後始末
もげてしまえ。という内容です。
ゴーレム達との戦いが終わった後、辺り一面はお宝の山と化していた。
何しろ彼の巨人達を形作っていたのは稀少な魔法金属の(ルミニウム真銀程ではないとは言え)ミスリルやオリハルコンなのだ。
よく見るとゴーレム達は中まで詰まった無垢の金属では無く、手足の動くソフビの人形のような……中空の構造をしていたのだが、それでも、これらを全部市場に流したら間違いなく相場が崩壊するレベルだ。
「……えーと……これって持って行って良いのかな」
「私達は不当に襲撃された側で、それを返り討ちにした訳だから……この場合は、魔獣などを討伐した場合の素材の権利と同等に判断されるんだ。つまりこれらの素材の権利はシロウにある。回収して何ら問題ないよ……とは言っても」
ぐるり、と周りを見渡すイングリット。
「……これだけの量をどうやって回収するかって問題はあるけどね」
うむ。それは確かに。
「……ルォードは貴族位の高さの割にあまり裕福ではないと聞いたけれど。ゴーレムにこれだけ使っていれば当たり前……」
と、どこか呆れたようなジルの話に何となく納得する。
だから研究資金が足りなくてジュノーと結託していたのだろうし、奴隷市でいくら高額とは言え、俺との競り合いに負けた訳だ。
マッドサイエンティストってヤツだな。
……いや、この場合はマッドウィザード? マッドゴーレムマスター? ……いまいち語呂が悪いな。
『あるじさま、ゴーレムの素材に関しては、所有権はすでにあるじさまに移っていますので、直接触れて頂ければ貨物室内に転送することが可能です』
「おお、そりゃ便利……容量も問題ない?」
『はい、容積で6%程度……重量だともう少し負担がありますが十分余裕がございます』
「ん、それなら大丈夫だな……ありがとう」
『恐れ入ります』
ナビ画面の中で頬を染めて頭を下げるイスズ。
そのナビを鞄に戻すと、俺は早速ゴーレムの回収作業に移ることにした。
ぽん、とゴーレムの残骸に手を触れるとシュン、と消え失せる。
……なんかこれ楽しいな。
ぽん。シュン。ぽん。シュン……と、半ば遊びながら作業を進めるうちに、5分もしないで作業は完了していた。
「シロウ、釘も回収した方が良いのではないか? アレもルミニウムだろう?」
「ああっと、そうだな……でも、あれだけばらまいたのを見つけるのは骨だぞ……?」
「それだったら……『魔法感知』がある。 ルミニウム真銀は通常の状態でも微量のマナを発していたはず、だから……探知範囲を広げればすべて見つけ出せ、る」
流石3属性魔導師のジルコニア。
色々と便利な魔法を取りそろえているな。
「ん、じゃあ頼むよ」
「任せて……『魔法感知』…………え、これ……?」
目をつぶって探知魔法を使ったと思ったら急に眉根を寄せるジル。
……何か不都合でもあったのか?
「強力な魔力反応……おそらく複数の魔法装備。ここから……北に500メートルほど……生物だと思うけどまったく動く兆候が無い」
「え? それって……?」
「考えてみれば、ゴーレムの直接操作は……そう遠いところからできる術では無い。だとすればこの反応はおそらく」
「ルォード達か!」
俺の目を見てこくん、と頷くジル。
「ん……動かないのは、おそらくゴーレムを破壊された衝撃がフィードバックされて……気を失っているのだと思う」
「そいつぁ……もしかして好機か?」
これからも度々こうして襲われたりするのは勘弁して欲しいしな。
ジルとイングリットの安全のためにもここで捕縛しておくべきだろう。
「よし! 釘の回収は後回しだ。すぐに奴らの所へ向かう。ジル、案内を頼む」
「ん、分かった」
そして俺たちはトラックに乗り込むとジルの指し示す方向へと向かったのだった。
※
ルォード達の捕縛は至極簡単に終わった。
ジルの指し示す方向へとトラックを進めていくと、やがて高級そうな二頭立ての馬車が停まっているのを発見した。
その中を(念の為オートバリアを全開にして)確認してみると、ルォードとジュノーが某赤い少佐がかぶっていそうな仮面をかぶって気絶していたのだ。
ジルによると、この仮面がゴーレムを操作するためのデバイスなのだそうだ。
そんな状態の奴らを厳重に縛り上げ、魔法封じに猿轡をはめ、ジルの『魔法感知』を使って魔法の装備と思われるものをはぎ取り、更に魔法封じを厳重にするため、ジルの『音封じ』の魔法をルミニウム真銀の杖の魔力を使って最大威力で掛け……と、ここまでしたところでやっと2人は目を覚ました。
そんな自分達の状況を理解した途端、なにやらわめき散らそうとしていたようだが、もちろんどうにもならない。
「それじゃジルは……そっちのルォード達の馬車を操ってくれるか?」
「ん、分かった」
「イングリットはルォード達の見張りで」
「了解だ」
いまだじたばたと見苦しくあがく2人を馬車の中に押し込んで、イングリットが剣の柄でみぞおちを突いて意識を刈り取る。
そうして2人を完全無力化した上で、俺たちはニナロウの騎士団詰め所へ向かったのだった。
あ、もちろん途中でルミニウム真銀の釘は回収しましたよ?
※
2人を騎士団へと突き出して1週間程経った頃。
俺たちは相変わらず運送業をメインに忙しく働いていた。
あの時のゴーレムの素材は量からして俺たち3人が一生働かなくて良い位の価値はあったのだが、今回の場合は指名手配被疑者の個人資産と言う事で、他の被害者の賠償の関係もあって一時国預かり、となってしまったのだ。
まあ、指名手配者2名を捕らえたことで白金貨40枚が報奨金として手に入ったので、ある程度懐には余裕があることはあるんだが。
実は、そろそろ自分の家でも買おうかと思っているので節制している所なんだよね。
駐車場付きならニナロウ運輸の事務所としても使えるし。
……まあ、実は一円玉を換金した残りもまだかなりあるし、買うだけなら何とかなるんだが……
ちょっと広くて良い家も買いたいし、ある程度余裕を残してもおきたいしな。
てな訳で、最近は運輸の仕事だけで無く、冒険者協会の仕事も積極的に受けている。
ダンジョン系はイスズが一緒に行けないから避けているが、地上での討伐ならかなり魔獣のレベルが高くても『運送業者アタック』で一網打尽に出来るし、素材もまとめて回収できるし……運送業一本でやっていくよりもかなり割が良い。
「……となると……ちょっと良い家を土地付きで買って白金貨150枚……いや、ニナロウ運輸の事務所を兼ねるんだから目抜き通りにそれなりの駐車場を確保して……えーと200枚は要るだろ……?」
ちゃりん。ちゃりんちゃりんちゃりん……
トラックの貨物室の居住エリアに机を置いて、俺は現在の所持金を確認していた。
結果、今現在の貯蓄額は白金貨300枚、金貨8枚、銀貨18枚、銅貨26枚。
これからの生活費やニナロウ運輸の運営費を考えるともう少し余裕が欲しいところだ。
『あるじさま、何かお悩みですか?』
「いや……そろそろ家を買いたいと思ってね……イスズを置けて目抜き通りに接する物件だとそれなりに……」
『あ……あるじさま……そのように私のことを気に掛けて頂けるとは』
感極まったかのようにはらはらと涙を流すイスズ。
その様子に、ソファで本を読んでいたジルと1人黙々と筋トレをしていたイングリットも何事かとテーブルに寄ってきた。
俺がそろそろ家を買おうかと悩んでいる事を告げると、2人とも大いに賛成してくれた。
「そうか~これでシロウも一国一城の主だねぇ。そろそろ所帯を持っても良いんじゃないかい?」
「いまなら……お嫁さん2人付き。お得」
「うんうん、シロウの甲斐性なら可能だろうさ……って、2人?」
「うん……イングリットもシロウ好き、でしょ?」
「そ、そりゃまあ……だけど、ジルはそれでいいのかい?」
「1人だと、まだちょっと男の人が怖い……イングリットが一緒なら心強い」
「そっかぁ……奴隷市があったばかりだしねぇ。トラウマにもなるか……よしっ! まかしとき! 私もそう経験が多い訳じゃ無いが、シロウと2人でキッチリ思い出に残る初体験にしたげるよ!」
「わーぱちぱちぱち」
『くうっ……私とて実体があればっ……あれやこれや口で言えないご奉仕をして差し上げられるというのにっ!』
なにやら当事者たる俺を除いて大いに盛り上がる2+1名。
というか、普通に重婚前提で話しているけどいいのか?
「なによぅ、シロウはこんな美女二人がお嫁さんじゃ不満?」
俺の微妙な表情を読み取ったのか、イングリットが頬を膨らませて俺に詰め寄ってくる。
「シロウは……私のコト嫌い……?」
更にジルに至っては、うるうると目を潤ませてにじり寄ってくる。
……はっきり言って絶体絶命のピンチである。
「いやっ……そ、ゆーんじゃ……なくてね? 法的に問題ないのかなーと……」
「ニナロウでは王国法が適用される。一家を養うことが出来れば合法だよ」
むにゅり、と俺の後ろから首筋に双球を押し当ててくるイングリット。
「我が儘、言わない。貴族だったのは昔のことだし……家事も出来る……子育て、もちゃんとする」
ジルは、床に膝を付いて、ぱふ、と、俺の両腿の付け根に頭を預ける。
「じ、ジルっ……そこはっ」
「おお、ジル、未通女のくせにやるねぇ♪ そこをね、こう……ほっぺでスリスリしてごらん」
「……こ、こう?」
イングリットの指示によって的確に俺のそこをすりすりするジル。
「ちょっ……まっ……ジルっ!!」
「ふふふ、こっちはぱふぱふ……ってね」
そして更に容赦なく首の後ろにはイングリットのぱふぱふ攻撃。
すりすりぱふぱふ。すりすりぱふぱふ。すりすりぱふぱふ。すりすりぱふぱふ。
ああ、ここは伝説の桃源郷か……
……俺が2人との重婚を承知させられるのに数分もかからなかったのは言うまでも無い。
小娘二人に手玉に取られるオッサン乙。
※
「あー……そろそろお邪魔していいですかな?」
俺が魂の抜けたようになって机に突っ伏していた時、車の外からそう声がかかった。
完全に扉を閉めてしまうとほとんど車外の音が聞こえないので、観音開きの扉の片側だけ開けてあるのだ。
あーっと……この声は……
「ゼィンさん!」
外を確認したイングリットの声で思い出す。
以前ルォードのことを忠告してくれた貴族なんとか監査官……だったかのゼィン・ニガッタさんだ。
「いやぁ……覗くつもりは無かったんだが……入るに入れなくてね」
心なしかゼィンさんの渋い顔が赤く染まっている。
という事はさっきからずっと聞かれていたのか。
くぅ……居たたまれん。
「いやん、もう♪ ゼィンさんのエッチ~♪」
「うふ、うふふふふふ」
その当事者たる二人は上機嫌で特に気にした様子は無いし。
ゼィンさんといい、男の方が色恋に関しては純情なのかもしれんなぁ。
「いや、誠に失礼した。今日はこれを皆さんに渡したくてね」
ごほん、と一つ咳払いをするとゼィンさんは一通の書状を差しだしてきた。
表には『召喚状』と書かれている。
「……これは?」
「ああ、君たちが掴まえたルォードとジュノーの2人の裁判が10日後にある。それに検察側の証人として出席して頂きたいのだよ」
「……それは俺1人でいいんですか?」
「いや、出来れば皆さんで来て頂きたい……特にジルコニア殿は直接の被害者の中で唯一生き残った方だからね」
さて、どうするか。ジルはこれ以上蒸し返して欲しくないかもしれないしな。
「シロウ、私なら構わない」
「私もだよ。こうなれば最後まで決着を見届けたいしね」
「……そうか……分かった。ゼィンさん、それではここに居る全員で伺わせて頂きます」
「ああ、助かる……貴族位を剥奪されているとはいえ、いまだ国の魔導局のほうからも圧力が掛かっていてね、当事者の証言が欲しかったんだ」
俺の返答にほっとした表情のゼィンさんは、すぐさま、そそくさと帰って行った。
やはりあんな場面を覗き見る形になってしまって気まずかったのだろう。
…………………ドアノッカー、取り付けよう。