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閑話:トリップ・トラック(裏)

ちょいエロシーンが出て来ます。

人によっては強い不快感を催すシーンでもあります。

この話を飛ばして読んで頂いてもストーリー的に問題はありませんので、肌に合わない、という方は飛ばしてくださいませ。

 私は、私達4人(・・・・)の体が大きな箱形の馬車によって轢かれ、宙に舞ったのを、ひどく冷静に空中・・から見下ろしていた。


『……ああ、ちょっとこれは直視に堪えないわね』

『でも内臓とか無い分綺麗な物だと思うけど』

『そうね、でもこれでようやく輪廻の輪に入れるというものだわ』


 私の名はルシーダ。

 私と一緒に空中にふわふわと浮いている半透明の彼女らはレオナ、ソフィーティア、プリムラ。

 私達4人は宮廷魔導師のルォードに奴隷として買い取られた元貴族、という共通点がある。

 その際にヤツに体をいいようにいじくられ、肉体は4人まとめて一体の美少女型肉人形フレッシュゴーレムの材料にされ、命を落とした……はずだったのだが。

 どうやら私達4人が4人とも生というものへの執着が強かったせいか、死後も幽霊のような姿でゴーレムの肉体に縛り付けられてしまったのだ。

 ……いわゆる地縛霊、という状態かしらね。

 それからはまったくもって最悪な人生だった。

 いや、死んでるけど。

 何が悲しくて自分達を殺した男と自分の死体ゴーレムが睦み合う姿を空中から眺め続けなければならないのか。

 これは一種の拷問である。精神的な。


「ああんご主人様」

「私はご主人様の○○○○○ですぅ」

「ご主人様のお○○○○おっきい……壊れちゃう」


 こんな台詞を私達の元の体が無表情にのたまい、ルォードの変態ロリコンネクロフィリアとその白い体を絡め合っているのだ。

 もちろん私達が言っているのでは無い。

 ルォードがゴーレムに言わせているのだ。

 言ってみればひどく手の込んだ自慰と変わりない。

 何が悲しくて私達がこんな変態行為を見させられなくてはならないのか……。

 何度天に向かって『もう生に執着なんて無いから昇天させて!』と懇願したかもしれない。


 無駄だったけど。


 それだけじゃなく、私達の体は暗殺や誘拐などの非合法活動にもよく使われた。

 その被害者の中にはプリムラの両親も含まれていて、彼女は必死にそれを阻止しようとしたが、叶わなかった。

 多分彼女も両親の借金の形にルォードの犠牲になったのだろうに、その結果がこれでは救われない……。

 それからしばらくの彼女の落ち込み様はひどかった。

 私達4人の中で一番明るかった彼女が、四六時中ぶつぶつとルォードを呪う言葉を呟き続ける生ける屍みたいになってしまったのだ……いや、死んでるけど。


 そんな日々もこれで終わり。


 ルォードのゴーレム共々綺麗さっぱり吹き飛ばして粉々にしてくれた、あの馬車の勇者達には感謝してもしきれない。


『ほら、私達の姿も段々薄れてきたわ』

『きっとこれで輪廻の輪に入れるのね』

『次の世でも4人一緒が良いわ』

『うん、4人一緒だったから狂わずに耐えられたのだものね』

『では皆様』

『『『『ごきげんよう』』』』


 そして私達の意識は光に溶けた……はずだった。


          ※


 突然に私は意識を取り戻した。

 周りは先ほどまでの草原では無く、山中の山道、といった感じだ。

 体の下にはごつごつとした小石の感触が感じられる……

 …………………感触?


 ぺた。ぺた。ぺたぺたぺたぺたぺた。


 ……触れる。

 先ほどまでの幽霊のような体じゃ無い。きちんとした実体がある。

 さらりとした銀の長髪。

 小さな手足。

 申し訳程度に膨らんだおっぱい。

 無毛の股間。

 ……って、なぜに全裸っ!?


「うっきゃぁ!!」


 思わず動物のような声を出して座り込んでしまった。はしたない……

 そ、それはともかく……服……か布でも葉っぱでも良いから何か体を隠すもの……


「あ、これ……布……?」


 幸い周りを見渡すと林の中に材木が置いてあり、それに青い布のような覆いがかぶせてあった。

 やけにつるつるして冷たい感触のそれを、とりあえず拝借することにする。

 同じく材木をまとめて縛ってあった紐で体に巻き付ける……うん、とりあえずこんなもんかな。

 とりあえず全裸でなくなった私は改めて自分の体を確認してみる。

 ……うん、間違いない。

 ……この体は私達4人の体を使って作られたフレッシュゴーレムの体だ。

 ルォードが作った9番目の殺戮人形キリングドール

 鏡が無いから客観的に見ることは出来ないが、ここ数ヶ月毎日空中から見下ろしていた姿に間違いない。


 ……でもどうして?

 あの時綺麗さっぱりバラバラになったと思ったのに。

 まったく別の新しいゴーレムにでも憑依したのだろうか。


「……とりあえず人里を目指しましょうか」


 材木も人為的に切り倒された物のようだし、近くに人が住んでいるのは間違いない。

 幸い山道もあることだし、これを伝って麓を目指せばいずれ人里に出るだろう。

         ※


 あれから2時間ほど歩いたろうか。

 いまだ1人も人には会っていないが、道は段々と広くなっているので、麓には近付いているようだ。

 ……それにしてもこの体の性能には驚かされる。

 道々色々試しながら歩いて来たが……ジャンプすれば軽く10メートルを飛び、石を握れば握りつぶすことが出来た。

 靴の無いのもまったく苦にならないし、いまだ疲労も感じない。

 流石成人女性4人分を使って作られた体……ということか。

 単純に4倍の能力じゃ無いみたいだけど。

 ……と、そんな事をつらつらと考えながら歩いていると、道のかなり先の方から男性の声が聞こえてきた。

 声質からして、かなり老齢の男性のようだ。

 やっと見つけた人の気配につい早足になってしまう。

 そしておよそ300メートルも走っただろうか、やっと人の姿が見えてきた。

 どうやら聴覚も人間離れして良いらしい。


「まいった……ジャッキ持ってこなかったか……」


 その人は黒髪に白髪交じりの頭髪を持つ60代位の男の人だった。

 その人は小型の自走式馬車らしき物の側にしゃがみ込んで、なにやら作業をしているように見える。

 ……んん? この馬車……あの馬車の勇者が使っていたルミニウム真銀製の馬車に雰囲気が似ているような……?

 ……まあ、とにかく声を掛けなければどうしようも無いし……こんな浮浪者のような格好で声を掛けるのは勇気が要るけれども……思い切って!


「あの、其処のお方……お力を貸しては戴けませんか」

「ぬあっ!?」


 男の人は私に気が付いていなかったのか、声を掛けるとびっくりした様子でこちらを振り向いた。

 そして私の姿を見ると目を見開いてピシリ、と固まった。


「あの、もし……?」

「あ、ああ……いや、その、すまん! お、お嬢ちゃん大丈夫か!?」

「え、ええ。特に怪我などは無いと」

「そ、そうか……その、なんと言ったら良いか……命があっただけでも儲けものだ。い、犬に噛まれたと思ってだな……うーん、しかし困った……パンクを直せれば病院に連れてってやれるんだが」


 ああ、なるほど。

 そうね。この格好では誰かに襲われた直後、としか思えないわね。


「いえ、特に病院に行く必要も無いのですが……ただ、自分がどうしてこんな所に居るのか分からなくて」

「そ、そうか……ショックで記憶が……こんな小さな子供になんということを」

「いえ、ですから……体はどこも……そう言えば、それは何をしているのですか?」


 男性がしゃがみ込んでいた辺りには馬車の車輪と覚しき物が転がっていた。

 それは生前には見た事も無い真っ黒な車輪で(正確には馬車の勇者の馬車が似たような物を使っていたが)ちょっと興味を引かれたのだ。


「ん、ああ、これか? パンクしちまってな。タイヤを交換しようとしたんだが、ジャッキを家に忘れて来ちまってな、途方に暮れていたんだ」

「『じゃっき』というのは……?」

「ああ、お嬢ちゃん位だと分からないかな? 車の下に挟んでな、修理の間、車体を支えておく道具だよ」

「それが無いので馬車を修理できずに困っているのですね?」

「ば、馬車? いや軽トラっつってな……あー……まあ、そんなもんだ」

「この馬車をその『じゃっき』の代わりに持ち上げられれば修理できませんか?」

「いや、まあ……出来ないことは無いが……人力じゃなぁ」

「……お手伝いしたらお力を貸して頂けますか?」

「そ、そりゃあ、そんな格好した娘を放っておけんしな……でもな、おじょうちゃ………!?」


 ひょい、と片手で馬車の車体を持ち上げた私を見て絶句している男性。

 それはそうだ、生前私が同じような場面に出くわしたら同じく絶句する。むしろ脱兎のごとく逃げ出すかも。


「これで作業できませんか?」

「お、おおう、で、出来る……ちょ、ちょっとまて……いますぐ、な」


 はっと我に返った男性はものの5分で車輪の交換を終えたのだった。


          ※


「いや、助かったよ……お嬢ちゃん、えれぇ力だなぁ」

「私こそ、服を頂いた上、食事やお風呂まで……ありがとうございます」


 男性――センドウ・イチタロウと名乗った――は馬車の修理が終わると、私を連れて自宅へと招いてくれた。

 そして、そこで確信したのは……ここが元の世界では無い、と言う事だ。

 道路は黒い舗装材で滑らかに覆われ、走る馬車はすべて自走式。

 人々の服はことごとく貴族のように上質で、街には夜になっても明々と明かりが灯る。

 食べ物はすべて透明な膜にパッケージングされ、四角い箱に入れるとあっという間に出来たてとなって出てくる……しかもそのすべてに魔力を使っていないのだ。

 これは……やはり私達はあの時昇天してしまったのでは無いだろうか。

 それでまったく別の世界か時代に生まれ変わった……???

 でも、それにしたってフレッシュゴーレムに生まれ変わるというのもおかしな話だけれども……。


「それでな、お嬢ちゃん。一応警察にも確認したんだが……行方不明者の届け出は出てねぇそうだ。お嬢ちゃんみたいな外人のお嬢ちゃんが行方不明になってりゃあ大騒ぎになっているはずなんだがなぁ」


 警察、というのはこの世界の捜査機関らしい。

 この世界の捜査機関は行方不明者の取り扱いまでしてくれるのか。


「でな、かかぁとも相談したんだが、記憶が戻るまでウチの子にならねぇか?」

「……え?」


 いきなりの唐突な提案に言葉が出てこない。

 自分で言うのもなんだが、私は相当怪しいと思う。

 先ほど会ったばっかりのそんな女を……子供とはいえ、すぐさま受け入れられるものなのだろうか。


「いやぁ……実はついこの間、息子の葬儀を終えたばっかりでなぁ……史郎の野郎、親より先に行くなんざ親不孝の極みってもんだ」

「……交通事故でねぇ……遺体は見つかってないんだけど、車ごと海に落ちたから沖に流されたのかねぇ……だからね、お嬢ちゃんがウチの子になってくれれば私も寂しさが薄れると思うのよ?」

 イチタロウさんの隣に座る老婦人――ミツコさんも、にこにこと笑いながらそう進めてくれる。


「あ、ありがとう……ございます……ご迷惑をお掛けしてしまいますがよろしくお願いいたします」


 私は2人の好意に素直にすがることにする。

 はっきり言って元々が貴族の世間知らずの子女だ。

 見も知らぬ世界で生きていけるとは思えない。

 そんな中2人の申し出は涙が出るほどに有り難かった。


「へ、よせやい。子供のくせにいやに礼儀正しい嬢ちゃんだぜ。なぁ美都子」

「ふふ、そうですよ。もうあなたは私達の子供なのだからそんなに気を遣わなくても良いの」

「は、はい。ありがとうございます。おじさま、おばさま」

「お、おじさま、ときたかい……まあ、とりあえずはそれでいいやな……で、そういや嬢ちゃんの名前はなんて言うんだ?」

「あらお父さん、まだお名前伺ってなかったの?」

「う、いや、なんだ……いろいろびっくりしすぎてな、聞くのを忘れてたんだよ……」


 うん、その気持ちは分かる。

 山の中からほとんど裸の異国人が出て来て馬車を片手で持ち上げれば……それはびっくりするだろう。

 というか、私自身、自己紹介も忘れていたし……これは貴族としてあってはならない失態だ。

 でもそんな私をこの2人はすぐさま受け入れてくれたのだ。

 ここは貴族の礼に則ってきちんと挨拶をするべきだろう。


「失礼いたしました……こほん。私はムーライト王国ルーティン子爵ハウゼン男爵スターク男爵ロッテン男爵の長女長女三女次女ルシーダレオナソフィーティアプリムラと……あ、あら?」


 目の前にはポカンとした顔のおじさまとおばさま。

 というか、それ以上に私が絶賛混乱中だ。

 どうやら……私達は4人ともこの世界に来てしまったらしい。

 それも一緒の体の同一人物として。

 名前以外は完全に一つの人格として統合されているらしく、その為今まで気が付かなかったのだ。

 しかし……こうなるとなんと名乗れば良いのだろう。


「ううん……立派な名前だが、ちいとじじいが覚えるにゃ長すぎるなぁ……なにか愛称みたいなのは無いのかい?」


 で、ですよね……ええと……私達4人に共通する名称……ううん……やっぱり、アレしか無いかなぁ。


「ええと……ナイン……ナインと呼んでください」


 こうして私達4人は9番目の生体人形フレッシュゴーレムの体を持った「ナイン」として、この世界――地球に生まれ直したのだった……。









ナインちゃん復活!ナインちゃん復活!ナインちゃん復活!

……でもバトルジャンキーではないので試合とかはしません(笑)

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