第三章 鋼鉄の島
策郎、雄介、豊作が乗ったラザガマシン三機は、琵琶湖の上空で停止した。
「送られたデータによると、八乙女研究所の第三支部は、この辺りにあるはずなんですが……」
雄介が首をかしげた。
「本当かよ。何もねえぞ」
策郎はモニターから琵琶湖を見渡すが、それらしい建物は全く見当たらない。ゆっくりと波立つ湖面が広がっているだけだ。
「データが間違ってんじゃねえのか?くそ、ミチは無事なのか?」
豊作は、歯を喰いしばり、壁を殴った。
その時、外部から通信が入ってきた。
三機の通信モニターに、一人の白衣を着た男の姿が映った。
異様な風体の男だった。
年齢は、おそらく策郎より年上、二十七歳くらいの男だ。ぼさぼさの髪型に、不精髭をだらしなく生やしている。
右目の周囲に酷い火傷を負っていた。その部分だけ筋肉や脂肪が露出しており、眼球がにごった色をしていた。
そんなにごった目玉をかっと見開きながら、男はモニター越しにこちらを凝視していた。
「なんだこいつキモッ」
策郎は顔をしかめた。
「あなたは、誰ですか?」
雄介が聞いた。
「おれかぁ?くくく、おれの名は、おれの名はぁぁぁぁぁっ!!」男はその場で三回転すると、ぴたっと止まり、両手を広げて叫んだ。「ここっ!八乙女研究所第三支部の所長!八乙女竜児博士だあぁぁぁぁっ!!ジャンジャカジャーン!!」
策郎は、反射的にこいつウザイと思った。
「で、おまえらこそ誰だ?おまえらが乗っているそれ、ラザガ……だよな?ここに何しにきた?」
「はい、実は……」
雄介が話そうとすると、竜児と名乗る男はそれを止めた。
「いや、待て待て!言わなくても分かった!予想できた!そうかタツミのやつめ!やっとおれの力を借りる気になったんだな!そのスーパーロボットラザガを、おれの超絶技術によって、もっと凄まじくダイナミックに改造してくれということだな!そうだろ?」
「違います」
「何だとぉぉぉっ!何だと何だと!違うのか!ん?そうか!じゃあ、機体じゃなくてパイロットか!パイロットであるおまえ達の肉体を、おれの超絶技術によって、もっと凄まじくダイナミックに改造してくれということだな!そうだろそうだろ!」
「……違います」
「何だとったら、何だとぉぉぉ!じゃあ、何だ?おまえら何しにきた?おれは、この超絶技術で、何をもっと凄まじくダイナミックに改造したらいいんだ!タツミはなんのためにおまえらをよこしたんだ!なあっ?なあっ?なあっ?」
「…………」
雄介も、こいつウザイと思った。
「八乙女タツミは死んだ」
豊作が答えた。
竜児の表情が変わった。
「何?」
「ジュオームチルドレンの頭、確かルークスとかいうガキだっけか?そいつに、デス・サンとかいうのをぶつけられて、研究所を含めて、辺り一帯ごと消し飛ばされた。タツミはそれに巻きこまれて死んだ。おれ達は死ぬ前のタツミに、ここへ向かうよう指示されて来たんだ」
「タツミが……、死んだだと……」
竜児は、眉間にしわをよせてうつむいた。
竜児は、涙を流し始めた。
「うっ……、うっ……」
そして、拳を握り、上を向いて叫んだ。
「うらやましぃぃぃぃっ!!」
「はあ?」
豊作は、眉をひそめた。
「うらやましいうらやましいうらやましぃぃぃぃ!!!いいなぁ、タツミのやつ!!あのデス・サンを喰らって死んだのか!いいないいないいないいないいないいないいなぁぁぁぁ!!」
「…………」
「…………」
「…………」
三人共、この男が何を言っているのか理解できなかった。
竜児は、両腕を広げ、目を輝かせながら、大声で語った。
「おれのじっちゃんが言ってたのさ!自分が産み出した、最高の武器、兵器でぶち殺される!残酷に!グロテスクに!これこそ!おれ達のような武器兵器製造者!破壊の芸術家にとって理想的な死様じゃねぇか!ってね!同感だね!ハードに同感だね!タツミのやつ、デス・サンで焼死かぁ!さすがジュオーム研究者!おれ達八乙女一族のにふさわしい死に方じゃあねえか!デス・サン喰らったときってどんな感じだ!?手触りは?熱いんだろうなあ!味は?熱いんだろうなあ!匂いは?熱いんだろうなあ!」
「うるせえぞ、てめえ!いつまでとち狂ったこと怒鳴りちらしてんだ!」
通信マイクのボリュームをあげて、策郎が一喝した。
竜児は、我にかえって、モニター越しにこちらを見た。
「……ん?誰だ、おまえら?」
「ラザガのパイロットだ!!さっき話しただろうが!!」
怒鳴りすぎて、策郎はむせてせきこんだ。かわりに、雄介が聞いた。
「ところで、八乙女研究所の第三支部というのは、どこにあるんですか?見たところ、それらしい建物は見当たりませんが」
「ああ、ちょっと待ってろ!いま落とすから!」
「……落とす?」
雄介は首をかしげた。
竜児は、何かボタンを押すような動きをした。
それから数秒後。
ラザガマシン三機は、巨大な円形の影に覆われた。湖面に落ちたその影はすごい勢いで大きくなってゆく。
三人は上を見上げた。
空から島が降ってきた。
鋼鉄の、機械の島であった。
銀色の、円形の島であった。
でかい。
直径が、五千メートルはある。
島の上には、奇妙な形の建物が並んでいた。
ビルや工場のような建物がたくさん建っているのだが、どれも、角のようなものがついているのだ。
どうも普通のセンスの人間によって作られたものではないような、そんな形をしていた。
その空飛ぶ巨大な機械の島は、ラザガマシン三機の上空で止まった。
「これが、八乙女研究所の第三支部?」
雄介がぼうぜんとした声をあげる。
「うおおおっ!でけえでけえっ!カッチョええ!」
策郎のテンションが上がった。
「危ねえな。あと少しでぶつかるとこだったじゃねえか」
豊作が文句を言う。
機械の島の底の部分の大きな扉が、ゆっくりと開いていった。
「あそこが、入口みたいですね」
「よっしゃ、じゃあ、入るか」
ラザガマシン三機は、そこから機械の島の中へ入っていった。
島の格納庫にラザガマシンを着陸させると、三人はマシンから降りた。
所員に案内されて、島の中心にある塔の最上階の所長室に入る。
その所長室はひどく散らかっていた。刃物、弾丸、ミサイル、拳銃、ロケットランチャー、ダイナマイト、ピストル、バズーカー、爆弾、地雷、手留弾。
様々な武器、凶器、兵器が、無造作に転がっている。
その真ん中に、さっき通信モニターに映っていた男、八乙女竜児が、両手を広げて立っていた。
竜児は笑顔で叫んだ。
「ラザガパイロットの諸君!よぉぉぉこそ!移動要塞ガデムへ!!」
移動要塞ガデム。
それは八乙女竜児が開発した、自律飛行の可能な鋼鉄の島である。
八乙女研究所第三支部としての、ジュオーム炉心をはじめとする研究設備に加えて、大量の兵器開発も行っており、ラザガの武装もここで作られた。
八乙女研究所の極秘事項である研究データも多くあつかっており、もしものときのために、島全体の建物ひとつひとつに、自爆装置が設置されている。
ちなみに、八乙女タツミと、八乙女竜児は親戚同士だ。
所長室に入ってきた三人の顔を見て、八乙女竜児はやっほーい、と叫んだ。
「さすがラザガのパイロット達だ!どいつもいい面がまえしてやがるぜ!あ、でも仮面つけてるヤツの面がまえは分かんねえか!ははは、言い間違った、言い間違った!」
「おい、それよりもミチはどこにいるんだ!?」
豊作が、竜児につめよった。
竜児は首をかしげた。
「ミーチー!?誰だそれは!知らん!」
「知らんじゃねえよ!!」
豊作は竜児の胸ぐらをつかんで高々と持ち上げた。竜児は動じない。きっぱりと答える。
「知らんもんは知らん!」
「タツミは、ミチを乗せた車は第三支部に向かっていると言っていたんだ!何も知らねえってこたぁねえだろ!」
「でも知らん!」
「てめえ……」
豊作は拳をあげた。
そのとき、かわいらしい声が部屋にひびいた。
「落ち着いてください!破藤豊作さん。ミチちゃんを乗せた輸送車は、まだここには着いていないんです!」
豊作はふりかえった。
入口のドアの前に、ひとりの白衣を着た少女が立っていた。
十七歳くらいのおとなしそうな少女だ。白衣の下に、セーラー服を身につけている。
「誰だ?」
豊作が聞いた。
「わたしの名前は八乙女由美。あなたがいま持ち上げている八乙女竜児の妹です。ここ、八乙女研究所第三支部の、医療班の班長を勤めています。主に、サイボーグ手術について研究しています」
信じられなかった。
どう見ても、普通の女子高生だ。その顔つきは、まだ幼さを残していて、とてもそんな重要な役職についているとは思えなかった。
三人のとまどいを感じとったのか、竜児が言った。
「本当だ!由美は、若干十七歳にして医療班の班長だ!その卓越したサイボーグ技術で、数々の重傷を負った兵士を治してきた!どうだ!八乙女の一族はすごいだろう!えっへん!……ぶげっ」
豊作は竜児を投げ捨てると、由美を見下ろした。
「どういうことだ?ミチがまだ着いてないだと?」
由美は、豊作の巨体におびえた様子をみせながらも、ゆっくりと答えた。
「何てことはありません。あなた達が、早く到着しただけのことです。あなた達は、あのラザガマシンに乗ってきたのでしょう?先に出発していた輸送車をあっというまに追いぬいて、先に琵琶湖に着いちゃったんですよ」
「……そうだったのか」
「数分前に、輸送車から通信が入っていました。いまは、東京都を走っているそうです。あわてなくても、今日中には、ここに着きますよ」
「ミチは無事なのか!?」
「はい、車内でおとなしくしているそうです」
「……そうか」
豊作は、肩の力を抜いた。
「なあ、あんた」
策郎が軽い口調で由美に話しかけた。
由美は顔を赤くし、背筋をぴんと伸ばした。
「は、はい!なんでしょう?」
「あんた、そのサイボーグ手術ってのが専門なのか?」
「はい、策郎さんの右足の手術も、わ、わたしがやりました」
「あ、そうだったのか。ありがとな。それで、ちょいと聞きたいんだけどさ、あんたのそのサイボーグ手術の腕ってのは、どれ程のもんなんだ?」
由美はけげんそうな表情を浮かべた。
「どれ程……といいますと?」
「いや、ほら、例えばさ、死にかけている人間は治せるのか?」
「病気や老衰なんかはサイボーグ手術では、どうにもなりませんけど、怪我による瀕死なら多少の重傷でも治せる自信はあります」
「おい、策郎。おまえ、何を聞いてんだ?」
話に入ろうとする豊作を手で制し、策郎は質問を続けた。
「じゃあさ、死んだ人間の蘇生とかは?」
由美はとまどいながらも、考えて、ゆっくりと答えた。
「死後、そんなに時間がたっていなければ、わたしが作った独自の心臓ショックマシンがありますから。蘇生は不可能ではありません。例えその時、体が破損していても、あらゆる部位のサイボーグ人体パーツを用意していますから。大丈夫です。何しろ、相手はあのジュオームチルドレン。とんでもない化け物ですから。どんな凄まじいダメージを負うかわかりません。ですから、医療設備も、それなりのものを準備しています」
「そうか、よっしゃ、それを聞いて安心した」
策郎はにっこりと笑った。
「おい、策郎……」
豊作が質問の意図をたずねようとした時だ。
策郎が飛んだ。
そして、宙で回転し、隣に立っていた雄介に素早く蹴りを叩きこんだ。
「がっ!?」
完全に虚をつかれた雄介は、あっさりと吹き飛び、壁に衝突し、床に倒れた。
策郎はそれに駆け寄ると、雄介の髪を掴み、雄介の体を窓際までひきずった。
そして、雄介の頭を持ち上げ、窓ガラスに思いきりぶつけた。
防弾仕様のはずの窓ガラスが、派手な音を立てて砕けた。破片が飛び散る。外から強い風が、室内に向かって吹きつけてくる。
人面手首ヘンリーと戦った時の傷が開いて、雄介の仮面と顔の隙間から、血が流れだした。
策郎は、まだ混乱している雄介の耳元に、早口で囁いた。
「さっきの戦いの話の続きだ。おめえ、あれはねえだろ。あれはだせえよ。だせえんだよ。だせえよ。だせえよ。だせえよ、だせえよ、だせえよ、だせえよ、だせえよだせえよだせえよだせえよ。糞ださくてしょうがねえんだよ。おれはな、ださいってのが死ぬほど嫌いなんだ。そんなおれにあんなだせえもんをよくも見せてくれたな。………………………おまえ、一度死んでこい」
策郎は、割れた窓硝子に開いた大きな穴から、雄介の体を外に投げ捨てた。
雄介の体は落下していった。
この所長室は、塔の二十階である。
二十階の高さから、策郎は雄介を投げ捨てたのである。
策郎は室内を振り向くと、笑いながら由美に向かって、言った。
「ふう、少しはすっきりした。じゃあ、八乙女由美博士。あいつの死体を拾ってちゃっちゃと蘇生してくれや。一応パイロットとして必要だからな。たぶん地面の上でグシャグシャになってるだろうけど、サイボーグ手術なら大丈夫なんだろ?」
由美は何も答えられなかった。目を見開き、膝をついて、震えていた。
「策郎……、おまえ、ふざけんなよ……。なんで……、こんな……」
豊作がうめく。
「なんでって、おっさん決まってんだろ?」平然としている。「ださいからだよ」
「ださいって……、おまえ」
「雄介のやつ、調子に乗ってださいことしやがるからさ。一度殺すことにした。そうすれば、あいつも少しは反省するだろ?」
「殺すことにしたって、おまえ蘇生できなかったらどうすんだ!」
「別に死んでもいいよ。あんなヤツ」
豊作は頭を抱えて溜め息をついた。
こいつ、全然変わってない。あいかわらず、感情だけで突っ走って、とんでもないことをしやがる。
破藤グループで、無茶な殺しを繰り返していた頃と、全然変わってない。
竜児だけが、腹をかかえて大声で笑っていた。
「うええええっ、えへへへへへっ!!こいつ、マジかよ!!ひゃははははははははっ!!イカレてやがる!!さっすがっ、ラザガのパイロット!!面白れ!面白れ!」
そのときナイフが飛んできて、策郎の尻に刺さった。
「痛えっ!」
策郎は思いきりのけぞった。
そして、振り向き、眉間にしわをよせたた。
窓際に、雄介が立っていた。両手にナイフを持って、こちらをにらんでいる。
さっき落下した際、雄介は即座に懐からナイフを取りだして、それを塔の壁に突き刺した。
そして、そのままナイフにぶらさがる形になり、落下を逃れた。
「……あの野郎」
雄介は切れた。
そして、懐からもう一本ナイフを取りだし、それも、壁に突き刺した。
そうして、二本のナイフを上に向かって交互に抜き刺ししながら、すごい速さで壁を登っていった。
「しぶといな。そのしぶとさ、結構かっこいいじゃん」
策郎は尻からナイフを抜きながら笑った。
雄介は無言でナイフを投げた。策郎の顔面に向かって、刃が迫る。
策郎はそれをわざと歯で噛んで受け止めた。そのまま笑いながら歯に力をこめ、ナイフの刃をねじまげる。
ぺっとナイフを吐き捨て、策郎はかまえた。
「おとなしく落ちてりゃ、よかったのによ。おれとやりあうのは、二十階の高さから落ちるより痛えぞ」
雄介も、ぶつぶつと呟きながらナイフをかまえた。
「……もういい。もういいです。世界なんてどうでもいい。ラザガなんてどうでもいい。九島策郎、とにかくおまえを惨殺できれば、もう何もかもどうでもいい」
「今度は格納庫の時みてえにはいかねえぞ。隠れるとこはねえからな」
「だから何だというのです?近距離戦なら僕に勝てると?はっ、…………なめんじゃねえぞコラァァァァっ!!」
戦いが始まった。
血が舞った。
血が舞った。
壁が砕けた。
テーブルが割れた。
部屋に転がっていた銃のいくつかを策郎が蹴りとばし、暴発して爆発した。
それが転がっていた火薬に引火し、部屋は火事になった。
血が舞った。
血が舞った。
天井に穴が開いた。
電灯が割れ、破片が降り注いだ。
殴る音。蹴る音。切る音。骨が折れる音。
策郎の雄叫び。
雄介の怒鳴り声。
「あほくさ」
豊作は耳をほじると、部屋の隅で震えている由美に言った。
「おい、腹減ったから、メシ食わせてくれや」
「え?え?え?」
見上げる由美は涙目だ。
「食堂はどこだ?案内してくれよ」
「あ、あの、……あれ、止めないんですか?」
由美は全身血まみれになった策郎と雄介を指さした。
「ああ、大丈夫だ。あいつら二人共、そう簡単に死ぬタマじゃねえよ。見たところ実力は五分だからな。すぐにヘトヘトになって、二人同時にぶっ倒れるだろうから。そん時に治療よろしくな」
「……そ、そうなんですか?」
由美には理解できない次元の話だった。
「フレーっ!フレーっ!九島策郎!ファイトっ!ファイトっ!牙倉雄介!」
竜児は、楽しそうに踊りながら二人を応援していた。
そのとき、入り口の扉が開いて、男性の所員があわてた様子で駆けこんできた。
「所長!大変で……、どわっ、何じゃこりゃ?」
所員はあとずさった。
竜児は、踊るのをやめて振り向いた。
「ん!?何だ!?どうしたどうしたどうした!?」
「せ、政府から、救援要請が来ました。首都がジュオームチルドレンに襲撃されているので、対応してくれと……」
「何じゃ!そんなの知るか!いまこの二人の戦いが面白いところなんだ!そんなのほっとけ!」
「ちょっとお兄ちゃん!ダメでしょ、マジメにやらないと」
「……首都だと?」
重い声が響いた。
由美が見上げると、豊作が物凄い形相で両拳を握りしめていた。
「おい、由美、おまえ、さっきミチを乗せた輸送車はどこを走っていると言った?」
「え?それは……、東京……。ああっ!!」
由美も気付いた。
ジュオームチルドレンが今、首都、つまり東京を襲撃している。
豊作の娘、ミチを乗せた輸送車は、今東京を走っている。
ミチが危ない。
由美が理解した直後、轟音がふたつ、響いた。
すると、部屋が急に静かになった。
策郎と雄介の争う音がぴたりとやんでいる。
由美は部屋を見渡し、絶句した。
策郎が壁にめりこんで気絶していた。
雄介も、天井にめりこんで気絶していた。
部屋の中心に豊作が立っていた。
豊作が、二人を殴り飛ばしたのだ。
まったく見えなかった。
策郎や雄介が戦っているときの動きも、早くてほとんど分からなかったが、豊作の動きは別格だった。
竜児も、呆然としている。
「これが、破藤グループ社長、破藤豊作の実力……」
由美はごくりと喉を鳴らした。
豊作は、めりこんでいる策郎と雄介の体を引き抜いた。そして気絶している二人を両肩にかつぎ、竜児と由美をにらんで叫んだ。
「ラザガ!!出撃するぞ!!さっさと準備しろ!!」