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シロウの日常

お待たせしました。

ネット環境が復活してからも中々調子が戻らず時間が掛かってしまいました。

 イングリットとジルの合同結婚式から3ヶ月。

 そろそろテミン村での生活も落ち着いてきた。

 新居はテミン村の領主の館である。

 これが田舎な割には結構立派で……敷地だけなら小学校のグラウンド位あるし、屋敷自体もかなり大きい。

 ということで結局ニナロウに買おうと思っていた住居は必要なくなってしまった。

 ニナロウ運輸の拠点としても新居は十分な広さだろうしな。

 ……あれ、本拠がテミン村なのにニナロウ運輸っておかしいか?

 ……まあ、いいか。

 とにかく、ここを拠点としてテミン村の領主兼ニナロウ運輸社長として活動している訳だ。

 流石に運輸会社としての仕事量は減らざるを得なかったが、レベルの上がった今ではその分を冒険者協会の高額依頼を請け負うことで十分以上に補うことが出来るので経済的には特に問題は無い。

 領主としての俸給ももらえるし。


 さらに、この屋敷は、部屋数も多く、使用人達の部屋や未来の子供達を勘定に入れてもまだまだ余裕で部屋が余るだろうと思われる。

 ちなみに使用人と言っても9名だけなんだが。

 紹介を兼ねて書き出してみると、



 屋敷と使用人の管理を一手に引き受けるいぶし銀の執事、セバス・チアン。

 惜しい。なんか名前が惜しすぎる。


 俺の代わりに税の徴収や公共施設の整備などを担当するちょびひげの文官、キッシュ・ディスペンさん。

 本国から単身赴任で派遣されているそうで、時々奥さんが様子を見に来ている。


 門番のガォウさん、ニァンさん、カークさんは地元村民から雇った。3人とも獣人の血が混じっているとのことで体格が良い。心強いことだ。


 メイド(!)長のエマ・クレソンさんとその部下の雑役女中メイド・オブ・オールワークスのシャーリーさん、パーラさん。

 ……うん、いいねメイド。メガネで知性的な雰囲気を漂わすエマさんはウチの嫁達ほどじゃないが十分美人だし、まだ10代前半のシャーリーとパーラもちょこまかと一生懸命働いていて微笑ましい。

 やはりメイドというものは良いものだ。メイド喫茶などというまがい物とは違う本物のメイドさんを雇う身になろうとは……


 最後はコック長のミシュランさん。

 俺の曖昧な要望に応えて東国でわずかに流通していたという『米』を探し出し、日夜日本の料理の再現に全力を傾けている頼もしい人だ。


 まあ、こんな小村には似つかわしくないような立派な建物と使用人達だが、貴族として貰っている俸給で十分養えているし今のところ問題は無い。

 おまけにこのところイスズの『祝福』目当てに国内の貴族から付け届けがひっきりなしに届くしなぁ……


「旦那様ぁ~メルト男爵様からオランの実が10箱ほど届きました~」


 コンコンと部屋のドアが叩かれ、廊下からパーラの声がかかる。


「……今度はメルト男爵か。オランの実?」


 聞いた事の無い言葉に興味を引かれドアを開ける。

 そこには台車にミカン箱ほどの木の箱を3個ほど乗せたパーラが額の汗をぬぐっていた。


「はひぃ~重かったです~後7箱は腐ると悪いのでイスズ様が保管して下さるそうです~」

「ん、分かった。ご苦労様だったな、パーラ」


 早速釘打ちされた木箱を力任せにバリバリと剥がして中身を確かめてみる。

 レベルアップの恩恵で身体能力もやたらと上がっているので、この程度造作ない。


「だ、旦那様、力持ちなのです……」


 軽く引いているパーラ。

 この村ではレベル3~7程度が住民の9割を占めるらしいからそれもしょうがないのかもな。

 ちなみに俺はゴーレムを倒した後も時には1人でイスズを駆り、こつこつとレベル上げに精を出した。

 おかげで現在は58にまでレベルが上がっている。

 レベルだけなら国内でも五本の指に入るとのことだ。

 もっともいまだに職は自走馬車使い(トラックドライバー)だから白兵戦は苦手なんだが……

 ……後述するが、どうしてもレベルを上げる必要があったのだ。

 


「お、これは……ミカン? ……いや、オレンジか?」


 木箱の中からは橙色したみずみずしい果実が顔を覗かせていた。

 これはまさしくオレンジ。


「オレンジじゃなくてーオランって言うですよ~メルト男爵の領地で採れる高級果実です」

「ほう、高級果実ね。それじゃご褒美だ。ほれ」


 ぽい、と1個のオレン……オランをパーラに放ってやる。


「わ、わわっ」


 わたわたと両手でお手玉して何とか落とさずにオランをキャッチするパーラ。


「後、イスズの所には誰が運んだんだ?」

「シャ、シャーリーちゃんとメイド長です~」

「ん、ならその2人にもご苦労様って伝えてオラン持ってってやって」

「は、はい……いいんですか?」

「て、何がさ?」

「お、オランはいちでは1個銀貨3枚はするですよ!?」


 銀貨3枚って言うと3千円位か。

 元の世界で言う夕張メロンくらいのステータスなのか。

 でもまあ、元々頂き物だしな。


「構わないよ。沢山有るしな……あ、残ったのは食堂に持ってって」

「はいっ、ありがとうございます旦那様っ! うひゃほい!」


 文字通りはねるようにして台車を押して去って行くパーラ。

 おい、重いんじゃ無かったのか。


         ※


 午後からはイングリットを連れて村内の見回りに出た。

 貴族達からの付け届けは結構な量になったので適当に売りさばいたりして処分している。

 その資金を村内の整備事業に使っているので、その視察に来たのだ。

 で、整備事業とは何かというと、具体的には道路整備だ。

 田舎なだけあって、トラックイスズがストレス無く通れる道が少なく、ならばいっそのこと道を整備してしまえ、となった訳だ。

 元は馬車の轍で出来ていた農道も、今は石ころ一つ無い立派な道路となっている。

 これは石畳、という訳ではなく、土をならして表面を石のように硬化させているそうで、土魔法のカテゴリの土木工事用の魔法なんだそうだ。

 で、土魔法と言えば天才魔導師ジルコニア。

 ジルが陣頭指揮を執って、冒険者協会から派遣して貰った土系の魔法を使える術者と共に日夜工事に励んでくれたおかげで、村内のメイン道路の8割方はこの立派な道路になっている。

 村人の話では作物を運ぶ荷車や荷駄の移動が非常に楽になったそうだ。

 ましてや工事資金は領主持ち、さらには領主の妻が先頭に立って作業に没頭しているもんだから、村民からの評判もすこぶる良い。


「ジル、ご苦労さん、陣中見舞い……差し入れに来たよ」

「あ、旦那様シロウ……差し入れ?」

「ん、貰いもんだけど……オランの実」


 カートに乗せて持って来た木箱をどさっと地面におろす。


「オラン! 昔パーティで食べたことある……甘酸っぱく、て、みずみずしくて美味しかった……こんなに?」

「ああ、他の作業員の皆さんと食べるといい。例によって他の貴族方からの付け届けだから遠慮しなくていい」

「ありがとう、旦那様シロウ。みんな、旦那様シロウから差し入れもらった……みんなで食べましょう?」


 ジルが作業現場の土魔術師達に声を掛けると、わっと10数人の術士達が集まってくる。

「うぉ! すげぇ! オランだぜ!」

「領主様、ゴチになりやす!」

「……甘ぁい……」

「うむ、ずいぶん上等のオランだな。種は少なく糖度が高い……」

「っかぁ~労働の後にはたまんねぇなこりゃ」

「いい領主様だよなぁ……気さくで気前が良くて税金が安くて奥方様は美人とくる……俺もテミン村に移住すっかなぁ……」


 うむ、喜んでもらえて何より。

 テミン村は随時移住者を募っておりますよ。女房達はやらんけど。


         ※


 その日の夕方。

 セバスから王様からの使者が来ていたことを知らされる。

 どうやら王宮へのお招きらしい。

 結婚式での「イスズの祝福」の件を伝え聞いて、是非王家にも、という話になったらしい。

 うむ、そう言えば、あの時は王様が帰った後だったしな……。

 迎えの馬車を寄越すという話だったが、もちろんイスズで乗り付けた。

 ある程度イスズが近くに居ないと、ナビイスズから顕現できないしな。

 で、ディナーの席で改めてイスズを紹介。王族の皆様に「祝福」をかけて差し上げた。


「凄いわ! ニキビがつるっつる!」

「それに……生理ふじゅ……んっんっ!! ……体の調子も良くなっているようですね」

「ふむ、腰も軽いな……これは良い」

「半年ぶりじゃ……半年ぶりにてつ……! こ、これはどの位効果があるのかね!?」


 案の定王族の方からもご好評を得たようだ。

 特に何が「った」のか知らないが……と言うか想像したくないが。陛下の叔父上様であるロードス公の食いつきが凄い。

 


「そうですね、今回はある程度限定した人数でしたので……半年ほどは持つと思いますよ」

「ほうほう……半年もか! たいしたものだな、イスズ様の祝福は」

「まあ、他の一般貴族の方々の場合は、まとめて大勢に掛けるので効果期間も一ヶ月、といったところですけど」

「うむうむ、そうだろうて」


 我が意を得たり、と頷くロードス公や王族の方々。

 一般貴族よりもあきらかに優遇されている「祝福」をかけて貰ったことで自尊心を満たしたらしく、祝福を後回しにされたことについては忘れて頂けたようだ。


「気をつかわせてすまんな、シロウ殿」


 俺のほっとした表情に察したのか、陛下がそう耳打ちして下さったのだった。


          ※


 そして夜半。

 清潔なシーツの敷かれた巨大なベッドに蠢く三つの影。

 まあ、つまり俺と妻たちなんだが……

 領主の重要な仕事である後継者作りに勤しんでいたと、まあそういう訳だ。


「うっ……ふぅぅ……んっ……」

「あっ……んぅ……」


 悩ましい声を上げてイングリットとジルが果て、どさり、とベッドへその身を沈める。

 小麦色のダイナマイトボディのイングリット。

 透き通った肌のはかなげなジル。

 一糸まとわぬ彼女らのその姿は、いわゆる「賢者モード」になっていた俺をして生唾を飲ませる妖しげな魅力に満ちていた。

 だが、ここで再び彼女らに挑む体力は残念ながら俺には残っていない。

 彼女らもレベル40代後半になっているため、体力や筋力がものすごいことになっているのだ。

 夜のお勤めも半ば命がけだ……実際この三ヶ月でこの巨大ベッドが2台ぶっ壊れた。

 そういう訳で、3台目のこのベッドは骨組みにオリハルコンを使用した特注品なのだった。

 そんな彼女らを2人同時に相手取るため、俺は密かに単独でイスズを駆り、冒険者協会の討伐系高額依頼を受け……レベル上げに精を出していたという訳である。

 ジャイアント、ドラゴン、ワイバーンなんぼのもんじゃい。

 夜の嫁達に比べれば赤子の手をひねるようなもんなんだぜ。


「ん……シロウ」

旦那様シロウ……」


 ビクッ

 ベッドから半身を起こし、声を掛けてきた妻達に思わず冷や汗が出る。

 もしかしてもう一回戦とか……?


「実は……な、最近、その、こない(・・・)ので病院に行ってみたんだ」

「イングリットも……? ……私も」


 え、それってつまり……?


「さ、三ヶ月だって……」

「……同じく」

「つ、つまり…………こ、こども……?」

「う、うん」

旦那様シロウ……喜んで……くれる?」

「あ、当たり前じゃないか! よくやった! 良くやったな2人とも!!」


 不思議な感じだ。

 異世界から来た俺がこの世界の血と一つになって子を残す……

 でも悪い気分じゃ無い。

 やっとこの世界に……一員だと認められたような。

 そんな感覚。

 俺は妻達を両手にがばっと抱えると、残り少ない体力を振り絞って再び覆い被さっていったのだった。

 

 


おそらく国で一番高価なベッド(笑)

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