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トリップしたのはトラックでした。

特に捻りの無い異世界トリップ小説。

イスズエ○フを登場させたかっただけという。

「ふが?」


 ……俺はまぶたを通して感じる明るい光に、寝ぼけながらも意識を覚醒させた。

 ……どうやら光は日光のようだ。

 フロントガラスを通してまぶしい光が俺の上半身を照らしている。

 ……………………って、あれ?

 俺って……生きてる……よ、な?

 確か、夜の国道で女の子を避けようとして海に転落したような。


 パンパン……


 胸、頭、腹、手脚……順に平手で叩いてみるが、特に痛みも出血も無い。

 どういう理由かは分からないが九死に一生を得たようだ。


「いやぁ~……職を失った上に転落死じゃあんまりだもんなぁ……とりあえず良かった……けど、も」


 俺は運転席側ドアを開けてトラックの外に出てみた。

 途端に鼻を突く青臭い匂いと草いきれ。

 そこは一面の緑だった。

 内訳は草原7割、林が3割ってところか。

 その中に一本硬く踏みしめられた土の道が通っていて、俺のイスズエ○フは其処にでん(・・)鎮座在ちんざましましているという状況。


 ……うん、まったく分からん。


 少なくとも事故ったあの場所にはこんな所は無かったしな。

 車ごとレッカーで運ばれたんだとしても、こんな所に置いていく理由が無い。

 うーん……一体全体どうしたことだ。


 ……まあ。一つだけ思い当たる事がないでもない。


 トラック……

 事故……

 気が付いたら大自然の中……


 これらのキーワードが示す物は……俗に言う『転生トラック』……?


 「ははっ……無い無い。つーかそもそも転生してないし。異世界に飛ばされるのは決まって轢かれた方だし……」


 俺は最近はまっていたネット小説の一大ジャンルを思い出したが、それを慌てて脳裏から打ち消した。


「だってなあ……これがお約束なら、もれなく魔獣かモンスターに接近遭……遇……」

「……グギャーーーーーーー!!」


 ……なんか豚を絞め殺したような声が風に乗って聞こえてきたんだが。

 ……気のせいだよな?


「ゴォォォォォ! グギャォォォォォォッ!!」

「……ジル! そっちに行った!!」

「分かった……氷の槍(アイシクルランス)!」

「サウザンドピアスッ!!」

「くっ……これでも死なないのっ!?」


 林の方から乗用車ほど(・・・・・)もあるトカゲ(・・・・・・)と露出過多な女性2名が人外の戦闘を繰り広げながらこちらに向かって突進して来ているのも……気のせいだよな!?

 だれか気のせいだと言ってくれ……


「っ!? そこの馬車!! 危ない! どけぇぇぇっ!!」

「へ? 馬車……? あ、俺……か?」


 俺があまりの事態に呆然として動けないで居るうちにその巨大トカゲ……いや、もうこのサイズだと恐竜だね。イメージは。

 まあ、どっちでもいいが。

 とにかくそいつは俺の愛車の貨物室部分カーゴの土手っ腹に「ドゴォォォォォォンッ!!」と派手な音と土煙を立てて突っ込んで来やがったのだ!


 ああああああああ! 俺の退職金がっ!!

 実は野生動物ってのは意外と頑丈で、野生のカモシカなんかはトラックとタイマン張って生き残ったりする事がある。

 どっちかというと車の方がべっこり凹まされるくらいだ。

 ましてやこんな恐竜のようなトカゲが相手では……いかに頑丈に作ってある貨物室といってもべっこりと……

 ベッこりと凹んで……


「凹んで、ないな?」


 それどころか、このトカゲ、脳震盪でも起こしたのか動きが止まっている。

 それを見て、トカゲと一緒に突撃してきていた女性達がその手に持った武器を構え直す。

 って、武器!?

 なんかすげえ凶悪な大剣とか杖とか構えてるんですけど!


蒼き氷の棺(アイシクルコフィン)!」


 金髪の三つ編みに白い肌をした少女はそう唱えながら、杖から出た霧でトカゲをカチンカチンに凍らせた。


「列空破斬!」


 紅い髪に小麦色の肌のグラマラスなお姉さんはそう叫ぶと光り輝く大剣をトカゲに突き立てた。


 すると、トカゲはパキャン、という涼やかな音を立ててバラバラになって崩れ落ち……ようやくその生を終えたのだった。


「やった……! これで奴隷から……」

「ああ、やったな、ジル!」


 手を取り合って喜ぶ二人。

 俺はそれをボケーっと、黙ってみているだけだった。

 ……だって他にどうしろと。

 真剣を振り回す女に、なんか魔法だか超能力だかを使う女。

 そして俺の足下にゴロン、と転がってきた目が三つある(・・・・・・)巨大トカゲの首。


「え、まぢで異世界……?」


 俺はその現実を認識するだけで一杯一杯だったのだった。


          ※


 巨大トカゲを倒してきゃわきゃわと喜び合っていた彼女たちだが、流石に10分も経った頃には俺の存在に気が付いたみたいだった。


「いや、迷惑を掛けた。私の名はイングリット。君の馬車のおかげでランドドラゴンを討伐する事が出来たよ」


 そう言って始めに話しかけてきたのは、紅い長髪と小麦色の肌を持つグラマラスボディの20代前半に見える美女だった。

 なんか光る大剣を振り回していた彼女で、革のアンダーウェアにいわゆるビキニアーマーを合わせて着ている。


「私はジルコニア。ジルでいい……凄いね、君の馬車。ランドドラゴンの突進は騎士10人でも止められないのに、傷も付いてない」


 俺よりもむしろ馬車……いや、トラックに興味津々なのが、金髪の三つ編みに白い肌をした15~16歳位の少女ジル

 体に似合わぬ大きな杖を振り回して魔法を使っていたのが彼女だ。

 彼女は白いケープにミニスカートと言う格好で、さっきから熱心にトラックの外装を調べている。


「ジル! 興味があるのは分かるが、恩人の持ち物に無粋だぞ……それに今は時間が惜しい」

「……そうだった。馬をランドドラゴン(ヤツ)にやられてたんだっけ……急いで素材を回収して戻らないと間に合わない、か」


 や、ちょっとまって……一人こんな所に置き去りにされても困る。

 食料も水も無いし……ここが、ほぼ異世界と判明した今、せめて街の場所とかこの世界の常識とか聞き出さないと。


「あ、あーと、ええと……そ、そうだ! 急ぐなら送っていくよ!」


 俺は彼女達にとっさにそう提案していた。


          ※


 異世界の草原を南北に貫く街道をイスズエ○フがひた走る。

 うん、非常にシュールだ。

 このタイプのトラックは3人乗れるので、件の2人を乗せる事が出来た。

 2人には俺の事は「なんかよく分からないうちに馬車ごと連れてこられた」と正直に話した。(言葉はなぜか問題なく通じた。この手の話の定番とはいえ微妙に納得できないが……とりあえず良しとする)

 意外な事に2人はそれをすんなりと信じた。

 というのも、この辺りは空間が不安定でよく魔法の転送による事故が多発する所なんだそうだ。

 ……地球で言えばバミューダトライアングルみたいな感じだろうか。

 というか、やっぱり魔法とか有るファンタジーな世界なのな。


「……それにしてもこの自走馬車は凄いな! 動力はなんだ? もしかしてゴーレム化してるのか?」

「あーと……軽油とディーゼルエンジンと言って……解るかな?」

「軽油……? 油で走っているのか? どんなカラクリなのか見当も付かんな」

「私はそれよりも……これだけのスピードで走っているのにほとんど揺れない事が脅威だわ……この座席も貴族の屋敷のイスみたいに柔らかいし」

「ああ、揺れないのはゴムタイヤとスプリングのショックアブソーバーのせいかなぁ……イスはスポンジの詰め物のせいだろ」


 俺はトラックをもっと……なんというか、『得体の知れない物』扱いされると思っていたのだが、珍しがれることはあっても恐れられる様子はなかった事に安堵していた。

 どうやら魔力が動力の馬の要らない馬車(自走馬車と言うらしい)が、希少で高価ながらも流通しているらしい。


「ところで……街まで後どれくらいかかりそうかな?」

「うむ……そうだな、このペースなら野営を1回挟んで明日の午前中にはニナロウの街に着くだろう」

「そう、ね……日も傾いてきたし、後……半時もしたら野営の準備をした方が良いかもね」


 俺の質問に交互に答えてくれる2人。

 トリップ? 後にこの2人と真っ先に会えたのは幸運だと言っていいだろう。


「ん、わかった……じゃあ適当に広い場所を見つけたら車を止めるよ」


 そう言いながら俺は再び運転に集中する事にした……。

 それから約40分。

 街道沿いにちょうどいい広場を見つけ、そこで俺たちは野営をする事にした。


「ジル、結界を頼む」


 枯れ枝を集めてきたイングリットさんがジルさんにそう声を掛けた。

 ジルさんは若干16歳ながら、風と水と土属性の3属性を操る『天才』と言われた魔術師なのだそうで、この辺りの魔獣なら一晩中近寄らせなくする強力な結界を張る事が出来るのだそうだ。


「うん『2属性結界ダブルサークル』」


 ジルさんがそう唱えると、土がむき出しだった地面がまるで陶器のように滑らかになり、さわやかな風が渦を巻くように吹き抜けていく。


「おー……これも魔法?」

「そ、う……土属性の結界と風属性の結界を……2重に、掛けたの」

「ふうん、シロウの故郷にゃ魔法が無いってのは本当なんだね……結界魔法も見た事無いのかい」

「無いですね~」

「その割にゃ自走式馬車はえらく高性能だし……なんかちぐはぐなところだね」

「あはは……と……何してるんです?」


 イングリットさんが薪の側でなにやらごそごそとしているのが気になって思わず声を掛ける。


「なにって、薪に火を付けようとね……こういう時火属性の魔法が使えるヤツが居ると便利なんだがね……くそっ湿っていやがる」


 イングリットさんが格闘していたのは大きさこそ巨大だがまぎれも無くマッチ。

 どうやらあまり質の良い物でないらしく、湿気しけって使い物にならなくなったらしい。


「あ、なら俺が着けますよ~」


 俺はトラックのエンジンをかけ直すと、コンソールのシガーライターを押し込む。

 十数秒待ってシガーライターを取り出すと電熱線の部分が真っ赤に赤熱している。


「よし、後はこれを枯れ葉に移して……よし、点いた」

「おお、シロウ殿は火魔法が使えるのか」

「いやいや、俺は魔法は一切使えないっすよ……これはトラック……自走馬車の装備の一つです」

「……便利な魔道具が備え付けられているのね」


 俺の手元のシガーライターを興味深げに覗き込む2人。

 ……正直そんな格好をされると……ファンタジーな世界の定番よろしく露出の多い格好の2人なので、胸の谷間が……

 特にイングリットさんはブラジャー型の胸部装甲から溢れんばかりの二つの大山がのぞいていて、チョンガーの身には何とも目に毒……


「ふふん、シロウ殿の目は正直だな? そんなにこれ・・が気になるなら、その火付けの魔道具と交換で揉み放題、というのはどうだ?」


 さりげなく見ていたつもりだったが、バレバレだった件について。

 うぉぉぉ、これは恥ずかしい。


「イングリット……下品。それにこの火付けの魔道具はイングリットのおっぱい換算ならおっぱい20個は無いと価値的に不公平だわ」

「私のおっぱいは、この小さな魔道具の20分の1の価値か……それはそれで納得できない物があるな……もちろん交換云々は冗談だが」

「で、ですよねー」


 言えない。速攻でシガーライターを差し出そうとした事とかは自分の心の奥深くに仕舞っておこう。


「所でシロウ殿はいきなりこちらに飛ばされたのだったな? 食料とかも持ってないだろう」

「はあ、そうですね、残念ながら食料も水も……」

「それであれば、馬車のお礼と言ってはなんだが、今回は私達がご馳走しよう」

「あー、助かります。正直そろそろ腹の虫が五月蠅くって……」

「旅先だから……簡単に丸焼き、とかしか出来ないけど」


 そう言ってジルさんは腰にくくりつけた小袋をごそごそとまさぐると、巨大な肉の塊を取り出した。

 ……いや、あきらかに袋より肉の方が大きいよね?


「あー……ジルさん、その袋は?」

「え? 単なる圧縮保存袋……だけど……シロウの故郷にはない、の?」

「な、無いなぁ……四○元ポケット的な物なのかな」

「四○元ポケットっていうのは分からないが。この袋は空間を圧縮しているから、体積、重さを50~100分の1にして持ち運べるんだ。冒険者や旅の商人には必須の物だな」

「うーん、そりゃ便利だなぁ」

「冒険者ギルドか商業ギルドに登録してあれば、市場価格の10分の1程度で斡旋してもらえるぞ」

「なら登録だけでもしておくか……って……冒険者ギルド!? って……やっぱりあるんだ……」


 そんでF~SSとかランク分けされてて、チート能力でのし上がるサクセスストーリーが待っている訳ですね。分かります。


「ああ。私達もギルド所属の冒険者なんだ……ランドドラゴンの討伐と素材の回収もその依頼でな。少々2人だけだと厳しい相手だったが、一攫千金を狙う必要があってな……」

「イングリット、ごめん、私のために」

「何言っているんだ、私達はチームだろう」


 なにやら複雑な事情がありそうで。

 俺は湿っぽくなった雰囲気を変えるために、話題を強引に変えてみた。


「ところでっ……この肉、味付けは塩? タレ? ハーブ?」

「うん? 何言っているんだ、焼いてそのままに決まってる」

「海の近くでないと……塩は高級品……」

「そ、そうかー」


 正直いくら腹が減っているとは言っても……いや、だからこそ、これだけの立派な肉、美味しく頂きたい。

 幸い台所にあった物も一切合切持ってきたから、調味料はある。


「んじゃあ、そっちからは食材を提供して貰ったし、味付けは俺が受け持つよ」


 貨物室をあさって塩(袋ごと。750グラム入り)と胡椒(瓶入り)とレモン(ポッ○レモン100)を探し出すと、それぞれの皿に取り分けられた肉に適量振りかける。


「シロウ殿、これは?」

「ちょっと調味料の持ち合わせがあったからね。とりあえず食べてみて」


 と言いつつ、害の無い事を示すためにとりあえず自分で食べてみせる。

 うん、塩っ気もレモンの酸味も胡椒もちょうど良い……それにこの肉! なんだろう、臭みの無い牛肉というか……すげぇ美味い!


「がつがつ……んむ……ぱくぱく……美味いなこの肉!!」


「気に入って頂けたなら何よりだ。では私達も頂こうか」

「うん」


 俺に続いて肉にかぶりつく2人。


「……はぐ……んむ……ん?」

「あく……んぐんぐ……!?」


 と、突然2人が目を見開いてその動きを止める。


「「美味ぁぁぁぁぁぁ!?」」


 ぱくぱくぱくぱくぱく……1人500グラムほども切り分けられた肉の塊があっという間に無くなっていく。


「し、シロウ殿! これは単に塩だけでは無いだろう!? 何をかけたのだ?」


 肉を食べ終わって我に返ったのか、イングリットさんが俺に詰め寄って調味料の正体を聞いてきた。


「お、落ち着いて下さいイングリットさん。単に胡椒と……酸っぱい果実の汁(レモン)をかけただけですよ」

「胡椒!? 胡椒か!? あの金と同量の価値があるという……」

「……うん、間違いない。昔食べたものよりずいぶんと質が良いけど……胡椒だわ」

「あはは……喜んでもらえたようで何よりでした。しかしこっちは胡椒が希少なんですねぇ」

「まあな。魔法が発達していない他の大陸だと、肉を保存するために胡椒が多く栽培されていると聞いた事はあるが……この国では魔法や圧縮袋で保存できる分、そういうのが発達しなかったのかもな」


 なるほど。必要は発明の母というしな。

 なんにせよ、これほど喜んでくれるのであれば調味料を提供した甲斐があったというものだ。





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