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居場所・4

「ごめんよ、今度からもっとうまく調節するよ。君の体の基本構造は理解できたし」


 意識が無かったのはごくわずかな時間だったらしい。スドウが自分を見る目に憐れみを感じてしまった美味は、また何か受け入れ難い不都合な事実が判明したのかもしれないと思った。


「まだ、変な機械音がするんですけど……」

「もうすぐ治まるはずだよ。って、今の会話が日本語じゃない事に気が付いたかい?」

「え? ええええ?」


 確かに日本語では有り得ないような鼻にかかったような音とか、巻き舌っぽい音が入った言葉をスドウが話していて、それを自分が当たり前のように理解した事実に美味は驚いた。


「ほ、ほんとうですね。今話しているこれって、何語なんですか?」

「モリニ語」

「この国はなんていうんですか? それに……」

「サンブル王国で、町はネイメンと言うんだ。ちょっと先にこっちを片づけるから、待っててくれ」


 スドウは眉間にチョッとしわを寄せて、形の良い口をキュッと引き結ぶと、工業用ミシン並みの凄いスピードで縫物を片づけにかかる。美味はただただ驚いて、その様子を見ているだけだった。


「さて、終わりっと。質問が有るみたいだけど、何?」

「私って、ご飯を食べたり寝たりする事自体、本当は必要ない体になっていたりするんでしょうか?」

「僕みたいに食べなくても大丈夫なモードに切り替え可能なのか、まだわからない。寝るというか体のシステムを休ませる時間は必要みたいだけど、最低どのぐらい必要なのかはこれまた不明だ。さっきの起動ボタンの周辺を触らせてくれたら、何かわかるかもしれないけれど……どうする?」

「あ、あの、それではお願いします」


 スドウの触れ方は慎重で、何だかやさしいと美味は感じてしまった。いや、やさしいといいなと美味が願っているだけなのかもしれない。本当はどうなのか、いろいろ考え始めると気恥ずかしい気分になってくる。普通の人間の肉体を持っていた時なら、たぶん自分の顔は赤くなったりしたのだろうが、この不自然な作り物の顔や体は、美味の感情には多分反応していないのだと思われた。 

 スドウはと言うと、縫物の時よりもっと難しい顔になって何か考え込んでいる。


「これは相談なんだが……君のメカ的な肉体の情報を僕が共有した方が、君を危険から守りやすいと思うんだ。一旦情報を共有すると、君自身の位置情報や疲労度、メンテナンスの必要性なんかがわかるようになるらしい。だが、僕にわかるのはあくまでもメカとしての借り物の体の事だけだから、君が何を感じ、考えたのかまでは窺い知れないから……安心してくれていい」

「私の体が、どこかの谷底に落ちたり、焼けそうだったり、水に沈んだりしても、すぐにわかるってことですよね」

「そういう事だろうと思う」

「何か、私の体の取扱い説明書かなんかを読みとることが出来たのですか?」

「うん。多分本来はパソコンか何かに情報を取り出して読み取るんだろうけど、僕もほら、不自然な体だからさ、君の右耳の後ろのボタンをいじっている内に、指先から情報が伝わって、僕の内部に取り込むって事が出来そうなんだ。今、情報ファイルを読み込むかどうかのコマンドが出ている」

「出ているんですか」

「うん。僕の脳内に丁度テレビの小窓みたいな感じで表示されているような感じなんだ。それで、どうする? 読みこめば、君の人工的な体に付随した様々な機能を調節したりしてあげられるようにはなるんだが、そんなことはイヤだっていうならやめておくよ」

「調節して、例えば何ができるようになりそうですか?」

「聴覚と視覚はすぐに能力を上げられる。言語能力だな……どうも読み書きのほうは勉強しなくてはダメらしいのだが、幾つもの言語の聞き取りと言葉を話す方はすぐに出来るようになる。さっき君の体のほかの機能とのバランスを無視して、最大出力で習得させちゃったから、具合が悪かったらしい。数時間、例えば一晩といった具合に、習得にかかる時間に余裕を持たせて設定をすれば、体の不調を感じることもなく新しい言語を操る事が可能になるらしい」

「他は?」

「僕自身は戦闘機能なんかの設定もあったんだが……君の体は家庭内での仕事に特化したタイプのメカであるようで、見当たらないようだ。で、読み込みはどうする?」

「私が自分で説明事項を読み込んだり、自分の体の機能の設定を弄ったりできないんですか?」

「んー、今のところは、まだ、できないみたいだ。基本機能を全部作動させて以降、オプション的な機能が使用可能になるようだが……」


 スドウは難しい顔になった。何か伝えるのをためらうようなトラブルとか、何かあるのかもしれない……と美味は思った。


「っていう事は……最初は自分じゃ出来ないって事ですよね。で、お願いできるのはスドウさん以外に誰もいない。そういう理解でOKでしょうか?」

「そう。そういう事」

「でもそれをすると、私の体がどのような状態なのか、スドウさんには全部丸わかりになる。そうですよね?」

「恐らくはね。ごめん……すでに、エネルギー残量とメンテナンスに関する基本項目の幾つかはわかるようになってしまっている。普通の感覚なら、嫌だよな。君は女の子なんだし。ただ、まあ、わかるのはメカとしての君の体の機能の状況だけなのであって、人間であったころから引き継いだ君の想念やら思考までわかるって訳じゃないが」

「なるほど……抵抗ないって言うと嘘になりますけど、私のメカ的な体の状況を漏れなくわかっちゃうというのも面倒だし鬱陶しいですよね。それでも、そういってくださるなら、やっぱりお願いするしかないかなと思います。いや、御面倒でしょうが、お願いします。色々な機能が有った方が、やっぱりこの世界ではやっていきやすいんでしょうし」



 そういうわけでスドウは再び美味の起動ボタンを慎重な手つきで、弄ったというか調整した。


「よかった。君の心理状態までは、筒抜けじゃないみたいだ」

「人の心理状態が全部わかるって、一種のチートと言うか、インチキですよね」

「……そうだね」


 そのスドウの口調が、やけに沈んだ感じだったので、美味は奇妙に感じたのだった。

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