閑話:ナインの日記
トリ☆トラ外伝です。
ナインちゃんが主人公ですが、特に山も何もありません。
地球に魔獣居ないですし(笑)
6月1日
私の名前は「せんどう・ないん」といいます。
あるりゆうから、べつのせかいからまよいこんできてしまいました。
こちらの世界に来てからいっかげつほどもたったでしょうか。
文字のれんしゅうもかねてこの日記を書いています。
こちらの文字は幸いにも、セツカの文字とほとんど同じこうせいの……ひらがな、かたかな、かんじ、あるふぁべっとなどが入り交じったこうせいをしていました。
ですが、きぞくの子女であったわたしたちは、女人文字として広まっていた「ひらがな」位しか習得しておらず、よむことはできても、いまだにむずかしいかんじは書けません。
ようれんしゅうというところです。
しかし4人分の能力のせいでしょうか、せいぜんよりはるかにたやすくおぼえられます。
もっとれんしゅうすれば不自由ないくらいにはおぼえることが出来るでしょう。
この日記帳もそうですが、一太郎おとうさまに文字のれんしゅうにと頂いた『コ○ヨのノート』はれんしゅうに使うのはもったいないほどじょうしつの紙で出来ていますので、できれば使わずに私のたからものにしたいと思います。
6月18日
だいぶこちらの文字にもなれたと思います。
特にカタカナを使うケースをようやく実感で判別できるようになってきましたし、漢字もたくさん覚えました。
美都子義母が言うには、ひっき能力だけなら同年代の……小学校高学年レベルに達していると言う事です。
小学校とはなにか、と聞いたところ、なんとこの世界……というかこの国には、一ぱん庶民が最低でも9年間勉学にはげむことが義務づけられているのだそうです。
自国語は言うに及ばず、算術、自然のせつり、自国史他国史、芸術まではば広く。
貴族以外にそんな事をしょうれいするなんて……とおどろきでした。
そして更にお義母さま達は
「小学校はその中でも最初の6年間を担当するところなのよ、おともだちも一杯いて楽しいわよ」
「そういや、それだけ文字の読み書きが出来るのなら、そろそろ小学校に通っても良いかもしれねぇな。どうだ、来月から通ってみるか」
と、私に学校へ通うことを勧めて下さったのです。
そんな高等教育を受ける機会を作って頂けるとは思ってもみなかったので、思わずお二人に抱きついて泣いてしまいました。
……恥ずかしい。
7月3日
今日から麓の小学校に通うことになりました。
文字も常用漢字程度なら問題なく使える様になった、とお義父様に太鼓判を押されましたので、勉学にも支障は無いでしょう。
小学校までは歩いて1時間程かかるようで、本当なら麓でバスに乗るのだそうですが、このフレッシュゴーレム製の体なら20分もかかりません。初夏の空気もすがすがしく、ちょうど良い朝の運動と言ったところです。
それに背中に背負うお義父さまに買って頂いたランドセルの美しさにも心躍ります。
革製品なのにここまでの光沢を出せるというのは、おそらく超一流の革職人が丹精を込めて仕上げた一級品なのでしょう。
私も元は妙齢の貴族子女でしたから、高級鞄などは見慣れておりましたが、ここまでの物はありませんでした。
地を駆ける度にぽんぽんと背中で踊るランドセルの感触と、周りの景色を楽しんでいる内に、私が通う美里小学校にはあっという間についてしまいました。
しかしこれは……
まるで王都の城のように巨大な建築物です。
……流石に国民のほとんどが通う教育機関ですね。そう考えれば大きいのも頷けます……
私は偉容すら放つその巨大建築物に、意を決して足を進めていったのでした。
「はい、これから一緒にお勉強をしていくことになるお友達を紹介しますねぇ~」
私は森下雅と名乗った若い女性に案内されて、一つの教室の前に立たされていました。
この方が私の担当教師なのだそうです。
おっとりして優しそうな方で、少し安心しました。
……そのふくよかな胸部は女としての劣等感を激しく刺激しましたけど……しょうが無いんです! 今の私は子供ですから!! これから未来があるのです!!!
「では泉堂さん自己紹介を」
森下先生に促されて私が一歩前に出ると、途端にざわめきが大きくなります。
……どうも彼らにはこの銀の髪と緑の瞳が珍しいらしいのです。
確かにこっちの世界に来てから黒髪と栗色の髪以外見た事がありませんしね。
でもまったく居ない訳では無く、外国にはこういう髪の人種も居るそうなので、私の身分としては『国際結婚をした両親が一人娘を残して事故で亡くなり、親類の泉堂家に引き取られた』という設定になっています。
「泉堂ナインです。母はイギリス人、父は日本人です。両親が亡くなり泉堂のおじさまに引き取られ、こちらの学校に通わせて頂くことになりました。こちらの常識には疎く、色々とご迷惑をおかけすると思いますが、温かく見守って頂ければ、と思います。皆様どうぞよろしくお願いいたします」
しーんと静まりかえる教室。あら? 何かまずいことをしてしまったでしょうか?
「うふふ~すごいでしょ~? ナインちゃんは日本に来てまだ2月も経っていないのに日本語ぺらぺらなのよう?」
ぐりぐりと私の頭をなで回す森下先生。
あっ……ちょっと……だいぶ……気持ちいいです。
思わずうっとりとなって目をつむってしまいます。
「すっ……げぇ……」
ぽつり、と呟かれた一言が静かな教室に響き渡ります。
「すっげぇ! 外人なのに日本語うめぇな!」
そう大きな声を上げたのはきかん気そうな男の子でした。
それを切っ掛けとして一気に教室の中が騒がしくなります。
「フランス人形みたい! かわいい!!」
「髪さらさらね」
「山越より日本語上手いんじゃね?」
「てゆうかあんな大人みたいな挨拶できないよ~」
というか、ちょっと騒がしいレベルではありません。
みんなが一気に喋ってきて、何を言っているのか聞き取れない程です。
「はい、みんな静かにー朝のホームルームは自己紹介の時間にしますから、その際に質問があれば順番にね? おーい、聞いてる~!?」
結局その時間は熱狂した子供達にまとわりつかれ、質問攻めにあうこととなったのでした。
7月5日
この世界には魔法がありません。なので、学校といっても魔法などは教えないのです。
なのです、が……
どうやら私は魔法が使えるようです。
この体が元々セツカで作られたものだから、なのでしょう。おそらく。
しかも4属性も使えるみたいです!
4属性と言えば伝説級の存在ですよ!
セツカでもおとぎ話位でしか聞いた事はありません。
このナインとしての体と魂はルシーダ、レオナ、ソフィーティア、プリムラの四人から出来ていますから……おそらくその四人それぞれが生前持っていた魔法適正――地、水、火、風の四属性が上手く反発しないでゴーレムの体に定着したのでしょう。
……確かセツカではこのフレッシュゴーレム製の体でも魔法は使えなかったはずなので、この世界に来たショックでどこか魔力の歯車がかみ合ったのかもしれません。
今はまだ炎の矢とか石弾とか簡単な魔法しか使えませんが、魔力容量まで四人分有るので、練習もし放題です。
早速、自宅近くの山中で練習も兼ねて石弾で山鳥を狩り、お義父さまへのお土産に持ち帰ったら大層褒めて頂きました。
ですが、同時に
「この鳥は狩猟許可が出ている鳥だからいいが、中には狩猟を禁じられている動物や鳥もいる。期間や場所によっても厳しく規制されているから、狩りに行く時は事前に儂に相談してからな」
との注意も受けてしまいました……ヘタをすればお義父さまにご迷惑を掛けるところだったのですね。猛省しなければ。
さて、話は変わってこちらの世界の学校のことですが。
思った以上に高度な教育を教えているようです。
私の記憶力が4倍になっていなければ、ついていくのも大変だったかもしれません。
特に自然の仕組みや科学等は魔法に応用できそうで楽しみです。
7月10日
今日は私の親友となる子との出会いを書いてみたいと思います。
……学校に通っていると、私の基礎能力が他の子供達に比べて異常に高いことが分かります。
ゴーレムとしての身体能力に加え、おそらく常人の四倍の記憶力。
おかげで勉強でも体育でも常にトップクラスです。
本来ならここまで違えば異物として恐れられてもおかしくないレベルなのですが……
子供達は怖々ではありますが私と普通に友達として接してくれます。
その理由を私はクラス委員長の瀬戸水津葉さんに聞いてみたことがありました。
答えは「千寿ちゃんで慣れているから」とのことでした。
実はその子こそ、私が力をセーブし損ねた原因だったりするのですが。
……いや、だってその子が普通に鉄棒で大車輪をしたり、幅跳びで砂場を飛び越したり、4桁かけ算を暗算でこなしたりしていたもので……流石に10才位の子に負けたくないというか……ちょっとムキになって張り合ってしまって。
その子のレベルが小学生として異常なまでに高かったのだ、と気付いた時には時すでに遅く、私はクラスの中で千寿さんに匹敵する一種のスーパーマンと認識されてしまった後だったのでした。
おまけに当の本人から
「……私が言えた義理じゃ無いけど、あまり常人離れした力は見せない方が良いよ? ナインさん、まだ全然本気じゃ無いでしょ」
と忠告されてしまいました。
しょ……小学生に諭されるとは……。
「まあ、でも……私もあんまり上手くないんだけどね。力を隠すの。何しろ家族が揃って怪物級だから……つい油断しちゃうんだよね」
「ご家族も……凄いの?」
「うん。お母さんは剣の一太刀で岩山を切り裂くし、お父さんは呪文一つで池を蒸発させるし……」
ちょっと待て。
何かおかしな事を聞いた気が。
それは人間離れというレベルでは無いと思うのですが!
岩山切り裂くとか、池を干上がらせるとかどこの土地神様ですか!!
そ、それに……この世界には魔法は無かったのでは!?
「おまけにおばあちゃんに至ってはある意味神様レベルの力を持っているし。おばあちゃんなのにお姉ちゃんだし」
ああ、もう……千寿さんが何を言っているのか分からなくなってきました。
でもおそらくは本当なのでしょう。
千寿さんを見ているだけでその片鱗はうかがえますし。
「まあ、なんにしろ、ある程度力を見せても問題ない友達が増えたのは嬉しい。ナインさん、友達になってくれる?」
「え、ええ……こちらこそ!」
そして私達はがっちりと握手を交わしました。
他の子供達とは違う、力を感じる手。
これが生涯の親友となる神楽千寿さんとの出会いだったのでした。
後半の展開が訳分からないという方は拙作「劣化賢者の幻想譚」を最後まで読んで頂けると誰のことを言っているのか分かります(笑)
本当はこんな変化球、あんまり良くないとは思うのですが。




