にざまは、彼の趣味に反して味気なく、美しくなかった。



「おらあああああああああああああっ!」



策郎が、雄叫びをあげながら、修羅号をリリーに向かってつっこませた。リリーが大口を開けて、それに喰らいつこうとする。



「ラザガアアアアッ、ミサイル!!」



リリーの喉奥を狙って、修羅号から放たれる10発のラザガミサイル。しかしリリーは一瞬で下へ向かって泳ぎ、至近距離から撃たれたミサイルをかわす。策郎はその動きを目で追うことができず、



がぶしゃっ



下から噛みつかれた。修羅号は火花を上げながら、リリーの口内に吸い込まれ、勢いよく租借される。



がきっちっ、ぼききっ、べきゃあ、ばちばちばちっ、じゅっごごごごごごっ、ばがあああっ



「痛っ・・・何よ?」



リリーは顔をしかめた。口内で、修羅号から這い出した策郎が、唾液で全身を溶かされながらも、巨大な舌の表面に思い切り噛みついたのだ。あふれ出した大量の血液が、策郎の体を沈める。わずかな痛みだが、リリーはいらついた。歯の上で噛み潰してやろうかと思ったが、すでに策郎の肉体は、溶けてこの世から無くなってしまっていた。



リリーは上を見る。そこにはパーツの大部分を食われ、操縦不能となった我王号が漂っていた。































































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