真銀装備
アルミの加工って詳しくないので、文中に不自然に記述があれば申し訳ありません。
無事イングリット達を確保してから数日後。
俺は2人を伴って商店街に来ていた。
奴隷となった時に2人の装備は取り上げられていた為、とりあえず2人の装備を整えようと思ったのだ。
「シロウ、とりあえずは安くてもいい。丈夫な得物を買ってもらえれば、またギルドで働いて代金を返せるから……」
「私も……普通の杖があれば……」
2人とも遠慮をしているのか、そんな事を言ってくる。
でも、俺にはある目論見があった。
「うん……まあ、ここで買うのはそんなにお金のかからない物なんだけどね……っと、マシュー武具店……? ここでいいか」
適当にぶらついている内に商店街の端にぽつんと立っている、こぢんまりとした武具店を発見。
早速店の扉を開けて中に入ってみる。
店内には椅子に腰掛けているひょろ長い金髪のおっさんひとり。
……武具店の店主ってイメージじゃ無いな。
「ごめんくださーい。武器と防具見せてくれますか?」
「お、おお? お客さんか。いやー、良く来たね。……初めてのお客さんだよな? 私は店主のマシューだ。ゆっくり見ていってくれ」
俺たちを満面の笑みで出迎える店主……マシューさん。
よっぽどお客が来てなかったんだろうか。
「……とりあえずローブとブレストプレート、小盾、両手剣と杖を見せてくれるかな」
「後ろの2人のお嬢ちゃん用かい? ならこの辺かな……」
眼鏡を人差し指でくいっと上げると、カウンターにいくつかの武器と防具を並べ始める。
俺はその中から柄と刀身が一体成形でない両手剣をいくつか選ぶと、それをイングリットに見せる。
「イングリット、この中から刀身を考えずに持ち手だけを考えるならどれがいい?」
「……??? 刀身を考慮に入れずに、か? なぜ……」
イングリットが不審げに眉をひそめる。
店主も、何を言っているのか、という表情だ。
「まあ、とりあえずさ。握り心地とか大きさとかで選んでみてよ」
「あ、ああ……? ……うん、柄だけで言うならこれ、かな……だが私が使うには刀身が少し短いが」
イングリットが指差したのは、刀身を柄に差し込み、金属のピンで固定する……いわゆる日本刀式の柄の物だった。
柄は仕上げに赤い紐で丁寧に巻かれ、滑り止めと装飾を兼ねているようだ。
うん、このタイプならいけるな。
「店主、これの柄だけってのは売ってもらえるのか?」
「……柄だけか? また妙な注文を……まだ組み立て前のがあるから、それで良けりゃあ……金貨1枚ってところかな」
「ん。じゃあそれとー」
「ちょっ……シロウ! 柄だけ買ってどうしようというのだ!?」
「大丈夫、剣身の方は心当たりがあるんだ」
「あー……そうか? まあ、こっちは買って貰う方だ。贅沢は言えんが……」
いまいち納得し切れてないイングリット。
理由をこんな店先で言う訳には行かないから、勘弁ね。
「あー……小盾はこの腕に取り付けるタイプのがいい?」
「あ、そうだな。基本私は両手剣を使うから……左手が塞がらない盾があれば助かる」
「OK。後は杖……と。杖ってのはどうなんだ? ただの棒となんか違うのか?」
ジルの杖を買うに当たって、まったく基本の所が分かってなかったことに気付き、ジルにそう聞いてみる。
「杖は基本的に二つの部分から出来て、る。魔法の発動体としての役目を果たすのが頭の部分に取り付けられている魔石で、魔力の貯蔵庫としての役目をするのが杖の本体。発動体だけなら魔法の指輪でも代用出来るけど、魔力貯蔵庫としての役割を期待するなら杖の材質が重要になる。『世界樹の枝』や『ミスリル』『オリハルコン』あたりの稀少素材の杖ともなると、魔術師数人分の魔力を溜めておけると聞いたことがある。そもそも……」
あ、まずい。ジルの目が爛々と輝いている……
これはあれだ、言ってみればオタクが自分の好きなことを喋る時の……あのモードだ。
「あ、詳しくはまたな。興味深いけど、また後で聞かせてくれ」
「む。……しかたない。杖の構造と活用法について、あと2時間は解説できるのだけど」
ものすごく残念そうなジル。
どれだけ喋るつもりだったんだ。
「で、魔法の指輪と杖ってのは併用できるの?」
「出来る。発動体を指輪にして、杖はタンク機能だけに絞る、といったケースもままある」
「ん、分かった……なら店主、杖は止めにして魔法の指輪出してくれるか?」
「あいよ、んー……じゃあ、この辺りかな」
カウンターに並べられた色とりどりの指輪。
「ずいぶん色々あるな。魔石ってのはこんなに種類がある物なのか?」
「あー、魔石ってのは通称さ。宝石に魔力で魔法回路を刻んだ物をまとめてそう呼んでいるんだ」
「なるほど……ジル、どれがいい?」
「……どれでもいいの?」
「ここに並んでいるのならそう高くは無いみたいだからね」
「ん、分かった……なら……えーと……」
うーん、うーん、と、悩み出すジル。
やはりアレか。魔法の発動体とは言え、指輪だからな……女の子としてはじっくりと選びたいんだろう。
「うん、決めた……これにする」
最終的にジルが手に取ったのは煌めく透明な宝石の指輪。
もしかしてダイヤモンドか。だとしたら結構な値段がするんではなかろうか。
地球と同じ価値だとしたらだが。
「綺麗だね~ダイヤ?」
「ううん、ジルコニア。私と同じ名前の石だから……」
おお。ジルの名前にはそんな意味があったのか。
何ともロマン溢れる名前だったのだな。
「お、娘さんいい目をしているね。そのジルコニアは人造魔石の中でもそれなりに質の良い物だよ? お値段は金貨8枚だ」
店主がすかさず説明を入れてくる。商売上手だな。
「ん、じゃあそれも貰おうか」
「はいよ、まいど」
「後は……ローブと胸当てと……ああ、それに2人の生活用品や細々とした物も揃えなくちゃか。どっちみちこの店だけじゃ賄えないな……とりあえずこれだけ会計して」
「ほいよ。全部で……えーと、胸当てが金貨9枚、小盾が金貨4枚、革の籠手が金貨4枚、耐刃ローブが金貨6枚、剣の柄が金貨1枚、魔法の指輪が金貨8枚と……全部で金貨32枚だがおまけして30枚でどうだ?」
「お、悪いね店主。じゃあ白金貨3枚で」
「毎度有りぃ」
武具店での買い物を終えた俺たちは続けて日用品の買い出しに向かうことにして、武具店を出た。
と、ジルが俺の服の裾をつんつんと引っ張ってこっちを見上げてくる。
「……ね、指輪……今しちゃ駄目?」
必殺の上目遣いのおねだりモード。
俺に抵抗の出来ようはずも無い。
「あー……かまわんよ。ほら」
ジルは俺が差しだした指輪をじっと見つめるが、手に取る様子は無い。
「どした? 着けないのか?」
「シロウ、………………嵌めて」
「お? おう……いいけど……」
「ん」
だまって左手の薬指を差し出すジル。
…………これはあれか。
そーゆー意味なのか。
いやいやまてまて……こっちの世界でも左手の薬指の指輪が同じ意味だとは限らないじゃないか。
考えすぎだって。
俺は軽く頭を振ると、ジルの手をそっと取って薬指に魔法の指輪を嵌めてやる。
心なしか赤くなるジルの頬。
「ありがと……シロウ」
にへっ……といった感じで笑み崩れるジル。
畜生可愛いじゃねえか。
「へー……ほー……ふーん……」
はっと気付くと、横にはにやにやとからかうように笑うイングリットが。
「いいなー私も左の薬指が寒いのよね~」
「……イングリットも要ります?」
「え、いいの? ありがとう! ほら、私はさ魔法の指輪じゃ無くて良いから……3分の1もしないよ? 値段!」
「は、はい……ソウデスネ」
結局イングリットにはその髪のように真っ赤なガーネットの指輪を買って送りました。
そんでやっぱり左の薬指に嵌めさせられました。
まあ、ものすごく嬉しそうにしていたので買った甲斐もあったかな、と。
※
集車場に戻って来た俺はそのままトラックの貨物室に入り、買ってきた荷物を並べた。
そしてとりあえずイングリット用の剣の柄を取り出す。
「イスズ、アルミサッシ出して……下半分がアルミ板になってる……アルミかまち戸のヤツな」
『はい、あるじさま』
ひゅっ……と目の前に現れる1枚のアルミサッシ。
それを電動丸ノコとグラインダーを駆使して切り離し解体する。
結果80センチ位の棒が3本と2メートル位の棒が2本、80センチ×80センチのアルミ板が1枚、ほぼ同サイズのガラス板が1枚……という風にばらすことが出来た。
その中でも幅広の……アルミサッシの右側の部分を使って大剣の刀身の形に削り出していく。
柄との接合部分の細かいところは電動ジグソーなんかも使って整えた。
だが、このままだと断面が中空になっているので、刃の無い剣になってしまう。
そこで中空部分には別に切り出したアルミプレートを詰め、リベットで一体化させる。
その状態でグラインダーを斜めに当てて刃の部分を作っていく。
……ヌンチャクの例を考えるに刃そのものはあまり重要では無いのかもしれないが、一応、剣というカテゴリであることだし。
これを買ってきた剣の柄に差し込み、アルミ釘を柄の目に刺して固定。
釘の余分なところをグラインダーで丸めて柄の紐を巻き直し……『ルミニウム真銀の大剣』が完成した。
それを一連の作業をポカンとして見ていたイングリットにほい、と渡す。
「え……これ……?」
「約束してた武器。剣身の方は心当たりがあるって言ってたでしょ? ハンドメイドで申し訳ないけど」
「……ね、ねえ……これって……ルミニウム真銀、よね……」
「うん、そうだねぇ」
「いや、そうだねって! 剣身が全部ルミニウム真銀の剣って聞いた事無いぞ!? 一体どこから……」
「イングリット、シロウはそもそもこの自走式馬車そのものがふんだんにルミニウム真銀を使った代物だって言ってたし……不思議では無い」
「もう! ジルも何平然としてるの! そもそもなんでこんなに簡単にルミニウム真銀が加工できるの!?」
「あー……すまんね。気に入らなかったか?」
やはり重心のバランスとかデザインとか既製品の方が良いのだろうか。
「気に入ったわよ! すっごく!! ……でも、ホントに良いの? 返せって言っても返さないよ?」
「言わない言わない……戦力増強に役立てば本望さ」
「増強なんてものじゃないわね。「大」増強よ……そもそも魔力を蓄積する性質があるルミニウム真銀の剣身って時点で魔法剣は使いたい放題だし……軽いから取り回しも楽だし、単純な強度でもミスリル製の数倍はあるわ」
剣を抱きしめて大興奮のイングリット。
危ないぞー色々な意味で。
そしてそのイングリットを羨ましそうに見ているジル。
「いいなぁイングリット……アーティファクトクラスでも丸々ルミニウム真銀製の剣って聞いた事無いわ」
「あ、もちろんジルの杖も作るよ? と言っても発動体無しの……どちらかというと棍みたいな感じになると思うけど……発動体は指輪があるからいいよな?」
「いいの? 私はイングリットと違って杖が無ければ戦えないという訳じゃ……」
「でも有った方が魔力の予備タンクになるんだろ?」
「……うん。丸々ルミニウム真銀の杖なら……魔術師百人分以上の量を貯めておけると思う……はっきり言って反則」
「それじゃやっぱり作ろう……でもデザインは期待しないでくれよ。そんなに器用じゃないんでなぁ」
「うん、ありがとシロウ」
彼女達の嬉しそうな笑顔に調子に乗った俺はその後も
ルミニウム真銀プレート入り籠手
ルミニウム真銀で補強した小盾、
ルミニウム真銀で補強した胸当て
ルミニウム真銀プレートを縫い込んだローブ
ルミニウム真銀片手剣(予備用)
Etc……を作り続けたのだった。
※
ルミニウム真銀を使った武具の魔改造を始めて数時間。
やっと一通りの改造が終わり夕食の準備を始めた頃。
夕闇が迫る中、俺たちの家とも言える自走馬車に1人の男が訪ねてきた。
短く刈られた黒髪につば広の帽子をかぶり、多少くたびれた感のあるロングコートを着た50代と覚しき男性はトラックの側で湯を沸かしていた俺に声を掛けてきた。
「あの……失礼ですが、シロウ・センドー殿でしょうか?」
「ええ、そうですけど……あなたは?」
「ああ、良かった。やっと見つけましたよ。あ、申し遅れました。自分は貴族院内部監査官ゼィン・ニガッタと申します」
帽子を脱いで一礼をするゼィンさん。
貴族院なんちゃらとかいう偉そうな肩書きの割には腰の低い人だ。
「はあ……そのゼィンさんが何用で……」
「実はですな。シロウ殿は数日前、奴隷市でルォード氏から攻撃魔法を受けるというトラブルに見舞われましたな?」
「は、はあ……それが何か?」
「それが切っ掛けで、ルォード・ガナリー氏に貴族の不正奴隷売買の疑惑があり、として……当方で調べていたのですが……共犯と思われ、逮捕寸前だったジュノー・コバン氏と共に姿をくらましたのです。シロウ殿の所にも逆恨みで来ないとも限りませんのでな、ご忠告に参ったしだいです」
立たなくてもいいフラグが立った気がする。それも巨大なヤツが。
……どうやら、あの変態貴族との縁はまだ切れてないようだった。