理不尽を殺す少年
白い部屋。そこに少年と少女がいた。
少年の方はベッドの上にいる、少女はその横でベッドの脇に腰かけている。
少年は酷く傷だらけであったが、それももう治りかけている。
少女の方は少し怪訝な表情をしながら少年の話を聞いていた。
「俺たちは力を合わせてデーモンを1体倒したんだ。でもそのあとに俺を含む全員が戦えなくなる状態までデーモンに追い込まれた。それで目の前でアイツらが殺された」
その少年、明星鏡夜は忌々しそうに、しかし悔しがるようにそう言った。
「そのあとどうなったかわかる?」
少女、月夜見雪はキョウヤにそう尋ねた。
「いや、それが全く分からないんだ…何か大きなものに体がつつまれた気がするんだがそれ以降は何も…」
「そうなんだ…じゃあ真相は闇の中ってことなのかな…」
ユキはそう言い暗い表情から一転明るい表情を作って
「まぁ、命があってよかったよ。死んじゃってるんじゃないかってドキドキしたんだから!」
そう言い少し怒ったように言うユキ。
「なぁ、ほかの奴らは…?」
神妙な面持ちでキョウヤが尋ねた。
キョウヤは皆がもうどうなっているのかなど分かりきっていたがもし万が一という希望を持ってそう聞いたのだ。
「キョウヤと、もう一人、え~と…ケントだっけ?それ以外は…」
「え?ケント…?」
夜舞剣斗、デーモンに思いきり吹き飛ばされて倒された少年の名前だ。
無防備な状態であんな攻撃を受けたんだから死んだかと思ったが生きていたのかと、キョウヤは思った。
「でもケント以外はみんな死んだんだよな?くそっ!俺の判断ミスだ…!俺がもっと慎重に行動していれば、俺にもっと力があれば…!」
そう言い泣き出すキョウヤ。
その涙は自分に対する悔しさ、仲間が死んだことへの悔しさ、そして大きな信念が込められている気がした。
「ねぇ、元気出してよ。どうして泣くの…?」
不思議そうな顔をして尋ねるユキ。
まるでその行為にどんな意味があるかどうかわからないという顔だ。
「目の前で仲間が殺されたんだぞっ!泣かない方がおかしいだろ!?」
キョウヤは怒った。
「ねぇ何で…?なんで1日も一緒にいない相手のことで泣けるの…?」
その一言でキョウヤの最後の心の壁が崩れた。
「ふざけるなよ!?1日もいない相手だって仲間なんだ!みんな生きてたんだ、なのに俺のせいで…」
気が付くと叫んでいた、激昂していた。
「キョウヤ…」
「出ていけよ、もう出ていけよ!今は俺一人にさせてくれ…!」
キョウヤはそう言った後、後悔した。
自分が心配で看病してくれていた少女になんてことを言ったんだと思った。
たとえ部屋から出すにしてももう少し別の言い方があったはずだ。
「ごめんね、キョウヤ…」
そう言いユキは部屋の扉の方まで歩いていった。
その頬には涙の筋が出来ていた。
「なぁ、ユキ…明日きてくれ…明日になれば俺も冷静になってると思うから…」
キョウヤはそういうしかなかった。
目の前の少女を泣かせた罪悪感が心に重くのしかかる。
「うん、わかった…ゴメンねキョウヤ」
弱々しくそう呟いたユキは部屋から出ていった。
部屋を出たユキは今のキョウヤとの会話をききこう思った。
「いつから仲間が目の前で死んでも何も感じなくなったんだろう…?特別親しい間柄じゃないと泣いてないかも…」
そう思い一つの考えに行き当たった。
「キョウヤならこの理不尽な殺し合いを終わらせることも…」
そう、この終わることのない理不尽が終焉を迎えることができれば世界は変わる。
それができるのはキョウヤなんじゃないかと…。