閑話:エ○フがエルフになった訳
イスズ視点のお話です。
――イスズ視点――
気が付いた時、わたくしは自走馬車になっていました。
『な… 何を言っているのか わからねーと思うが(以下略』
………………あら?
なんでこんな事を言ったのかしら。
それよりも……なぜわたくしは実体を持っているのでしょうか?
元々わたくしは『セツカ』に無数に存在する光の妖精の一人。
それなりに力もあり、おかげで『イスズ』という個体名も持っています。
ですが、それでも……むしろ精霊に近い性質を持つ私達は物質的な肉体など持っていなかったはずなのですが。
……それに、これほど明確に『個』としての意識も持っていませんでしたわね。
「ふが?」
あら。わたくしの中に居たあるじさまが目を覚ましたようですね。
…………あるじさま?
ふむ……なるほど。
どうやらこの方の所有物である異界の自走馬車が転移してきた際に、元々のわたくしと存在が重なり合って融合してしまったのですね。
よくよく落ち着いて考えてみれば、私の中に異界の知識やあるじさまと過ごした記憶も確かにあります。
「だってなあ……これがお約束なら、もれなく魔獣かモンスターに接近遭……遇……」
「……グギャーーーーーーー!!」
……などど考えている内にあるじさまに危険が迫っていたようです。
こちらに向かってくるのはランドドラゴン。
知性こそ無いですが、竜種の端くれだけあって非常に高い身体能力を持った魔獣です。
ああっ、危ない! 早く私の影に隠れてください!
ほっ……ドラゴンは私の体にぶつかって気絶しているところを2人の女冒険者に倒されたようです。
……それにしてもこの体は丈夫ですね。
一体何で出来ているのでしょう……ちょっと確認してみましょうか。
ふむ……『セツカ』では未知の素材もふんだんに使われていますね……ぷらすちっく……かがくせんい……ごむ……
ああ、この貨物室に使われている金属は『セツカ』にも存在してますね。
……って、これ……『セツカ』では『ルミニウム真銀』と呼ばれる稀少金属ですよ!
強度はオリハルコン以上の上に魔力を蓄積する性質までもっている超魔法金属です。
そりゃ妖精と相性が良いはずですね。
「あ、あーと、ええと……そ、そうだ! 急ぐなら送っていくよ!」
あっ……と。
考え事をしている内に女冒険者の2人も同行する事になったみたいですわね。
そこそこ腕も立つようですし、あるじさまの力になってくれるようであれば同行もやぶさかではありませ……ひゃうっ!!
あ、あ……びっくりしました。
一瞬私の車体に電気が走ったかと思うと、体の底から力が湧き上がってきます。
ああ、どうやらあるじさまがエンジンを掛けられたのですね。
私の体をこんなに熱くさせるなんて……罪なお方♥
※
街道をあるじさま方を乗せてひた走るわたくしは、その身体性能に驚愕していました。
これだけの重量の車体をこれだけの速度で動かすには、一体どれだけのエネルギーが必要なのかと思ったら……消費するエネルギーはごくわずか。
どうやら燃料タンクの軽油を燃やして、その爆発力を動力に変換しているみたいですが、その変換効率が尋常では無いようです。
爆発の余剰排気を吸気に転用して燃焼を高めるとか、それ以外にも様々な超技術が私の体には仕込まれているようですね。
……これほど些少の熱量で私の体を動かせるのであれば、もしかして魔力を代わりに注いでもいけるのではないでしょうか。
試しに軽油の供給を止めて魔力を極小の炎系魔法に変えて爆発させてみます。
どのくらいの爆発をどのタイミングで起こせば良いのか、というのは電子制御で無意識に行えるようですので問題有りませんね。
……うん、エンジンは普通に燃料の代わりに炎系魔法で動かせるようです。
しかも走っていればラジエータや吸気口から常に新鮮な空気と共に自然界の魔力が補給されますから私のご飯にも困りませんしね。
そのまましばらく、わたくしはあるじさまとの至福のドライブを楽しんでいました。
一妖精だった頃とは比べものにならない物質としての安定感!
体を震わせる力強いエンジンの脈動!
そしてあるじさまの華麗なドライビングテクニック!
あるじさまのしなやかな指が体の中をなでさする度に、わたくしの全身に歓喜の炎が渦巻くのです。
急なシフトチェンジをしてわたくしを強引に責め立てたかと思えば、繊細な手つきでウィンカーをはじいたり……さらには掌でさするようにハンドルを回したり……その度にわたくしはああ、と悦楽のため息を吐かされます。
もう、もうあるじさま無しでは……
そんな至福の時間も、今日はそろそろ終わるようです。
日が傾き始める頃になって、あるじさまは少し開けた場所に私を停めてエンジンを切ると、例の2人を連れて私を降りてしまわれました……
……ああ、そろそろ今日は休むのですね?
本当の事を言えばわたくしの体の中で休んで頂きたいのですが……いえ、僕ごときが不遜でした。
ゆっくりお休みくださいませ。
夜半も過ぎた頃。
わたくしは周りがにわかに騒がしくなったのに気が付きました。
……どうやらワイトが近くに発生していたようですわね。
女冒険者の2人は何をしていたのかしら。
私のあるじさまの身を危険にさらしたら許しませんわよ。
……と、あるじさまがわたくしの中に入ってきました。
貨物室の方をなにやら探しているようですわね。
……ああ、武器を探していたのですか。
そんな事をしなくても、私の中に居てくださればワイトごとき通しはしませんのに。
HID強力ライトまで持ち出して……よほどあの女達が心配なのですね。
お優しいあるじさまです。
それにしてもライトですか。
電気やライトは(元)光の妖精たるわたくしの得意とするところ。
お力になれそうですわね。
でもそのことをどう伝えたら良いでしょうか。
人間ならぬ自走馬車の身……と、あら?
……ちょうど良い物がありますわね。
なびげーしょんしすてむ、ですか。
これを使えばあるじさまと意思疎通できそうです。
まずは電子を操って7インチ液晶に私の姿を描き出します。
モデルはあるじさまの思う最もポピュラーなエルフ像で良いでしょう。
……たしかディードリ○トとか言いましたか。
地球では、時折古いゲーム雑誌を車内で読みながら「スレンダーエルフ萌えーディ○ドは俺の嫁」などと仰っていましたから、そう外してはいないはずです。
後は合成音声を作ってスピーカーから流せばいいのです。
『あるじさま、お困りですか?』
「うん、お困りです……って、誰っ!?」
ふふふ、驚いた表情もステキです。あるじさま。
『私はイスズ……あるじさまの所有物にして忠実なる僕』
「え、エルフ……?」
『はい。わたくしは光のエルフのイスズ……です』
あるじさまのエルフのイメージを壊さないように神秘的に見えるように振る舞います。
そして私が一通りこの自走馬車の体を持つに至った経緯を話すと、あっさり納得され、続いて現状の打開を相談されました。
さすがあるじさま。切り替えが早いです。
わたくしが早速HID強力ライトとヘッドランプによる聖気の放出、という手段をお伝えすると、瞬く間に華麗なドライビングテクニックを用いてワイト共を殲滅してしまいました。
さすがあるz(以下略
その後、野営を早めに切り上げて再び私に乗ってくださったのは嬉しい展開でしたが、同行の女冒険者達の好感度がうなぎ登りに上がって行っているのが少し心配です。
特にイングリット。
あるじさまが貧乳好きにして巨乳好きというおっぱい両刀使いなのを看破し攻略にかかるとは……侮れません。
ジルコニアの方は可愛らしい事に頬を染めているだけですからそうそう心配は無いでしょうが……。
まあ、車外に出たあるじさまをお守りするにはわたくしはまだ力不足ですから、彼女達が良い道連れとなる事を願いましょう……。




