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一応の完結です。

なんというかエンディングらしくないエンディングですが。

 テミン村の領主となったからには村民にそれなりに豊かになって欲しい。

 というか、今現在のテミン村はまさに貧村と言うに相応しく、住人達は食べていくのがやっと、と言う有様。

 飢饉でも来れば間違いなく娘を奴隷商人に売りに出すレベルだ。(俺が領主に就任した際にある程度税を下げたので、多少はマシになったようだが)

 なので、どうにか農作物の生産性を上げられないだろうかと考えていた訳だが……その打開策はシャーリーが屋敷の庭園の隅に作っていた小さな菜園から見つかった。

 切っ掛けはその庭園を偶然見つけた時にイスズの「祝福」を屋敷の菜園に対して掛けてみたらどうなるかと思い付き、ちょっとした好奇心で実験したことからだった。


 元々「祝福」は生物に対して掛けるものなので、ダメ元でやってみたのだが……

 結果から言えば効果は絶大だった。

 シロウト(シャーリー)の手慰みで育てていたミニトマト(ぽい野菜)の苗に掛けてみたところ、収穫時には普通のトマトサイズまで立派に成長していたのみならず、更に加えて糖度も高く滋味に溢れた味になっていた。

 良くある農政チート定番の腐葉土も与えてないし、家畜の糞などを使った肥料も与えていない。(そもそもどんな加工をしたら排泄物が肥料として使えるかという知識も無いし)

 なので、これは純粋に「祝福」の効力なのだろう。

 考えてみればイスズ自身光の妖精なので、もしかしたらミニトマトの光合成能力を強化してしまったのかもしれん。それにそもそも植物だって生物には違いないしな。


 いずれにせよ農作物に対して大きな効果が見込める事が判明したので、その実験結果を公表し、村民で希望する者には有償で祝福を掛ける事にした。

 代金は収穫の10%。

 初めは懐疑的な目で見ていた農民達も、祝福を受けた作物は麦や現金の代わりに税として納めることも出来る、としたところ希望者が続出。

 初年度は全農地の1割ほどに祝福を掛けることと相成った。

 もちろん結果は大豊作。

 小麦は面積比300%の大豊作だったし、野菜はことごとく倍ほどの大きさに成長し、味も濃厚な物が実った。

 これらは近郊の都市で(つまりニナロウだ)飛ぶように売れ、祝福を受けた者達の収入は、領主オレに約束の10%の作物を差しだしても前年度の倍以上になったのである。

 となれば残りの農民達もそれに続くのは道理。

 翌年からは、ほぼ全世帯の農民がイスズの祝福を受けて高品質の農作物を生産するようになったのである。


 で、その大量の農作物の10%を受け取った俺はどうしたかというと。

 もちろん多少は屋敷で消費したのだが、そのほとんどはイスズに積んで王都や遠隔地の都市――ノークタン、アルカ=ディア、ピクシィウ、アットノーでテミン村名産品として売りさばいた。

 それらは普通の作物に比べて2倍近い値で飛ぶように売れ、結果的に普通に税を徴収するよりもかなり多くの現金収入となったのであった。

 つまり近郊のニナロウは農民自身が行商に出て現金収入を手にし、彼らが直接行けない遠隔地は俺が直接輸送するって訳だな。

 で、その際各都市で土地の名産――高品質な農具や布製品、塩、雑貨などを仕入れて帰ってきて、テミンで販売する訳だ。

 現代で言えば田舎の移動スーパーみたいなもんだ。

 これは、どうせ祝福してもらえれば豊作になるんだから、と、わざと作付けを少なくして来年以降手抜きをしようとする者達が出ないようにとの意味もある。

 購買意欲をあおって現金を消費してもらおうという訳だ。

 で、この頃から目に見えてテミン村に移住者が多くなってきたのだった。


 そして3年目。

 人口はとうとう600人を突破。

 パーセンテージで言えば20%近くも人口が増えたことになる。

 で、人口が増えればその分税収入も増える。

 その資金で畑や道路を広げて……と順調そのものだったのだが。


 好事魔多し。


 その年の秋にニナロウ近郊の森に魔獣が大量発生。

 森からあふれ出した魔獣によってニナロウに少なくない被害が出たのだった。

 もちろん俺やジル、イングリットもイスズに乗って迎撃に出たのだがすべての被害を防ぐことは出来ず……

 せめてもの気持ちとして、その年の「祝福」の代金――10%分の農作物は被害者達への見舞いとして使ってくれるようにと王国へ供出したのだった。


 そしてその年の暮れ。

 毎年この時期は各地の領主が王城に招かれ論功行賞が行われるのだが――


「テミン村領主シロウ・センドー子爵。そなたは領民の生活環境改善に多大な功が有り、テミン村の発展に尽くし、更には今秋の魔獣災害において1戦士として戦線に立ち被害の抑止に努め、被災者に多数の食料を供出した。よって王国聖印勲章を授与するものとする……本当は伯爵にでも任じたかったんだがな」


 と、壇上から恐ろしいことをのたまう陛下。

 いや、勘弁して下さい。俺は元々工務店のど平民ですよ?

 今の社長兼領主ってだけでも胃が痛いのに……。


「せ、聖印勲章だと……」

「最高位の勲章では無いか!」

「あの者は元々は庶民であろうに」

「いやいや、妥当であろうよ、それだけのことはした」

「うむ、これによって王国にますます忠を尽くしてくれれば……例えば祝福とか」

「うむ、祝福とかな」

「そう言えばそろそろ腰が痛くなってくる時期でのう」

「うむ、ワシも老眼がな……」


 どうやら俺の勲章授与について文句を言っているのは若手貴族が多く、援護してくれているのは年配の貴族が多いみたいだ。

 祝福によって得る利が多い者程俺に好意的って事か。分かりやすいな。


「なお、第一線の戦士でもあるセンドー子爵の為、聖印勲章には所有者のスタミナを大幅に引き上げる効果を付与しマジックアイテム化してある。これを持ってより一層王国国民の為に奮闘してくれることを願う」


 おお、すげぇ、ただの勲章じゃ無かったのか。スタミナアップの効果ね。これがあれば……


「夜の戦いには必須だろう。そっちも健闘を祈るよ」


 勲章を俺の胸に着ける際に小声でぼそっと、そうのたまう陛下。

 うう……見抜かれているな。

 嫁達にもそろそろ2人目の子を、とせっつかれていることだし、有り難く使わせてもらおう。


 で、4年目は特筆すべき事も無く過ぎていった。

 あえて言えば夏祭りを開催したと言う事だろうか。

 まずは村のメイン道路の両脇に屋台を複数用意した。

 焼きトウモロコシ、リンゴ飴、ぽっぽ焼き……残念ながら綿アメは機械の構造を再現するのが難しく断念したが、かき氷は水魔法の得意なジルに事前に氷を大量に用意して貰えば実現できた。

 後は昔懐かし竹とんぼやけん玉、ヨーヨー等比較的簡易な構造のオモチャも村の木工職人に再現して貰って屋台に並べた。

 狙いは図に当たり、ほぼすべての村民が出て来たのでは無いかと思える人出で、屋台は大繁盛していた。

 子供達はもとより大人達も楽しそうに買い食いに興じている。

 福利厚生の一環としては中々上手くいっているのではなかろうか。

 そして日が暮れてからは夏祭りのメインとも言えるアレが始まる。

 そう、秋の実りを祈って夏の夜空に花を咲かせるのだ。

 と言っても火薬を使った花火では無い。

 火魔術師を十数人雇い、魔力でもって花火を再現して貰ったのだ。

 雇った魔術師達は「今までこのような娯楽としての火魔術の使い方などしたことが無い」と呆れつつも楽しそうに火の花を咲かせてくれた。

 だがまだ驚くのは早い。

 花火のメインはイスズによるスターマイン50連発&ナイアガラだ。

 これには村民からだけでなく魔術師達からも大歓声が上がったのだった。


 うむ、これは毎年恒例の行事としよう。

 観光資源にもなるかもしれんな。


 5年目。

 年頭にまたまた同時にイングリットとジルの懐妊が発覚。

 君らほんと仲良いな。

 ちなみに領主就任初年度に生まれた子はジルの子が女の子で黒髪のオニキス。

 イングリットの子が男の子で赤毛のブレイズ。

 2人とも元気いっぱいに育っている。

 今度生まれる2人もきっと元気に生まれて来てくれるだろう。






 そして10年目――

 もはやテミンは村とは言えないレベルになっていた。


 毎年の豊作が約束された土地で特産品も豊富。

 遠国との交易が盛ん。

 税が桁違いに安い。

 観光地としても有名。


 これだけ揃えば村も大きくなろうというものだ。

 すでに人口は4千人を超え、5千人に届こうかという勢いだ。

 これだけ町が大きくなると、キッシュだけでは管理が出来ず……一昨年はとうとう町役場を作って住人の管理を始めることになった。

 俺も流石に領主としての仕事が忙しくなり最近はイスズに乗るのもご無沙汰だ。


「シロウ、最近働き過ぎではないのか?」

「ん、旦那様シロウ、たまには息抜きした方が良い」


 最愛の妻達にもそう心配される始末。


「うーん、そうだなぁ……なら今度時間を作ってドライブにでも行こうか……今ならトヤノの辺りがチェリの花の見頃だしな」

「ドライブ?いくぅ~」「いくぅ」「おはなみおはなみぃ」「お弁当もってお花見ぃ」


 ちなみに花見の概念もここ数年で俺が根付かせたものである。

 また桜に似たチェリという木が都合の良いことにこの世界にはあるもんで……


「オニキス、ブレイズ、リスタル、ノワール……お父様はお疲れなの。無理は言わないのよ」

「そう……今回はお父様のお休み、だから」


 10年という年月を経ても一向に容色の衰えないイングリットとジルが子供達をたしなめる。


「えー」「行きたい~」「いくいくー」「お父様とお花見ぃ~」

「はは、いいさ、元々みんなで行くつもりだったしね」

「やったぁ!」「おとうさまとおでかけ~♪」


 途端に泣きそうだった子供達が笑顔に変わる。

 この喜怒哀楽の急な変化がいかにも子供って感じだ。


「ふう……シロウは子供に甘いからなぁ……たまには夫婦水入らずのデートとしゃれ込みたかったのに」

「……その分、夜に頑張って貰いま、しょう。そろそろ3人目が欲しいなぁ、と……」

「は……はは、お、お手柔らかに……」


 仕事より、むしろ俺の死因は腎虚なんじゃ無いだろうかと思う春の日であった。





          □ ■ □ 終 □ ■ □

  

 

本当は、


 花見に行く途中人を轢きそうになって再び別の世界にトラック毎トリップ


という展開を考えていたのですが、そうなるとテミンの村の人達に対してあまりに無責任だし、そもそも外伝が書きにくくなるかなぁと思い、史郎君にはセツカで幸せになって頂きました。

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