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SEVEN STARS  作者: イモホテップ
TREND「0」 【22nd Century Girl】
1/12

#1 クライベイビー

とある一般家庭に、それはそれは品行方正な一人息子が居たそうな。今年ようやく20(ハタチ)を迎える彼だが、今でこそ成人の模範たるこの青年とて、出生の際には色々と立て込んだらしい。


「いやぁ、焦りましたよ。そりゃあもう」


苦笑を浮かべながら当時を振り返るは、何を隠そう青年の父親である。物々しい管を身体中に張り付けた息子を愛おしげに見つめながら、彼が医者から告げられたのは、この世に誕生したばかりの命に対する賛辞ではなく、絶望的観測を大いに含んだ一言だった。


「将来設計マシンでこの子、ハカってみましたけどね。……お宅の坊ちゃんねェ、このままだと将来犯罪者になるわ」


青い顔で告げる医者に、それ以上に蒼白な顔を見合わせる父と母。こりゃ大変だ。我が子の将来は犯罪者? 半ば親に急かされるような形でこしらえた倅だが、この赤ん坊が犯罪者になった日には私達の立場は? 世間体は? 老後なんぞは一体どうなってしまう?


「いやいやご両親、そこはご安心あれ! このジニアス・ボーイ・キットを使えば、まるで問題ナシですわ!」


テーレッテレー!

お子さんを将来設計マシンにブチ込んで飛び出た判定は!? 強姦魔? シリアルキラー? それともサイコパスの食人鬼? いずれにせよ心配はご無用です! 当社が誇る超一流の精神科医(スタッフ)達による脳幹矯正機、それがジニアス・ボーイ・キット!


「未来の自分に自信がもてない?」


「それなら今からキメちゃいましょう!」


突如、病室のドアを蹴破って現れるスーツ姿の男女二人組。小唄を歌いつつ赤ん坊を抱えあげる女に文句を付ける暇もなく、唖然とする両親を尻目に、「未来の犯罪者」たる赤ん坊の側頭部に件の脳幹矯正機のプラグを躊躇なく突き刺すスーツ男。


「おんぎゃあああ!?」


「ひぃっ!? マーちゃん! マーちゃんがああ!」


「将来有望株! ハイスクールではアメフト部の主将! 門限は守りつつも程々に遊びも忘れない社交性!」


「ヒィーハァー!!」


阿鼻叫喚の一家を余所に、男の操作する脳幹矯正機のタブレット画面を埋め尽くさんばかりに溢れてゆく「希望」の羅列。鉄は熱い内に打て、将来設計は赤子の頃から組み立てておけ、etc、etc……。信頼に足る先見性、堅実なる早計こそが、理想の未来を掴む術!


「脳幹矯正機、ジニアス・ボーイ・キット! これ一台で、あなたの将来は保証済み!」


「約束された未来」を植え付けられた、かつての胎児の虚ろな目。暗黒に包まれた母の胎内を経てこの世に産まれ落ち、初めて瞳に映した光景は、病室の白けた壁紙だった。この小さな部屋から始まり、やがて徐々に、徐々に広がってゆく無限の未来。一体、僕は将来どうなるのだろう。いずれは思考し、想いを馳せるであろう彼の未来に覆い被さり、埋め尽くしてゆくは「作られた希望」、その羅列。


「ジニアス・ボーイ・キットが、明るい未来を約束致しますっ!」


如何に空想しようとも、かつての胎児。否、幸運な「将来の犯罪者」よ。既に未来を見通すまでに極まった人類の文化(カルチャー)は、その素晴らしき先見性を以て君の中の「悪」を淘汰するに至ったのだ。これから君の後輩達も同様に歩むであろう、予測された未来への軌跡。「希望」が指し示す先へと、皆と足並みを揃えて進め。先人の流した汗と血の轍に、阻まれる事もなく。平穏な未来へとーー


「あ、あぅ、あ」


頭にプラグを差し込まれたまま、何も知らずにかつての胎児は楽しげに口ずさむ。垂れ流された涎を拭いながら、慈しむように我が子を撫でる母。腕を組み、満足げに頷く父。風前の灯火である急患をほっぽり出したまま、小躍りする医師。和気藹々とした病室の雰囲気に胸を撫で下ろすが早く、スーツ姿の女は改めて画面へと向き直り、満面の笑顔を以て視聴者へと「未来」を提示する。


「お問い合わせは、お早めに!」


流行歌らしくアレンジされた「東京ブギウギ」をBGMに、肩を組んで一礼する一同。画面がフェードアウトしてゆく中、最後まで行き場のなかった赤子の、彼自身の見据える視線は何処へやら。


既に虚ろな目が最後に映していたもの。定かではないが、兎にも角にもおめでとう。2021年の大都心、この巨大な東京の一角にて産まれ落ち、予め決められた軌跡を歩むであろう一つの魂。コマーシャルの中の産声は、単なる架空のものに非ず。




(ハッピーバースデー、クライベイビー)


(静かなる混沌、狂気の俗世ーー東京へ、東京へようこそ)









Dirty century(仮)


TREND「0」


【22nd Century Girl】









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