6. ドラフトの方針 ー 九州レインボー ー
九州レインボーは、その豊富な資金力により、
ドラフト会議では毎年のように、全球団を通じても最も多くの育成選手を指名していた。
チームは一軍クラスも分厚い選手層を持っていたので、即戦力を必要とする補強箇所も特になかった。
長期的なチーム作りの展望に沿ってのドラフト指名が可能なのであった。
九州レインボーは、高校野球、大学野球、社会人野球で、どういう実績を残したか、個々の選手のその記録上の数字よりは、
その選手がどれだけの潜在能力を持っているかを
重視した。
従って顕著な数字は残していなくても、
球が速いピッチャー、
稀ではあっても飛距離のあるホームランを打つバッター、
そして多くは体格に優れ、基礎的な運動能力の高い選手、
素材型、ドラフト愛好者の間ではロマン枠と呼ばれているタイプの選手が多かった。
2000年代前半、
九州レインボーは、球団が将来目指すべきものとして「世界一のチームになる」という目標を掲げたことがあった。
皆藤という190cmを超えるスーパーエースを中心に、安定した力量を持つ選手で固めた投手陣。
一時代を築いた秋本、
そして大窪、樋口、城野、杉永という全盛期あるいはまだ成長途上ともいえる長距離バッターがずらりと並んだ強力な打線。
そのとき近い将来、その実力の面でメジャーの強豪チームをも上回る世界一のチームを作り上げるという具体的なビジョンも描かれたと言えただろう。
そのチームの中心選手たちはそのほとんどが間もなくチームから去っていった。
豊富な資金力ににより代替戦力の補強は行われ、九州レインボーは日本のプロ野球界における強豪チームであり続けた。
だがそれは監督の楊が、理想として思い描いていたV9時代の東京ジェネラルスをも超えるメンバーによって構成される九州レインボーではなかった。
九州レインボーがドラフトにおいて素材型の選手を多く指名し続けたのは、
体格にも優れ
速い球を投げる豪腕投手、
そして長距離バッターをずらりと揃え、世界一のチームを目指したチームとしての遺伝子がなせることなのかもしれない。
がアマチュア時代の実績を重視しない素材型の選手たちはほぼ、一軍での戦力となるまでには育たなかった。
素材型偏向の九州レインボーのドラフト会議での方針は数年前からやや修正された。
素材型重視ではあるし、育成で大量の選手を指名するということに変わりはない。
が、近年の投手の球速、かつては図抜けた速球投手のラインと思われていた150kmを超えるピッチャーの普遍化。
かつては、速い球を投げる、遠くに飛ばす、というのは先天的な素質による。
スピードボーラー、長距離スラッガーは天与のもの、という考え方が主流であったが、
近年は、
正しい指導、トレーニングがあれば速い球は投げられるようになる。
コントロール、制球力があるかどうかがむしろその選手が持っているセンス、素質なのではないかという考え方。
バッターに関しては、メジャーにおいては、フライボール革命、本来は長距離バッターでない選手がフォームの改造によってホームランを打てるようになるという理論。
それらにより上記の天与の素質という考え方は変更されつつあった。
九州レインボーもその考え方に沿った指名が行われるようになった。
今シーズンにおいては、過去にも例がないほど、投高打低のシーズンとなり、トータルのホームラン数は激減した。
日本のプロ野球において、この傾向、スモールベースボールが続くのであれば、九州レインボーに限らず各球団は、ホームランに拠らない、ホームランを計算に入れずにどう得点力をアップするか、そのことにウェイトを置いたチーム作りが求められることになるであろう。