ニナロウ運輸
やっと主人公が本格始動。
結果から言えば、冒険者協会と労働者の巣の両方に入ったのは正解だった。
と言うのも、この近辺には「危険指定地域」と呼ばれるところが多く存在しており、そこに入るには冒険者の資格か国の許可が必要なのだそうだ。
が、得てしてそういう所にこそお宝の眠るダンジョンや遺跡が存在したり、隣国への近道になっていたりする。
つまり俺はそこに、『人員や物資の安全な輸送』という需要が有るとみたのだ。
そして俺には貨物室部分が総無垢のアルミで出来たチートトラックがある。
これ以上安全な輸送・交通手段はこの世界には無いだろう。
早速俺は労働者の巣に営業許可を申請し、『ニナロウ運輸』を開業したのである。
※
開業してから一週間が経った。
ちゅぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいんっ
俺の手元で上がる火花。
その火花は30センチほどのアルミの棒から出ている。
このアルミの棒の正体が何かというと、貨物室に入っていた折りたたみ式の『脚立』である。
正確にはその足を掛ける部分。専門用語では踏桟と言うらしいが。
この部分をグラインダーを使って切り離し、30センチほどの棒を2本作る……。
この世界では、ほぼ最高の硬度を誇るアルミだが、なぜか『トラックの内部』で『地球製の工具』でなら……地球に居た頃と同等に加工が可能なのだ。
幸いにも貨物室にはアルミの脚立の他にもアルミサッシ30枚が載せられたままになっており、材料には事欠かない。電源は例によってシガーソケットからコードリールを使って引いているしな。
俺はこの事実に気が付いた時、この世界のチート素材であるアルミを使って護身用の武器を作ることを思い付いたのだ。
まあ、かといって俺に複雑な加工は出来ないので、単純な形の武器しか無理だが。
そこで考えたのが双節棍。2本の棒を鎖でつなげば出来上がるお手軽武器。
脚立の踏桟も大きさ的にちょうど良いし、余計な加工をしなくてすむしな。
「よっし……後は電動ドリルで鎖を通す穴を開けて……小型のカラビナとチェーンを使ってつなげて……と」
うん、完成。
ちょっと不格好だけど、ちゃんとした双節棍が完成した。
なにげにチェーン部分もアルミ合金なので強度的にもばっちりだ。
「あとは武器としてちゃんと使えるかどうか……テストしてみないとな」
俺は開けっ放しの後部扉から、出来たばかりの双節棍を持って外に出る。
そこは街の南の外輪部で街道に隣接したあたりだ。
ある物と言えば1枚の木の立て看板で、それには
『ダンジョンまで安全、快適にお送りします。
始まりの森~銀貨1枚、古代神殿~銀貨3枚
瘴気の沼~銀貨6枚、火竜山~金貨1枚。
他応相談
次回運行予定は竜の月10日午前8時(古代神殿行)
ご予約は労働者の巣ニナロウ運輸まで』
等と書かれている。
いや、書いたの俺だけども。
開業初日に冒険者組合でひっ捕まえた冒険者に初回は無料でいいからと(無理矢理)試して貰ったところ非常に好評で、それ以来口コミで徐々にお客が増えつつある。
「あ~テストには……アレでいいか」
俺は足下に転がっていた人の頭ほどの石に狙いを付けて、双節棍を構える。
「はぁぁぁ~……」
某カンフーアクションスターになったつもりで気合いを込める。
「シロウ、来たぞーーっ」
「うぁっ……ちゃ?」
さあ、渾身の一撃を、というタイミングで掛けられた声に思わず力が抜ける。
振り返るとそこには、開業初日に無料でトラックに乗せた若い戦士風の冒険者が、数人の仲間と共に立っていた。
「……何してるんだシロウ?」
「あー……なんだ、その……ちょっとした実験をね」
「……相変わらず変わったことをするヤツだな」
男は呆れたようにため息をつく。
この失礼な男はダナン。
初日にさんざん『自走馬車を冒険者の運送に使うなんて信じられない。勿体ないにも程がある』とぶつくさ言っていた割に今日で3回目の利用だ。
……一週間に3回。ずいぶんと気に入ったようである。
「ええぃ、ほっとけ。それで今日は……古代神殿か?」
「おう、そろそろ出発の時間だろ?」
「ありゃ、もうそんな時間か……で、そちらも?」
ダナンの後ろに居る3名の男女に目をやって聞いてみる。
「おう、俺のパーティでな、右から――」
「ちょっと待ってよ、古代神殿に行くのに他のパーティは居ないの?」
ダナンの話を遮って話し始める茶髪の女戦士。
「あー、今日のお客はダナン達4人だけだね」
「――――っ……信じらんない。神殿への道の途中には人面鳥の縄張りを通るのよ? こんな少人数じゃ襲ってくれって言うようなものよ!」
人面鳥って言うのはアレだ。ゲームとかで言うハーピーみたいなもんだ。
最もゲームと違って歌で人を惑わせたりはしないが、肉食で凶暴。
だがそれなりに頭も良いので大人数の集団には襲い掛かってこないのだそうだ。
「大丈夫だよ、この前も無事だったし……あー、ちょっと待ってな。これのテストだけしちまうから」
「お、さっき振り回してたやつな。なんなのさ。それ」
「一応ね……護身用の武器……脚立をばらして鎖でつないだんだよ」
「……そんな武器見た事無いわよ」
「確かになぁ。フレイルにしちゃ持ち手が短すぎるし……そんな短くて武器になんのかって気はするなぁ」
「きゃ……脚立って……そんなので冒険者でございってか?」
「ダナン、この人本当に大丈夫なの?」
俺が本当のことを言うと、一斉に呆れたようにしゃべり出す冒険者達。
うう……見てろよ。アルミ脚立舐めんな。
「この武器はな、こう、振り回して……」
さっきテストで打ち付けようとしていた石に、双節棍を思いっきり遠心力を付けてから振り下ろす。
「こう、使うっ!」
ドガァォォォォン!!!!
途端に辺りに轟き渡る轟音。
飛び散る土砂。舞い散る粉塵。
「げっ……げほっげほっ……」
「っぺっ……ぺっぺっ……なんじゃこりゃ……」
「けふっ……ごほっごほっ」
「げっほ……げふんっ……!?」
いきなり至近距離で起きた爆発に盛大に咳き込む一同。
むろん爆心地の俺が一番咳き込んだ訳だが。
しかし凄いな。アルミ製の武器とは言え、ここまでとは思わなかった。
…………俺が目標とした石はすでに影も形も残っておらず、双節棍を振り下ろした辺りは直径60センチ、深さ20センチ程のクレーターと化していた。
「……なによ、これ」
呆然とつぶやく茶髪の女戦士。
「なんで適当に振り回したただの棒がこんな事になる訳ぇ!?」
「いや、まあ……良いじゃ無いですか。これなら一応万が一のことがあっても、俺も戦力として数えられるでしょ?」
「そういう事じゃ……そういう事じゃ無いのっ! 何でただの脚立の部品がっ……」
「ラナ、落ち着けよ。シロウだから仕方ない……色々と常識の通じないヤツなんだ」
失礼な。こちらに転移して早1週間。
イングリットとジル、そして何よりイスズのおかげでだいぶこちらの常識も分かってきているぞ。
……そう言えばイングリットとジルは元気かなぁ。
あの日以来何度かギルドに顔を出しているのに、一度も顔を合わせられないんだが。
まあとにかく、今はお仕事をいたしましょうかね。
「さてさてお待たせしました。ニナロウ運輸にようこそ! 本日の目的地『古代神殿』まで片道3時間という短い時間ですが快適に過ごせるよう配意いたしますのでどうぞごゆっくり!」
※
本日のお客様は戦士のダナン、女戦士のラナ、治療術師のミクル、探索者のロックの4人。
その4人を貨物室に押し込む。
「イスズ、この4人を客車スペースへ案内して」
『はい、あるじさま』
貨物室とは言ってもイスズの空間魔法で最大50倍の広さに出来るから、客車専用のスペースを従来の2倍の空間を使って作って、そこにベンチやソファやテーブルやクッションを置いてある。
狭くは感じないはずだ。
もともとの資機材などが置いてあったスペースとは空間を隔てているので、お客に地球の資機材を弄られる心配も無い。
50倍のスペースを 資機材1 客車2 食料品2 空きスペース45 というふうに、言わばブラウザのタブのように空間を切り替えつつ活用しているのだ。
「うぉっ!? なんじゃこりゃ!?」
客室に入ってまずはロックが驚きの声を上げる。
「広いぞ!? 外からの見た目よりずっと広い……それに窓なんて無かったはずだ」
「ああ、空間魔法で見かけの2倍のスペースを確保してあります」
「このちょっとした部屋ほどの広さに空間魔法を掛けてるってのか……どんだけ金かかってんだよ」
イスズが掛けてくれたので一銭もかかってないですけどね。
「そ、それに……こんなに広く窓が開いてるのに全然寒くない……風が入ってこないわ」
「それは正確には窓じゃなくて、光魔法で外の景色を壁面に映しているだけですからね」
これもイスズがしてくれている。光の妖精だけあってお手の物だ。
「うはは、すげーだろーこのソファなんかぼよんぼよんだぜ? ミツクラ工房のソファだってよ」
「ダナン!何であんだが自慢げなのよ……って ミツクラって貴族向けのブランド工房じゃないのっ……」
「あああ、ミツクラのソファに金属鎧着たまま座るなぁ! ダナンっ!」
「シロウがいいっつってんだから良いんだよ。そもそも冒険者が主な客なのに使わんでどうするよ」
「ううう……じゃ、あたしも! 座るーーーーっ!」
すざーっと女戦士のラナさんがもう一方の長椅子タイプのソファにダイブする。
「うっはぁ……ふわふわーもこもこー……癒されるわぁ……」
何しろ開業資金が豊富だったから内装設備には金を掛けましたからね!
『お客様、そろそろ出発いたしますがご準備の方はよろしいでしょうか』
「うぉっ!? 今度はなんだ? 小さな窓が開いたぞ!」
『はい、光魔法で御者席とつないでありますので、何かあったらお気軽にお声がけ下さい』
「んー、じゃあシロウ、ワインとつまみを頼むわ……仕事前だから度数の低いのをな」
『承りました。でしたら低発酵の物がございます。チーズのセットとご一緒にお出ししても?』
「ああ、それでいい……しかしシロウ、相変わらず仕事モードに入ると、どこぞの執事みたいな馬鹿丁寧な口調になるのな」
『……仕事ですので。イスズ、お客様にワインとチーズをお出しして』
『承りました』
イスズが俺の指示で貨物室の食料品庫エリアからワインとチーズを客室に移し替える。
ゲームで言えばアイテム袋の中を並び替えただけなので、一々人力で持って行く必要が無い。
「ひっ! て、テーブルにいきなりワインとチーズが出て来たよ!?」
「そういうとこなんだよ。便利で良いじゃねぇか」
『後はお酒、軽食の他にも水、各種ポーション、使い捨てスクロール、保存食、救急キット、千里の翼、着替え等も街中でのご購入に比べ割高となりますがご用意しておりますので、必要でしたらご用命下さい』
「至れり尽くせりっ!?」
「……なんなんだよ、この乗合馬車……」
「だから言ったろ? 銀貨3枚でも安いってな」
ナビ画面に映るダナンのドヤ顔をいつまでも見ていてもしょうが無いので、俺はシフトレバーをドライブに入れてトラックを発進させた……。
※
『古代神殿前~古代神殿前~ご利用ありがとうございました。お降りの際はお足元に気を付けてお降り下さい~またのご利用をお待ちしております』
途中1回のトイレ休憩を挟んで、キッチリ3時間後に荒野の真ん中にぽつんと立つ古代神殿に到着。
ルミニウム真銀のオートバリアが車体全体に作用することが分かってから、ちょっとした大きめの石とか倒木とかが道を塞いでいても無視して走れるようになったので、走行速度は平均時速50~60キロ程度まで出せるようになっている。
馬の最高速度は時速70キロ程度と聞いたことがあるけど、長距離を行くのならせいぜい20キロ程度しか出せないらしい。
それに比べれば、ほぼ休憩無しで走り続けられるトラックは圧倒的な速度を誇る。
実際、トラックから降りた一行は呆然と(ダナン除く)目の前にある古代神殿遺跡を見つめていた。
「ほ、本当にもう神殿に着いたっていうの……」
「だから言ったろ? 神殿程度なら片道半日もかからねぇって」
「……とてもただの自走馬車とは思えんな……貴族共が使っているような自走馬車は普通の馬車に比べても特段速い物ではないはずだ」
「おまけに途中の魔物を一切気にしないでいいしね~……私、馬車に乗ったまま何にもしないでレベルが上がったのって初めてだよ」
実は途中で、案の定人面鳥の大集団に襲われたのだ。
だが、向こうの攻撃はルミニウム真銀のオートバリアで一切効かないし、無理に渡り合うことも無いと判断。
なので振り切るつもりで俺は奴らを一切無視してアクセルを踏み込んだのだ。
だが人面鳥は自走馬車一台の俺たちを与しやすしとみたのか、次々と突っ込んでくる。
結果、雑魚敵に突っ込むV-MAX状態で大量の人面鳥を討伐する事になってしまったのだ。
「4人様のご利用と飲食代、合わせて銀貨14枚になります」
「おう、じゃあこれな」
「……はい、確かに。毎度ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」
「3時間で神殿まで送って貰って、飲み食いして、レベルも上がって……4人で銀貨14枚……」
「……おまけに車内で寝られるほど乗り心地もいいしな」
「うん、絶対またお願いするよ! 乗ってるだけでも楽しいもん!」
「ははは、はい、是非またお待ちしていますね」
4人が古代神殿遺跡に入っていくのを手を振って見送ると、俺は貨物室から乗客募集の木の立て看板を取り出す。
ここで街に帰る別の冒険者を募集するのだ。
帰るついでなので金額は安めに設定してある。
大抵遺跡に潜った冒険者達は圧縮袋に入りきれないほどの戦果を持ち帰るのが常なので、結構利用者が居るのだ。
「おう、ニナロウ運輸じゃねぇか。この自走馬車街まで行くのか?」
と、看板を立てる前に早速声がかかったようだ。
振り返ると5人組のパーティが立っている。
どうやら以前ウチを利用したことがあるお客みたいだな。
「はい、ニナロウの街までお一人様銀貨2枚ですが、ご利用になりますか?」
「おう、頼まぁ! 『千里の翼』を使えるほど裕福じゃないんでな! がははっ」
千里の翼は6名以内のパーティを登録した場所に転移させる魔道具だが、如何せん使い捨ての上に一つ金貨10枚もして、おいそれとは使えないのだ。
それでも大抵のパーティは万が一のために一つは持っている物なのだそうだが。
「ご機嫌ですね。よほど戦果があったようですね」
「あー、いや違うんだよ。ウチのリーダーがご機嫌なのは、近々奴隷のセリ市がニナロウで立つためでね。そこにお目当ての娘が出品されるんだってさ」
「うわーリーダーさいてぇ」
「ばっか、奴隷ハーレムは男の夢の一つだろ!? イングリットやジルなんて外見も実力も一流の冒険者が奴隷として出品されるなんて滅多に無いことなんだぜ!?」
「だとしてもリーダーの稼ぎじゃ無理よ。コボルドの雑益奴隷で我慢しておきなさい」
「いるかそんなのっ! 大体だな、買えなくてもセリじゃ体に傷が無いか全部剥いて見せてくれるんだぜ? イングリットの褐色の肌が拝めるってだけで行く価値はあるだろうがっ!」
冒険者でイングリットとジル……って、あの2人だよな……?
奴隷として出品……? 一体どうなっているんだ?
「……おい、ニナロウ運輸の旦那、どうしたよ? 街に帰らねぇのか? おーいっ」
俺はしばらくの間、お客の声も耳に入らず呆然と立ち尽くしていたのだった……。