アンデット達の輪舞曲
そろそろ感想欄でこちらの構想を言い当てる方が出始めていたので、急いでup(笑)
追伸:11/26 日刊5位 ありがとう御座います~~!!!!
「シロウ殿、起きて……シロウ殿!」
「んが!?」
ジルさんの張った結界内は温度が一定に保たれ、小さなたき火で十分暖かかった。
その為いつの間にかうとうととしてしまっていたのだが……イングリットさんの切迫した声に俺は思わず飛び起きた。
「ななっ……なんです!? 何か緊急事態でもっ……!?」
「ワイトが……近付いて来ている」
「わいと?」
「アンデッドの一種……比較的新しい死体に人の精気を求めてさまよう霊体が取り憑いたものだ」
「たぶん……近くで死んだ冒険者の遺体に……取り憑いたんだと思、う」
「え、ええ? でも結界とかいうので近寄れないんじゃ……」
「ワイトは高位アンデッドの一種……結界の忌避効果よりもワイトの生者を求める本能の方が強い」
俺の疑問にイングリットさんとジルさんが交互に答えてくれる。
「シロウ殿は何か……武器になる物を持って下がっていて」
「ら、了解っ!」
俺は急いでトラックに駆け戻る。
「武器っ……何か武器になる物っ……」
俺は必死になって貨物室の中身をあさった。
幸い、工務店の機材もいくらかあったので武器になりそうな物は事欠かないが……
電動丸鋸……ダメだ、リーチが短い。
大型オルファカッター……同上。
五寸釘を投げつけるとか……当たる気がしねえ。
スコップ……某国工作員なら使えるかもしれん。
色々とほじくり出した結果、結局大型のバールを持ち出す事に。
「あ、あと……夜間だからこれも必要かも」
俺は夜間工事に必須だったそれも一緒にひっつかむと、運転席に廻りシガーソケットに変換コードを突っ込んだ……
※
――イングリット視点――
「ジル! シロウ殿は……!?」
「イングリット……大丈夫、馬車の中に引っ込んだ、から」
ふう。それなら一安心か。
私は30メートルほど向こうに見える黄色い光を纏った6人の人型から目を離さずにそっと息をついた。
見た事も無い高性能な自走馬車と共にこの大陸に飛ばされてきたという『転移者』シロウ。
彼はどうも雰囲気からして戦いに向いているとは思えない。
行きずりである私達に高価な香辛料を振る舞ったりと、どうもお人好しが過ぎて心配だ。
「イングリット、あともうすぐで接敵する……」
「了解、ジル……剣に付与してくれ」
「うん『聖水よ彼の剣を祝福せよ』
ジルの魔法で私のバスタードソードに微光を放つ聖水がまとわりつく。
高位アンデッドはやっかいな事に、魔法か稀少金属の武器か魔法が付与された武器でないと倒しにくいのだ。
「戦士タイプ3魔術師タイプ1弓兵タイプ2……前衛は私が止めるから、ジルは弓兵タイプを頼む」
「分かった」
ジルにそう言い置いて結界を出る。
魔術師タイプはアンデッドと化した際に魔法が使えなくなっているから、他のよりも脅威度は下だ。
とりあえずは後回しにしていいだろう。
「おっと、早速おいでなさったな?」
片手剣と小盾を装備したオーソドックスな戦士のワイトが真っ先に私に斬りかかってきた。
それをバスタードソードで受け流して脇に抜け、背後に回ってその首に刃を振るう。
「ぐぎゅるぁぁぁぁ……」
ワイトは聖別された私のバスタードソードにそれなりのダメージを受けたようだが、首を落とすには至らなかった。
ぎゅるん! と生者には不可能な動きでもって上半身だけを回転させ剣を振るってくる。
「ち、こいつら手強い……生前のレベルが高かったのか……?」
ワイトが高位アンデッドとされる理由の一つに、生前の力量がある程度残っているということがある。
ワイトの素材となった人間が生前強ければ強いほどワイトとなった際に手強くなるのだ。
「これほどの力量があるくせにっ……こんな所でワイトになってんじゃねぇ……よっ!」
ワイト戦士の変則攻撃をさばいて、今度は正面から喉を突き刺す。
それが首の後ろに傷を負っていたワイト戦士のとどめとなり、地面に倒れ伏した。
……奴らの弱点は基本的に生きている人間と変わらず、頭や喉や心臓だ。
それは奴ら自身に『自分は死んでいると納得させる』事で倒す事が出来る為なのだが。
ただそれにも、やはり魔法や魔法の武器でないとロクに痛みを感じてくれないので効率は非常に悪くなる
「っと……続いてお客さんのお出ましだな」
戦士系の残り2体がまとめてかかってきた。
こいつ等は先ほどのヤツより、またさらに生前の技量が高いらしく……防戦一方に追いやられる。
「ジルっ……サポートできるかっ?」
「ちょっと……厳しいっ……弓兵タイプ、対魔法素材の服を着ている……ダメージの通りが悪い」
ちらりと横目で見てみると、確かにジルが『切り裂く風』を連射しているにもかかわらず弓兵達はいまだ健在のようだ。
それに加えてジルは『防矢の風壁』も同時に維持して弓兵からの攻撃を防いでいる。
確かにこっちをサポートする余裕は無いようだ。
……ちっ……このままじゃジリ貧か……?
せっかく奴隷になる未来を回避できたかと思えばっ……運が悪いったら無いな。
そう、私が覚悟を決めかけた時――
「なにっ……? これ……は!?」
清浄な気を含んだ強力な光が辺り一面を照らし出したのだった。
※
――史郎視点――
俺が貨物室から取り出したのは夜間工事用のHID強力ライトハンディタイプだ。
夜間戦闘で相手がアンデッドともなれば明るい方が良いだろうと単純に思ったから……だが。
バッテリー内蔵だが、どの位残っているか分からないので変換器を通じてシガーソケットから給電する事にする。
「ああ、どうせなら車のヘッドランプも併用したほうがより明るいな」
そう思い直して運転席に座りエンジンを掛ける。
トラックの向きを調節してイングリットさん達を照らす為だ。
「はあ……いくら剣と魔法のファンタジーつってもこう命の危機が連続してちゃ楽しめねぇよなぁ……」
トラックを切り返しながらついつい出てしまうため息。
『あるじさま、お困りですか?』
「うん、お困りです……って、誰っ!?」
涼やかな女性の声にうっかり普通に返事してしまったが、車内には俺しか居ないはず。
一体どこのどなたでありましょうか。
『私はイスズ……あるじさまの所有物にして忠実なる僕』
ぶうん……と電子機器が立ち上がる音がして、電源を入れてもいないカーナビに明かりが灯る。
そこに映ったのは……
「え、エルフ……?」
金の長い髪を揺らす若い女性。その髪の間からは長い耳がぴょこんと飛び出ている。
体つきははスレンダーながら女性らしい曲線で構成されていて――一糸も纏っていない。
それはファンタジーもので定番の耳が長く美形揃いの妖精族――エルフそのものだった。
『はい。わたくしは光のエルフのイスズ……です』
ぴょこん、と、画面の中のエルフ――イスズがお辞儀をする。
「うぉっ……しゃべった……ナビにこんなプログラムとかあったか……!?」
『元々のプログラムにはございません。わたくしがこの自走馬車と一体化したのは、あるじさまがこちらの世界――セツカに落ちていらっしゃった時ですから』
「い、一体化した……?」
『はい。元々わたくしはこのセツカの妖精の一体でしか有りませんでしたが、この自走馬車が転移してきた際、私と位相が重なり合ってしまったのです』
「い、位相が重なり合って……???」
『あるじさまの分かりやすい言葉で言うなら……テレポートしたら「いしのなかにいる」状態だったという事です』
「あ、なるほど……って、なんでそんな例えが……」
『ふっふっふ、今の私はこの自走馬車と一心同体、同存在なのですよ。あるじさまがこの10年、自走馬車の中でしていた事なら大抵知識として持っております。例えば車内での昼食休憩には必ずミルクプリンをデザートに買うとか』
ぐ。微妙に恥ずかしい歴史を掘り出しおって……
「……なるほど。その手の知識は今後許可無く披露するのは禁止な」
『……承りました。もとよりあるじさまの不利益になるような事はいたすつもりもありませんが』
「で、そのエルフ様がどうして俺の僕なんだ?」
『はい。わたくし光のエルフのイスズとイスズエ○フ……全くの偶然ではありますが、この真名の一致が一つの原因です。位相が重なり合った際に安定を産み、存在が同一化してしまったものと思われます。つまり、史郎様は自走馬車の所有者であられますので、わたくしのあるじさまでもあると言う訳です』
「まあ、よく分からんが味方なのは分かった……で、この状況……何とか出来るのか?」
『たやすい事です。あるじさまがしようとしていた通り、HIDライトとヘッドランプを不埒者どもに浴びせてください』
「……そんなんで良いのか?」
『ええ、私はこれでも元々は光の妖精。光という触媒があれば、それに聖気を通すことなど造作もありません。アンデッドごときひとたまりも無いでしょう』
「よっしゃ、それじゃ早速……」
いまだ半信半疑ながらも何もしないよりはいいかと、HIDランプとヘッドランプを点灯し、イングリットさん達が居る方へと向ける。
「あ、すげえ……」
その途端、まるで強酸をかぶったかのように溶け出すワイト達。
2体のワイトに苦戦していたイングリットさんも、何が起こったのかと呆然としている。
「よし、近くの2体はやったな。後は奥の3体か」
ギアをドライブにして発進。弓兵ワイトの近くに移動して再びライトで照らす。
弓兵は攻撃対象をジルさんからトラックに変えたようで矢が何本か飛んできたが、トラックのフロントガラスを貫く事は出来なかった。
「うぉぉ……びっくりした……もしかして車体がやたら丈夫になってたのもお前の仕業?」
『半分は。元々この車はこちらの世界で言うところの稀少金属がふんだんに使われていますので、転移してきた際に素材の特質がこちらの世界に合わせて変化し強度も上がっているようですね』
「ふーん、なるほどなぁ」
等と話している間に弓兵ワイトも溶けて消えた。
後一体残っていたはずだがなぁ、と周りを見渡してみると、イングリットさんとジルさんの集中砲火を受けてすでに沈んでいたのだった。
※
「……すると……なにか? お前の自走馬車には光のエルフ様が宿っていらっしゃるというのか?」
「あり得ない……非常識」
ワイト達を一掃した後、当然のごとく俺はイングリットさん達に説明を求められた。
なので「自走馬車の照明装置にエルフの力を載せて照射した」と正直に話したというのに、彼女達の反応はいまいち信じていないようだった。
仕方なくイスズを呼び出して直接話をさせると、やっと驚きつつも納得したようだった。
その後、ワイトの出た地にいつまでも居るのも良くないと言う事で、荷物を片付けてたき火の始末をすると、まだ朝には早いが移動を再開する事にした。
座る順序は助手席にジルさん、真ん中の補助席にイングリットさん、運転席に俺だ。
運転中に眠くならないように彼女達と色々話しながら街道を走行していたのだが、夜ということもあってか段々と話はピンクな方向に。
「まあ……なんにしてもシロウ殿に助けられた事には違いない。この礼はいずれきっとする。あいにく今は持ち合わせが無いのだが……ああ、体でもいいのなら一向にかまわんぞ?」
「だからっ……イングリットは……やたらとそういう事を言っちゃダメっ……」
「そ、そうですよ、もっと自分を大事に……」
「はっはっは……ジルもシロウもお堅いな? だが私とてむやみと体を交渉材料にしている訳では無いさ。抱かれてもいいと思える男だけだ……むろん、シロウの事だぞ?」
むにゅり。
イングリットさんが俺の左腕を取って自分の豊球に押しつける。
あああ、俺の左腕だけ天国に行ってるんですがどうしたらいいでしょうか。
『走行はある程度サポートしますのであるじさまのご随意に』
「ふふふ……ほらほら、イスズ様もそう仰っている。もっとこっちへ腕を貸しなよ……」
「だから……ふしだらダメぇ」
「ん、なんならジルも混ざるかい? ジルもシロウが助けてくれた時は……ぽーっと真っ赤になってたじゃないか」
「ちがっ……違うのっ」
「いや、だから運転がねっ危っ……」
東の空が明るくなる頃まで、かような攻防は続き……俺の自制心と精神力をがりがりと削り続けたのだった。