Uncrossed world
今回、初めてオリジナルの小説を書きました、みんです。
普段は二次創作物を書いているのですが、欲求が溜まってきたのでこれを書くことと相成りました。
つまらない(おまけに意味不明?)物ですが、時間つぶし程度に軽い気持ちでお読みください。
『うわぁー!! 見て見て学!! 文字が右から左に流れてる!! 文字に色もついてるし、おもしろーい!!」
「ありゃ電光掲示板って言ってな……って、この説明前もしたじゃねーか!! お前を連れて街に出るのもこれが初めてって訳じゃねーんだから、いい加減色々なものに感動するのやめろよ!!」
俺―――更科 学は夜の東京の街を一人で歩いていた。
『えー。だってだって、あんなもの、私たちの世界には無いんだもん』
「そうかい。でもな、テメェにとっちゃ感動的なものでも、俺にとっちゃ見慣れたものだからな。いちいち感動の言葉を並べられてもリアクションできねぇんだよ」
『ぶー。学、冷たーい』
「冷たくて結構」
俺は、帰宅途中のサラリーマンや学生などの間を縫うようにして、一人で駅前通りを進む。
『ねぇ学、どうしてそんな小声なの?』
「……テメェ、天然か、それとも確信犯か? 他人から見たら俺は独り言をブツブツ呟いてる、ちょっと近寄りがたい人間なんだよ。それに上乗せして、テメェは俺に大声でしゃべれって言うのか?」
『じょ、冗談だよぉ。そんなに怒らなくたっていいでしょー?』
「フン」
一人で呪文みたいにしゃべっている俺を見て、すれ違う人間のうちの何割かがすれ違いざまに俺のことを「何だコイツ」みたいな目つきで見やがる。
本当なら「なんだその目つきは、あぁ?」の一言でも投げかけたいところではあるが、彼らの反応はなんら間違っていないからそれもしにくい。
なぜなら俺は、俺以外の人間には見えない少女と会話しているのだから―――
chapter0 Uncrossed couple
『あ、列車だ!!』
俺たちは駅前通りでの散歩を無事に(?)終了させると、線路沿いに建っているマンションへと帰ってきた。
現在、俺たちはマンションの7階にある俺の部屋のベランダから、数分おきにやってくる電車を眺めていた。
「あのなぁチンチクリン……」
コイツにとっては電車は珍しいものなのかもしれないが、この光景も俺にとっては見慣れた、当たり前のものだ。
そんなものをわざわざベランダまで引っ張って連れてこられて、半ば強制的に見させられても俺にとっては一つも面白くない。
そのことを告げようと俺はコイツに声をかけたのだが……
『チンチクリンって私のこと!? 私にもちゃんとした名前があるの!!』
……また大声出しやがった。
コイツの声は誰にも聞かれることがないこともあってか、コイツは事あるごとに叫ぶように物を言うのだが、肝心の俺には音量そのままで声が届いてることを忘れてるんじゃないのか?
「ああ分かった分かった。だから俺の近くで大声を出すのは止めてくれチンチクリン」
『もう完全にワザとだよね!? 私には白魔法子っていう名前があるの!!』
「ワザとな訳ねーだろ? そんな『しろまほうこ』なんて名前、そうそう簡単に忘れられるかよ」
俺はコイツのご期待に沿って名前を言ってやると、右手に持っていたグラスの中身を少し口に含む。
それにしても、『しろまほうこ』だなんて名前からして、やはりコイツがチンチクリンであることは否定のしようがない。
おおかた、白魔法を扱える子供になって欲しいなどという、両親の非常に残念な意向がコイツの名前には存分に含まれているのだろう。
まぁこの場合、名前を付けたのはコイツの両親だから、チンチクリンなのも両親ということになる。
俺なら、こんな意味不明な名前を付けられて、名前をネタに誰かに笑われようものなら速攻で両親を暗殺しかねない。
それはともかく、『蛙の子は蛙』という言葉があるように、コイツの両親がおかしな連中ならその子供であるコイツもおかしな奴ということになる。
今だってコイツは俺の身体をガクガクと揺さぶって……
「ば、こぼれるこぼれる!! 何だ魔女っ子、俺を突き落そうって魂胆か!?」
『あ、それも良いかも……』
「冗談じゃねぇ!! テメェみたいな白魔法使いに殺されてたまるか!!」
黒魔法を使える奴に攻撃魔法で殺されるのなら100歩譲ってまぁ分からないでもないが、およそ攻撃とは無縁そうな奴に、しかも突き落されて殺されるなんてのはまっぴらごめんだ。
『そんなことするわけないでしょ!!』
「じゃあなんで俺のこと揺すぶったんだよ!? テメェが力加減を間違えたり、手すりに万が一問題でもあったら俺は今頃あの世行きだったぞ!!」
『もし学が落っこちたら私が助けるから大丈夫だもん。そうじゃなくって、私が学を揺すったのは、学が私の名前を変な風に読んだから!!』
「変な風にって……おい、ちょっとこれ持ってろ」
俺はグラスを『しろまほうこ』に預けるとポケットからスマートフォンを引っ張り出した。
ちなみにコイツは、俺以外の人間には姿が見えないだけで、物に触れたり今みたいに持ったりすることもできる。
まったく、つくづく変な奴だ。
『なにそれ?』
「説明するのもダルイくらい色んなことができる代物だ。今俺がしようとしていることに限って説明すれば、テメェの名前の漢字をさっきの電光掲示板みてぇにこれに表示させるんだよ」
『ほへぇー』
分かったのか分かってないのか判断しかねる返事だが、俺は無視してコイツの名前を漢字表示させる。
「ほら、『白魔法子』。こうだろ?」
『うん』
「ならやっぱりこれは『しろまほうこ』じゃねぇか。街行く連中にこれを見せたら10人中10人がそう答えるだろうよ」
『それは学が区切りをハッキリさせないのがいけない!! 魔の字と法の字のあいだにちょっと余白を作ればちゃんと読めるでしょ!?』
「区切り……スペースか? じゃあ……『白魔 法子』こうか。これでも一般人には難しいだろうよ。しろま……ほうこ?」
やっぱり『しろまほうこ』じゃないか。
スペースを突っ込んだくらいで漢字の読みが劇的に変わるわけないだろう。
『確かに普通の人に見せたらそれが限界かもしれないけど、学には出会った時にちゃんと読み方教えたよね!?』
コイツは若干ヒステリック気味にそう叫ぶと、またしても身体をガクガクと揺すってきやがった。
俺としてはコイツをいじることによって、日常で溜まっているモヤモヤを少しでも発散させているのだが、これ以上続けると今度はコイツの抵抗のせいでストレスが溜まりそうだ。
おまけに遠慮というものを知らないのか、コイツは結構ガチで俺のことを揺さぶってきている。
下手をすると7階からスマートフォンを落とすことにもつながりかねないので、ここら辺でいじるのは止めといてやろう。
「あー分かった分かった!! 分かったからもう揺するのは止めてくれ!! せっかく気持ちよく飲んだものが全部出てきたらどうする!!」
『じゃあ私の名前は!?』
「『はくま のりこ』だろ!!」
『正解!!』
俺が正しい名前を告げると、白魔はようやく俺から手を離した。
あー、ウイスキーを飲んだせいもあるだろうが、コイツが揺さぶったせいで頭がクラクラする。
……ん? 逆か?
「くそっ、せっかく程よく気持ちよくなってきたところだったのによぉ。第一、白魔ってのは何なんだよ」
『名前ならともなく、苗字に文句言われても……』
「じゃああれか、テメェのいた世界ではそんな変な苗字の連中がたくさんいるのか?」
『そんなこと……あるかも。少なくとも、こっちより魔法界の方が変な苗字は多いのは間違いないと思う』
白魔が俺以外の人間に姿を見られない理由は知らないが、その原因の一翼を担ってると思われるのが、コイツが元々いた世界―――魔法界だ。
魔法界。
俺はそんな世界があるなんて知らなかったが、逆に魔法界の連中は俺たちの世界のことを知っているらしい。
そして白魔いわく魔法界とは、『こっちの世界とほとんど構造は同じだけど、根本的な部分は全く別の世界』……なんのこっちゃ。
「でもよぉ、確かお前の話じゃ、俺たちの世界と魔法界は構造はほとんど同じなんだろ? だったら個人の持っている苗字もほとんど同じものになるんじゃ……」
『うーん、確かに理論的にはその通りなんだけど。実際、こっちの世界で建物が建っている場所には魔法界でも建物が建っているし、魔法界にも列車はあるし』
「なんだと? でも、魔法界には『電気』がねぇんだろ? お前電光掲示板見たこと無かったし」
『動いてる仕組みが違うの。こっちは電気とかいうものを使うんでしょ? 魔法界では列車は、魔力で動かすの』
「……なるほどな、だからテメェはさっきから『電車』じゃなくて『列車』っていう単語を使ってるのか」
俺は一人納得し、いつの間にか宙に浮いていたグラスを手中に持つと一口飲む。
ちなみにコイツ、俺の前だと魔法を使うことを躊躇わない。
他の誰かに見られたらヤバいから使うなと言ってあるのだが、いっこうに止める素振りを見せない。
「さっき理論的にはって言ってたけどよ、じゃあ実際にはこっちと魔法界では、個人の持ってる苗字が結構違うってことか?」
『うん。もちろん、こっちの世界で使われてる苗字も魔法界にはあるよ。佐藤とか、田中とか。……あと、綾辻も』
「へぇ、綾辻先輩の苗字も魔法界にはあるのか」
綾辻とは、俺の通っている学校の一つ上の女子先輩のことだ。
同じバイト先の人で、色々とお世話になっている。
彼女がいなかったら俺の学校における成績は下の下だろうし、バイトなんて速攻で辞めていただろう。
昔くすぶっていた俺の面倒を見てくれて、彼女のおかげで昔の俺は色々なことから卒業できた。
「魔法界の綾辻先輩ってどんな感じなんだ?」
『……知らない。私が知ってるのは、綾辻っていう苗字が魔法界にもあるってことだけ』
そう言った白魔の表情は、どこか不機嫌そうだ。
コイツがこっちに来てからまだ日は浅い。
俺以外の人間とは接触していないはずなのに、コイツは俺が綾辻先輩と話したり、先輩のことを話すだけで何故か不機嫌そうな表情を浮かべる。
「お前さぁ、俺がちょっとでも綾辻先輩のこと話すだけでそんなにむくれるんだ?」
『……別に』
「別にって、訳が分からん。嫉妬……じゃないだろうな。お前の方が綾辻先輩より巨乳だし」
『きょ……!! 学の馬鹿、変態!!』
白魔は顔を赤くしながら俺を罵倒すると、胸元で腕を交差させて胸をガードしながら空中に逃げた。
コイツは魔法を使って浮遊することができ、今は俺が手すりから身を乗り出して腕を伸ばしても届かないところにいる。
そのせいでパンツが丸見えになってしまっているのだが、当の本人は胸を隠すのに気を取られて下の防御がお留守になっている。
……というか、コイツは街中を俺と一緒に出歩く時、一般人に触れられないようフワフワと空中を移動しているのだが、その時からすでに下着は見えてしまっていた。
どうやら魔法界の女子ってのは、こっちの世界よりガードが甘いみたいだ。
「なに怒ってるんだ? 女子にとって、誰かと比較して胸が大きいって言われるのは嬉しい事なんじゃないのか?」
『そういうことじゃなくて……!! もう、知らない!!』
白魔は怒ったまま、スライド式の窓を開けると一人で部屋の中へ入って行った。
「……何だってんだ?」
俺はグラスに残っていたウイスキーを飲み干すと、白魔が開けっ放しにしていった窓から部屋へ入った。
「おい魔法少女。少し聞きたいことがある」
ベッドのふちに腰かけていた私にむかって学はそう言いながら、私の隣に腰かけてきた。
右手にはウイスキーが注がれたグラス。
『私から何か聞こうっていうのにまだお酒飲むの? 明日になって、酔ってて話忘れたなんて言わないでよ?』
「飲もうと飲むまいと俺の勝手だ」
『もう、飲みすぎは身体に良くないよ?』
「そんなことは言われなくても分かってる。それよりお前、魔法界に帰る方法を知らないのか?」
『だからー、知ってるわけないでしょ? そもそも、私自身どうやってこっちに来れたのかも分からないんだから』
そう、なぜ私が学のいる世界に来てしまったのか、理由がまったく分からないのだ。
気付いたら学の部屋の収納空間にいて、服を取り出そうと扉を開けた学に発見された。
「けっ、面倒な。最初は、もう一度収納スペースにぶち込めば帰るかと思ったんだがそれも上手くいかなかったしな」
『あの時の学、かなり真剣だった』
「そりゃそうだろうっていうか、今も真剣だ。お前と一緒に住んでると、その分だけ食費やらが増えるからな。真剣にならない訳がない」
学はさも当たり前であるかのようにそう言うと、グラスに口をつける。
『うーん…… 正論なんだけど、そう言われるとちょっとムカッとくるかも』
「正論なんだから仕方ない。……まぁ、他にも理由が無いわけじゃない」
『理由?』
「テメェにはテメェの生活があるだろ? 魔法界には友達がいるだろうし、何より家族があるだろう」
『学……』
意外だった。
まだ学と知り合ってそんなに時間は経っていないけど、学という人間のおおよそは分かってきたつもりだ。
学校には平気で遅刻するし、制服はだらしなく着るし(学いわく、俺の学校の連中が真面目に着すぎてるとのことだが)、年上の人にも敬語を使わない。
唯一、学が敬語を使って話すのは綾辻とかいう女子だけだ。
綾辻さんと話している時の学は、まるで別人であるかのように大人しく―――つまるところ、普通だ。
学の過去に関係しているらしいが、それがどういったものかは教えてもらえない。
多分良い人なんだろうけど、私はなぜか彼が綾辻さんと話したりしていると気分が良くない。
ちょっと話がそれてしまった。
とにかく、更科 学という人間は他人に対しては基本的に無関心だ。
その学が、私の生活や家族のことを考えている……
「テメェが俺のところに来たのは偶然だろうし、そうであって欲しい。でもな、いくらなしくずし的にお前と一緒にいるっていったって、俺にお前の日常を奪う権利なんてない。そう、無いんだよ」
そう言った学の手はわずかに震えていた。
『学?』
「俺には、家族なんて無いからな。だからって訳じゃねぇけど、白魔、お前の日常だけは何としても取り戻してみせる」
学はそう力強く言い切ると、同じく力強さのこもった目で私のことを見つめてきた。
ドキッとした。
さっきも言ったが、学は他人のことに関しては無関心だ。
だが、その無関心さが私にも向けられいるかと考えてみると、答えは恐らく『いいえ』だ。
確かに、言葉づかいは乱暴だし、女子である私にも平気で下ネタを言ってくる。
でも、『食費が―――』と言いながらも私のために料理をつくってくれるし、その質だって、およそ一人暮らしの男の子が作る様なものではなくしっかりしたものだ。
そして今、こうやって私が魔法界に戻れるよう力を尽くすと言ってくれた。
それは、とても嬉しい事だった。
でも―――
『………』
ありがとう、と言えないのは何でだろう。
嬉しいことだし、感謝しなければいけないこと、それは分かっているのに。
ありがとう、この単純な一言が出てこない。
代わりに口を突いて出てきたのは―――
『でも、私が魔法界に戻れるってことになったら……学には、会えなくなるんだよね』
別れを惜しむような、魔法界に戻りたくないと捉えられかねない言葉だった。
「そりゃそうだろう。こっちと魔法界を自由に行き来できるような道を作るってんなら話は別だろうけど」
『……そういう道、作れないかな?』
「どうだろうな。少なくともこっちの世界じゃ無理だろ。魔法界があるってことすら知られてないんだから。魔法界から道を作るっていうのは?」
『……できない』
「ならしょうがない。白魔が魔法界に帰るとき、それは俺たちの別れの時ってことだ」
学はその言葉に特に感情を込めることなく、淡々と結論を言った。
それはそうだろう。
学にとっては私を魔法界に帰すことが使命のようなものであり、それ以外などということはない。
そしてそれは私にとっても同じこと。
私という存在は魔法界にいてこそのものであり、こっちの世界では不純物でしかない。
それは百も承知だ。
だけど―――
「? なんだ、急に寄りかかってきたりして」
私は気付いたら、学に身体を預けていた。
お酒が入っているせいもあるだろう、学の体温がはっきりと伝わってくる。
『……特に理由はないの。でも、少しのあいだでいいから、こうさせてほしいの』
「……ったく。少しだけだぞ? 長時間寄りかかられると、テメェの身体の重さに俺が耐えられないからな」
学はしっかりと女性に対して失礼なことを言いながらも、左手をまわして私の左肩を軽くつかむと、自分の身体の方へ私を抱き寄せてくれた。
『(……そんな優しいことしないでよ。帰りたく、なくなっちゃうよ)』
「あ? 何か言ったか?」
『ううん、何も』
どうせ私たちは世界の壁というやつのせいで、交差することなんて出来はしない。
ならせめて―――
これくらいの触れ合いは、世界も許してくれるよね―――?
感想等は随時受け付けております。
今後ともよろしくお願いします。