2-1~2-2
†††2-1
「姫ええええぇぇぇぇ!お待ちおおぉぉぉ!」
今日も絶叫が廊下にこだまする。
「ほらほら、こっちよ~!」
臣下も作業の手を止め、脇に退いて嵐が通るのを待つ。
いつも通りの光景。
しかし、今日はちょっと違った。
「逃がしませんよー・・・・・・っと、姫、どうしました?」
追いかけて曲がった先の廊下で姫が立ち止まっていたのだ。
これには思わず執事も止まってしまった。
なんとなくこういう時に姫を捕まえるのはルール違反な気がするのだ。
ちなみにこの手に執事は三回は引っかかっている。
だが、今回ばかりは姫の策略ではなかった。
姫が追いついた執事を振り返ってくいくいと自分の足下を指す。
・・・・・・メイドがうずくまって泣きじゃくっていました。
†††2-2
「はーい、皆ちゅーもーく!!」
執事が手をぱんぱん、と鳴らすと、中庭に集まって好き勝手に談笑していた家臣たちはおしゃべりをやめた。
ちなみに「家臣がおしゃべりしているから姫様はここにはいないのかな?」という疑問に答えれば、それは違う。
今も執事の隣で「暑いわねえ・・・・・・」などとつぶやいてパラソルの下で涼みながら紅茶(冷えてるやつ)を飲んでいる。
まだ新入りの部類に入る執事はこの城のこの雰囲気が不思議で仕方なかった。
家来が主人の前で談笑している光景など見たことが無かったからだ。
いつもよぎる疑問を胸にしまい、執事はばらばらだが一応は並んでいる家来一同を見回す。
「この子が今日から一緒にこの城で働くことになるメイドの・・・・・・なんだっけ?」
「エリーです・・・・・・。どうぞよろしくおねがいします・・・・・・」
メイド・エリーが蚊の泣くような声で言うと、家臣一同があああー、と無駄に派手なリアクションをした。
「なんでエリーなんだあ!」
「デリーだろ、そこは!」
「デリーって何よ、だっさ!」
目の前で起こる変なリアクションにエリーは
「??????」
という顔で傍らの執事を見上げた。
執事はもう一度手を叩き、場を収める。
「はい、じゃあ、メイド三人。自己紹介」
「えー、なんですか、それは。投げやりじゃあないですか?」
「うるさい、メイドB」
「B言うな!」
「こほん・・・・・・自己紹介しますわよ。よろしい?」
一番年長そうなメイドさんが横目で騒いでいたメイドを見る。メイドは「あー、後でしかられるわー」と言う顔をして黙った。
「私はメイド長のアリエルです。困ったときはいつでも言ってください」
「だったら新入りの案内くらいちゃんとしてくださいよ」
執事が聞こえない程度の音でぼそっとつぶやくと
「何か?」
「いえ・・・・・・」
という地獄耳エピソードが展開された。
ちなみにだが、アリエルは『なんでも命令していいよ~(笑)』で「一階の掃除をお願いします」とさらっと言ってきた猛者だ。容姿はなんとかマイヤーさんに似ている。
「次は私ね?ベロニカでぇーす!」
「元気いいな、B」
「Bじゃねえっつってんだろ、このハゲ!」
やっぱりメイドの皆さんはとぉっても個性が強いなあ、としみじみ思う執事だった。
「ハゲじゃねーよ!」
「いつかハゲんだろーがよ!」
「まだハゲてねーよ!」
「まあまあ、ベロニカ。落ち着いて」
仲裁に入ったのはメイドC。
「ハゲとか言っちゃダメよ。そんなこと言ったら」
そこでメイドCは一度深呼吸して一気にまくし立てた。
「昨日寝癖のチェックをしていたら後頭部に割と大きな十円ハゲを見つけてしまって『あれ?これって大丈夫かな。ま、でも、いつも兜かぶってるからバレないよね?』って感じの表情で固まっていた護衛隊副隊長のヒー●さんが傷つくじゃないの」
空気が凍り付いた。
家臣全員の視線が副隊長●ースさんに集中する。
「ヒ●スさんが・・・・・・マジかよ・・・・・・」
「あの体型で更にハゲたか・・・・・・ハゲちゃったか・・・・・・」
「ねえ、●って何か意味あった?ねえ?」
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーー!!!」
ついにヒースさ●は逃げ出した。
「あらあ、どうしたのかしらねえ?ヒースさんは」
「クリス・・・・・・あんた・・・・・・」
メイドCことクリスは口元に無垢な笑みを浮かべたままヒースの後ろ姿をずーっと見ていた。
†††
皆ちょっとキャラ濃いわ……。