封じの首輪
今回はちょっと鬱展開です。
苦手な方はご注意を。
ただ、最悪の展開にはなりません。NTRとか作者が苦手なので書けません。
ハッピーエンドは確定です。
次回こそ主人公が活躍……する予定。
「イスズ! 全速でニナロウへ戻る! どの位ならいけそうだ!?」
『はい、あるじさま。ここから全くの直線で最短距離を時速60キロで移動した場合、2時間32分です。その際障害となる大型の岩や倒木などは28個。そのどれもが時速60キロ以上でのルミニウム真銀の体当たりで破壊可能です』
「速度はそれ以上は無理か?」
『ならされた道では無いので、それ以上ですとかなり乗員に振動がありますが……車体に負担の無い範囲でなら80キロまで可能です』
「お客さん! ちょっと揺れますが勘弁して下さいね! 料金はサービスしますんでっ!」
「お、おう? サービスしてくれるってのなら言う事はねぇが」
「うん、そうだねぇ」
「ラッキー♪」
客室に乗り込む冒険者達の返答を受け、それじゃ遠慮は要らないな、と勝手に解釈して貨物室の扉を閉めると急いで運転席に乗り込み、エンジンを掛けた。
そのままアクセルを踏み込み、ギャギャリッとタイヤを軋ませながら、最小半径で車体を180度急転回させる。
「うごっ!」
「きゃあ!」
「っだぁっ!!」
おそらく客室内で転倒したのだろう、ナビ越しに聞こえるお客の悲鳴をあえて無視して、イスズに声を掛ける。
「イスズ! 出せる最高速度でニナロウだ!!」
『承りました、あるじさま。ルミニウム真銀に魔力注入……ルミニウム真銀の体当たりの出力を30%強化……シリンダー内の炎魔法レベルを強化……準備完了』
「全開だっ!!」
俺がアクセルをベタ踏みすると、トラックは唸りを上げてニナロウへと向かって飛び出したのだった。
※
――ジル視点――
私が実家を飛び出してそろそろ一年以上になる。
これでも元はお貴族様、というヤツだった。
エコー子爵家の長女、ジルコニア・エコー。
それが私の本名だ。
私が家を飛び出したのは……10歳の時、魔法属性判定で3属性持ちだということが判ったのが切っ掛けだった。
そもそも魔術師になるには魔力をある一定度以上持っていないと無理なのだが、これが500人に1人ほどの割合しか居ない。
そして更にその中でも3属性を持つ者は1~2%程度だ……4属性以上を持つ者は歴史上数人、という稀少さである。
まあ、所持属性以外使えないという訳ではないが、効果には格段の差が出る。
魔術師にとって所持属性がいかに重要か判るだろう。
ちなみに今現在知られている属性は「地」「水」「火」「風」の4元素と「光」「闇」「時間」「空間」の上位4元素。
私はこの内「地」「水」「風」の3属性の適正を持つと判定されたのだ。
この結果に両親は喜んだ。
それはそうだろう、この国の貴族にとって「魔力持ち」というのは一種のステータスだ。
更に3属性持ちとなれば例え子爵の娘であっても王家へ嫁いでもおかしくは無いほどなのだ。
……まあ、側室としてなら、ではあるが。
当然私も将来の政略結婚として使われるのは諦めていた。
子爵とは言え貴族の家に生まれた義務だと。
その雲行きが怪しくなってきたのは14歳の頃だった。
ある日突然、王宮からお父様だけでは無く私にも出仕の誘いがあり、何事かと緊張しつつも出向いてみれば……いきなり王の前に引き出され宮廷魔導師の1人、ルォード・ガナリーと引き合わされたのだ。
どうやらルォード・ガナリーが私を養女にと望み、王に申し出たらしい。
「エコー家のジルコニアは才気煥発にて、我が元で魔導師としての才を伸ばせば必ずや王家にとってこの上ない宝となりましょう」
そう、王に具申しながら私の方を見た爬虫類のような目は忘れられない。
実際、このようなケースは無い訳じゃ無い。
むしろあり得るケースとして想定していた一つだ。
問題は――ルォードの素行の悪さと悪評にあった。
曰く――
少女愛好家
加虐趣味
死体愛好家
曰く――
ガナリー家の眉目秀麗な若い使用人は必ず行方知れずになる。
精神操作系の魔術を好んで研究している。
少女型の肉人形を常に数体侍らせている。
更に質が悪いのは、ルォード自身は非常に優秀な魔導師で、宮廷魔導師の中でもかなり上位に位置する男だと言う事。
悪い噂も下世話なものは中々上までは届かず、王家からは「少々女癖が悪い優秀な魔導師」という認識をされている。
もっとも、私達のような下級貴族にはもっと生々しいリアルな話が流れてきており、王の前でルォードとの逃れようのない養女縁組の話をされたお父様はその場で卒倒した。
この時点で私の未来は、変態魔導師の性奴隷となるか肉人形の素材となるか……いずれにせよ閉ざされてしまったも同然だったのだから。
それから約2ヶ月後。
ルォードと私の養子縁組まで後1ヶ月と迫った頃、私は死んだ。
正確にはお父様の手によって急な病気で死んだことにされた。
その実、私は護衛頭兼友人のイングリットの手引きで、王都からニナロウの街へと落ち延びたのだった。
イングリットは元冒険者と言うだけあって世事にも通じており、世間知らずの私を一年掛けて何とか一人前の冒険者と言われるDクラスまで仕込んでくれた。
この街では私はただの冒険者。
ジルコニア・エコーではなく、ただのジルコニアなのだ。
そんな厳しくも心安らかな日々が続くと思っていた頃、イングリットと共に借りているアパートにある男が護衛であろう男数人を引き連れてやってきた。
それがジュノー・コバン。
ニナロウで高利貸しと奴隷商を営む男である。
ジュノーは私を見るなり品物を見る目で言い放った。
「ふん、胸は貧相やが、顔はええな。貴族の血か高貴な顔をしとる。これやったら高う売れるやろ」
「失礼、な。一体何の事」
「とぼけても無駄やでぇ。あんさんがエコー家の死んだはずのご令嬢っちうのは調べがついとんのや」
男の言葉に目の前が真っ暗になる。
こいつ、どこからその事を。
思わず男を睨み付ける。
いざとなれば魔法でその首をたたき落として――
と、私の殺気を感じたのか黒服の護衛達が一歩踏み出す。
「おお、怖わ、そんな睨まんでなぁ。別にそのことでどうこう言うつもりは無いんや。今回お邪魔したんは仕事の話やで」
「ビジネス?」
「そうや。あんさんに借金を返してもらお思うてな」
「冗談。それこそ、何を馬鹿な事を……」
「冗談やないでぇ……あんさんの実家がどうなっているか。知らんようやな?」
「!……何が、あったの……?」
「あんさんを死んだことにして逃がしたのがばれましてな。命や身分こそ助かったものの、丸1年の税収を接収されてな……元々無欲でそう蓄えも無かったご一家や。たちまち使用人に払う俸給にも事欠き、そこをわてが当座の資金を用立てた、という訳やな……もちろん嘘やないで。魔法誓約してもよろしいがな」
そこまで言うからには本当なのだろう。
喋ってない事実はあるかもしれないが。
「で、なあ……積もりに積もった借金が利子を含めて金貨4000枚……白金貨にして400枚やな」
んなっ……高すぎる。
うちの使用人全員の俸給1年分と計算してもそんなになる訳が。
「……高すぎる思うてんのやろ? 所詮下級言うても貴族様は貴族様や。借金の利率くらいは確認しとくんやったなぁ。契約した後では後の祭りやけどな」
「……くっ……」
「で、なあ、重要なのはここや」
ジュノーが懐から出した魔法契約の用紙を私に突きつける。
「期限までに借り受けた金銭を全額返せなかった場合、エコー家の者らがその身柄を持って充当する……云々と書かれているんや」
「そ、それは……まさか」
「ああ、いわゆる『奴隷契約』ちゅうやつやな……けどな、正直エコー家の歳食った当主夫妻はもちろん、その息子達なんぞ売ってもたいした足しにはならんのや……そこであんさんやがな」
「……」
「若い女で3属性持ちの魔術師となれば白金貨300~400枚は行くやろとな」
「……父様達は」
「ん、おお、あんさんがその気になってくれれば、御当主達の奴隷契約は白紙に戻してもええがな。どないだ?」
「……………………分かった」
一年と言えど、お父様達のおかげで自由を満喫することが出来た。
今度は私が助ける番だ。
私1人でお父様やお母様や兄様達が助かるのなら――
「おうおう、聞き分けの良い子は好きやで。早速新しい契約書を作ろうなぁ」
肉の付いた顎を揺らしながらニタニタと笑う奴隷商。
「まちなよ……話は聞かせて貰ったけど、要は借金返せば良いんだろ?」
そう言いながら廊下の扉を開けて入って来たのはイングリットだった。
「借金の返済期限はいつなんだい?」
「ほお……これはまた、ジルコニア様とは別の意味で高く売れそうな御仁ですな……おっと、返済期限でしたか。それはもう、とっくに過ぎてますなぁ」
「……だったらあと一ヶ月、待ってくれないか? その代わり、1ヶ月で返せなかったら私も一緒に売ってくれていい」
「イングリット!! それは……駄目」
「いいんだ、ジル。旦那様には世話になったしね。それに命を惜しまなきゃ当てもある……」
「ふはっ……ふははは……ええやろ。お二人の美しい友情に心打たれた……という事にしときましょか。その条件で契約しまひょ……今、新しい契約書を作りますさかいにな」
そして、私達はその奴隷契約書にサインをした。
一月の間に白金貨400枚というのは正直不可能では無いかとも思ったが、死ぬ気になれば何とかなるもので……私達は一月の間に十数頭の竜種を仕留め(いくらかの幸運があったにせよ)何とかその金を用意することか出来た。
そう、間に合ったはず、だったのだが……
「これはどういう事だい!? 一ヶ月には間に合っただろう!!」
ジュノーの事務所にイングリットの怒声が響き渡る。
声こそ出さないが私も同じ気持ちだ。
「どうもこうも……ほれ、契約書には1週間延長しますって書かれているやろが」
「そんな……確かに一ヶ月の延長って書いてあったはず……」
「うん……確かに一ヶ月だった。魔法的な細工も……無かったはず」
「ふふん、せやろ? あんさんらの勘違いってこっちゃ」
「でも確かにっ……」
「往生際が悪いで。さっさとこれ着けよか」
ジュノーが取り出したのは『封じの首輪』
奴隷や犯罪者に使われる一定の行動や意志を封じる物だ。
一旦着けたら自分では取り外せない……
「い、いや……いやぁ……」
「くそっ……こんなっ……」
双方の同意の下に交わされた魔法契約によって私達にはそれを拒むことが出来ない。
私の両手が私の意思を無視して『封じの首輪』を受け取り自ら装着していく。
「うんうん、2人ともよう似合うで……で、な。今の仮の主はワテや。『ワテの言葉に反抗することを封じる』いいな?」
「「……」」
「返事をせんかい」
「「はい、ご主人様」」
「ふふん、よしよし、素直が一番やで……安心せい、10日後の競り市までは誰にも手は出させん。商品価値が落ちるさかいにな……後は……ああ、そうや、今日あんさんらが持ってきた白金貨400枚は利子としてもろうておきまっけどよろしいな?」
「「はい、ご主人様」」
「ぷははっ……素直でよろしいな……ご褒美にな、カラクリを教えたる……この契約書はなぁ……確かにあんさんらがサインをした物や。魔法で書き直しもしとらん。ただ、「一ヶ月」の所だけ『改変不可』の保護がされて無くてな、そこに光劣化が激しい安物のインクで書かれておる……つまり一月も光にさらすと綺麗に漂白されるのや。あとはその上から上等のインクで書き直せばええ。魔術師なんちゅう人種は魔法で調べたんが絶対と思うちょるからなぁ。よくひっかかるんや。ぷははははっ!」
「「……」」
「悔しいか、悔しいやろの? お貴族様が奴隷に落ちるなんちゅうのはワテには最高のショーやがな!」
――こうして私達は奴隷へと落ちたのだった――