序
連載ですがボリュームとしては中編を予定しています。
初めてのファリーアスシリーズ以外の小説です。
剛田工務店。
住宅地の外れにひっそりと立つ俺の勤め先だ。
俺はその店先で一台の普通貨物自動車を前に呆然と突っ立っていた。
イスズのエ○フ。車両後部が観音開きの貨物室になっている……よく引っ越し業者が使っているパネルバンと呼ばれるタイプだ。
普段から俺はこの車を使って現場に資機材を運んだりしている……言わば相棒とも言える車なのだが。
「……あの、社長、良くわかんなかったんですが……もう一回言ってもらえますか」
「……だからな。ウチ倒産しちまったんだわ。もう退職金も払えないくらい綺麗さっぱり。うん。で、それじゃあんまりなんでな……こいつ、退職金代わりに持って行け」
「いや……退職金代わりって……10年落ちのパネルバンが俺の退職金って事っすか!?」
「流石にそれだけじゃないぞ。詰みっぱなしの資機材も持ってけや」
「資機材って……工務店解雇されたら、どっちみち使い道無いじゃないっすかーーっ」
「ははっ、すまんな史郎。正直俺も一杯一杯なんだわ」
明るく振る舞いながらも憔悴した社長の顔。
十年以上も世話になったおやっさんの弱々しい姿を目の当たりにして、俺はそれ以上言う事が出来なかった。
……こうして俺こと泉堂史郎は、トラック一台と引き替えに10年以上勤めた仕事先を失ったのだった。
※
あれから3日経った。
とりあえず俺は自分が住んでいたアパートを引き払う事にした。
元々アパートにはたいした荷物は無いし、台所用品と布団と着替えと貯金箱をトラックに積んだらそれでほぼ終わりだ。引っ越し業者を呼ぶまでも無い。
これからどうしようか、と色々考えたが、とりあえずは……一時的に実家に身を寄せるしかないという結論になったのだ。
31にもなっていまさら親に頭を下げるのもなんだが、定職を失った以上、しばらくやっかいになるしか無い。
「……はええとこ仕事見つけないとな」
俺は誰に聞かせるともなくぽつりとつぶやくと、エンジンを掛け、車を出した。
ここからなら海沿いの国道を南下していけば2時間ほどで実家のある○○市に着く。
実家は親父とお袋の二人暮らしだし、部屋は空いている。
年金暮らしだから無理はかけられないが、しばらくはアルバイトでもしながら家に金を入れつつ仕事を探そう――
――そんな事を考えながら、ぼーっとして運転していたのが悪かったのか。
俺はトラックの前に飛び出してきた女の子を避けようとしてガードレールを突き破り……崖下の夜の海へとトラックごとダイブしてしまったのだった……。