幼い頃から母に「お父さんはね、あの星からあなたを見守っているのよ」と言い聞かされてきた私。——なんか、お父さん、生きてたんですけど!?
この小説を開いてくださりありがとうございます!
楽しんでいただけると幸いです!
『わたしね、大きくなったらおーじさまとけっこんする!!』
——なんてことはない、小さい頃の思い出。
あの頃の私は、まだ、純粋無垢で、何も世の中を知らない少女だったと思う。
……まぁ、今もまだ若いけど。
「アルフレッド王子!生徒会室に戻ってください!まだ王子が決定しなければならない書類が山のようにあるんです!」
「……はぁ、そういう物はね、君が勝手にやっちゃえばいいんだよ。分かる?私は今、忙しいんだから」
私、ベルファドーラは、アルフレッド王子の婚約者候補である。
私の家は子爵家ではあるが、王子の婚約者候補として選出された。
その理由は、私のお父さんにある。
私の父、リング・コンパルトは国の、いや世界の英雄である。
世界に迫った脅威を、母からのお願い一つで、全て解決してしまった。
個人が持つにはあまりにも強大すぎる力に、国は父に鎖を掛けることにしたらしい。
それが、元男爵家令嬢であった母との婚約と、私の婚約者候補としての選出。
しかし、父はそれが決まって数日のうちに亡くなってしまった。
ある日突然消えた父の行方を母に尋ねると、決まって空を指さし、
「お父さんは、あの星からあなたを見守っているの」
と優し気な声で教えてくれるのだ。
幼いながらに私は、「あぁ、お父さんはもういないんだな」と納得し、それ以来、母と娘、二人で子爵家を維持している。
アルフレッド王子は、次期王太子として名高い存在である。
それは、現在王位継承権を持つ人物のほとんどが高齢か、まだあまりにも幼いかしか存在せず、適齢の人物がアルフレッド王子しかいないことに由来する。現在の王もそろそろ退位の時期に差し迫っており、王太子から、王になるのはほぼ確定だと言われている。
しかし、その素行はあまり良くない。
現在も、公務を行わず、遊び歩くことが多々ある。
さらには、自身の王族としての権力をふるい、あちこちで騒動を起こしているそうだ。
そういったことのしりぬぐいは、大概を私が行っている。
婚約者候補の中で最も身分が低い事と、私の強気な性格が、王子を諫めるのに一番適しているという理由だ。
私としては、不本意極まりないが、母に迷惑をかける訳にもいかず、日々、こうして王子に文句……いや忠言を繰り返している訳である。
「あぁ……疲れた」
「お疲れ様、ベル」
今日もようやく昼が訪れ、私は友達のミザリーと一緒に昼食を取っている。
「聞いてよ、アルフレッド王子は今日もね……」
私はミザリーに王子の愚痴を聞いてもらいつつ、昼ご飯を食べていく。
ミザリーとは学園に入ってからできた友達で、平民ではあるが、凄く頭がいい。
平民はなかなか教育の機会がなく、これほど聡明な人物はなかなかに見つからないらしい。しかし、ミザリーは特待生として学校に入学し、勉学に励んでいる。
私とミザリーは、本屋で同時に同じ本を手に取ったことで意気投合、それ以来、色々なことで話が弾み、今に至る。
「それにしても、本当に王子ってどうしようもないのね」
「そうなんだ~。私、彼が王様になるの、ちょっと不安……」
そう言って私は机に突っ伏した。
そんな私の様子を見て、少し考え込むようなしぐさを見せるミザリー。
「そうね……」
そんなミザリーには気づかずに、私は話題を変えた。
「それにしても、小さい頃のあれって夢だったのかな?」
「いつも言ってる、アレ?」
「そう」
私は、忘れっぽい性格ではあるが、小さい頃、印象的だった約束を覚えている。
それは、目の前にいる誰かに向かって、「わたしね、大きくなったらおーじさまとけっこんする!!」と言ったことだ。
本当に小さい頃だったからか、その相手の顔は覚えてないが、「おうじさま」だったのだから、多分アルフレッド王子の事なんだろうと思う。
でも、その相手はすごく優しくて、そして、どこか気品があった。
アルフレッド王子に気品が無いとは言わないが。
そんな昔の事を思い返していると、ミザリーが不意に話しかけてくる。
「ねぇ、ベル……」
「——ごめん、何?」
フッと思考をやめ、ミザリーの話を聞こうとする。
しかし、ミザリーは、何かを言おうとした後、すぐにやめてしまった。
「——ごめんなさい。やっぱりいいわ。もっと確信をもってから話がしたいし……」
「そう?別に確信が無くてもいいんだけど……」
「まだ、私の推測でしかないし、貴方を困らせたくないから」
そこまでミザリーが言うのなら、いいか。
「そう。わかった。じゃあ、確信できたら言ってね」
「もちろん。そのつもりよ」
こうして、私の毎日は過ぎていく。
時が過ぎるのはだんだんと早くなっていくと言うが、まさか、こんなにも卒業の日が来るのが早いとは思っても見なかった。
——卒業式のパーティ。
卒業生たちが思い出を語り合う場である。
そんなパーティの最中、事件は起こった。
「ベルファドーラ・コンパルト子爵令嬢!貴様との婚約は破棄させてもらう!」
そう言ってきたのは、当然アルフレッド王子。
アルフレッド王子は卒業生みんなの為のパーティで、あろうことか婚約破棄を行ったのだ。
私は、突然の蛮行に焦る心を抑えつつ、冷静に王子に応対する。
「その、婚約破棄とは?」
「言葉通り。私と貴様の間に結ばれている婚約をやめさせる」
「私と王子との間に婚約は——」
「うるさい!王子の命令には粛々と従え!この犯罪者が!」
私の言葉に横やりを入れてきたのは、騎士団長の息子だった。
見ると、その二人だけでなく、他にも数名の男性と、一名の女性がいることが分かる。
しかし、それ以上に気になることが有った。
「……犯罪者とは?私は何もしておりませんが」
「黙れ!貴様はこのニーラ嬢に対し、度重なる暴力を働いたという罪がある!」
そう男性たちの中の一名が叫ぶと、その男性たちの中にいた女性が泣き出した。
「私っ……怖くて……ベルファドーラ様が……やめてというのに、何度も……」
その女性は言い切る前に膝をつき、泣き伏す。
そんな彼女の様子を見て、さらに語気を強め、私に詰め寄る男性たち。
「おい、ニーラ嬢に何か言うことは無いのか!?」
「……私は何もしていません。何もあなたたちに言うことはありません」
私がそう言うと、私が男性陣に囲まれ、詰め寄られている様子に気が付いたのか、慌ててミザリーが駆け寄ってくる。
「だ、大丈夫!?ベル!」
「まぁ、私からしたら子供が喚き散らしているようなものだしね」
私は、ミザリーを安心させるように答える。
内心は、少し怖い。流石に大柄な男性複数が目の前で掴みかからんとする様子は心中穏やかではいられない。しかし、この場で手を出すようなことはしないだろう。
「証拠は?証拠はありませんの?」
そう言ってミザリーは男性たちを睨みつける。
男性たちはその様子にぎょっとしつつも、何やらメモ用紙を取り出し、順々に述べていく。
——三か月前の夕方五時。
その時間はすでに家に帰っていた。母親や一緒に帰った友人が証言可能。
——一か月前の朝10時。
その時間は休み時間だったが、先生の手伝いをしていた。先生が証言可能。
うろ覚えではあったが、なんとか友人やらの手助けを貰って
——三日前の昼。
「その時間帯は私と一緒にいましたし、それ以外にも見ている生徒はたくさんいましたよ」
そう言ってミザリーが証言してくれた。
段々と追い詰められていく男性たち。
「……これでよろしいですか?もう無いようでしたら、パーティを再開したいのですが……?」
「……るさい」
「はい?」
私は小声で聞こえなかった声を聴き返す。
「うるさい!姑息な手段を使いやがって!お前が犯人だというのは分かっているんだ!」
「ベル!!」
その時、騎士団長の息子が私を拘束しようと掴みかかってくる。
余りの蛮行に私は思わず目を閉じてしまった。
「ぬおっ!?」
「え……?」
しかし、ドタン!ゴトっ!という何かがぶつかる音はするものの、痛みはない。
不思議に思って恐る恐る目を開ける。
すると、そこには、騎士団長の息子を取り押さえ、向こうを睨む、どこか懐かしい雰囲気を漂わせている壮年の男性、私を背に守っている様子の青年、そして、その様子を見て唖然としている人たちが見える。
青年は、状況を見守り、私の方に向かって笑いかける。
「もう大丈夫。安心して」
「え……」
——物凄くタイプの顔。
私は頭に占めた考えを振り払うように首を振る。
「大丈夫かい?」
しかし、青年はそんな私の心中を知ってか知らずか、顔をこちらに寄せてくる。
——近い!顔が近い!!
「だ、大丈夫、です!」
思わず敬語になってしまった。
へ、変に思われていないかとあたふたしていると、「ベルちゃん!」と聞き覚えのある声が。
「お母さん!?」
そこにはお母さんの姿があった。
このパーティって、卒業生が企画して、卒業生しか入れないパーティなのに。
動揺する私をよそに、お母さんは私の姿を見て安心したように息をつく。
「ど、どうしてここに?」
「それがね、お父さんがベルに会いたいって言うから、『今日はベルは卒業パーティよ』って言っても聞かなくて、ここに来ちゃったの……」
お母さんは申し訳なさそうに肩を落としているが、私には聞き捨てならないワードが聞こえてきた。
「え、お父さん!?お父さん生きてるの!?」
お父さんは、小さい頃に亡くなったはずじゃあ……?
「え?言ったでしょ?『お父さんは、あの星からベルを見守ってるよ』って」
「ちょっと待て、リン!それ、俺死んでるぞ!?」
「あらぁ?でも間違ってないでしょ、リング?」
「間違ってはないけどな……」
壮年の男性は、お母さんの言葉を聞いて、ぎょっとしたようにこちらを振り向く。
「……お父さん?」
「おう?長いこと会ってなかったけど、やっぱり面影があるなぁ。お前のお父さんのリングだ」
壮年の男性——お父さんは、そう言ってニカッと笑う。その表情は、どこか鏡で見た自分を感じさせるものがある。
「すまんな。ペトロクニカ星の内乱を治めるのに手間取っちまった。だが、ようやく戻ってこれたな」
——なんか、お父さん、星の争いを解決してる。
驚きやら安心感やら泣きそうやら、いろんな感情でごちゃまぜになっていて、どう反応したらいいのか分からない。
けど。
「なんで……?」
「ん?」
「なんで、私とお母さんを残して行っちゃったの?」
どうしても納得いかないことをお父さんにぶつける。
お父さんがいなくて苦労したことは少なくない。
それにそんなに長い間、お母さんを置いてきぼりにしたのも許せない。
しかし、お父さんは、思いもよらない一言を発する。
「そりゃあ、ベル。お前がお願いしたからな。覚えてないか?そいつ。お前の旦那」
「へ?」
私は、お父さんの指さす方向を見る。そこには、さっき背に庇ってくれた物凄く好みの青年の姿が。
——えっ、こんなかっこいい人が、私の結婚相手?え、夢?
「おい、ベル、固まってるけど大丈夫かな」
「あれは好みの相手を見つけたときのあなたの反応と一緒ですよ、見守ってましょう」
青年は私に向き直ると、膝をつき、私の手を取る。
「私はペトロクニカ星のルートヴィヒと言います。私と結婚してくださいますか?」
「え、あ、はい」
私のあたふたとした返答に青年——ルートヴィヒは笑顔を返す。
「それでは、これからよろしくお願いします」
「あ、いや、今のは——」
「嫌ですか?」
そう言って顔を一層近づけてくるルートヴィヒに私はアワアワとしてしまう。
「え、あ、いや、嫌じゃないです、本当に!顔、タイプです!」
あたふたした私は、余計なことまで漏らしてしまう。
しかし、ルートヴィヒは嬉しそうに笑った。
「顔がタイプですか、それは嬉しいです。私もあなたが好みですから」
「あわわっわわわあわあわfwfくぁえ」
私は、キャパがオーバーして言葉にならない声を漏らしてしまった。
そんな様子を見ていたお父さんは、そのまま男性陣に向き直る。表情は、よく見えないが、すごく怖そうなオーラを放っている。正面にいる男性陣とニーラ嬢は顔が真っ青を通り越して真っ白になっている。
「おう、いつからこの国は、武力こそ正義の蛮族の国になったんだ?」
そう言ったお父さんに、男性陣は反論する。
「そ、そんなことない!私たちの国は、きちんと王と法の元統治されている!」
「……法が何なのかわかってねぇ、こんなやつらが次の王とか、俺は任せられねえな」
そう言ってニヒルに笑うお父さん。
「ふ、不敬だぞ!それに、王位継承権を持つ者で、適齢の者は俺一人しかいないんだ!」
そう言って、震えながらもお父さんを見返すアルフレッド王子。
しかし、お父さんは首を傾げた。そして、こちらの方へと視線を向ける。
「あれ、あともう一人いなかったっけな……リン?」
「もう一人……?あぁ、ミズリンド王女でしたら貴方がいなくなってからしばらくして亡くなりましたわ」
「……そうなのか?」
そう言って、さらにこちらの方をじっと見てくるお父さん。しかし、すぐにぼやくように大声で言った。
「あの王女が存命だったら、俺が後ろ盾につくのにな……」
お父さんの口ぶりはどこか、確信めいた口調で誰かを呼んでいるようにも聞こえる。
私の隣にいたミザリーが、少し体を震わせている。
私は、どこか調子が悪いのかと、ミザリーに声を掛けようとした。
その時。
「……母を守ってくださりますか?」
ミザリーが口を開く。
父は、その返答を待っていましたというように笑って返した。
「当然。俺の全力を以て守ろう」
お父さんがそう言うと、ミザリーは、一歩、二歩と前に出る。
「私は、ミズリンド王女。今まで身分を偽っていましたが、アルフレッドの双子の姉にして王位継承権一位の持ち主です」
ミザリーがそう言うと、辺りがざわめく。
大体は、誰なのか分かっていない感じではあるが、それでも凄いことが起こっていることが分かるらしい。
「皆様、この度は愚弟が皆様の晴れの舞台を汚してしまい、申し訳ありませんでした。すみませんが、子爵、この者たちを連れ出すのを手伝ってはいただけませんか?」
「あぁ、勿論。」
「私たちは、ここで退場いたしますので、残った皆さまは、パーティをお楽しみください」
そう言って、堂々とパーティ会場を後にするミザリー、いや、ミズリンド王女と、お父さん。お父さんは、先ほどまで騒ぎを起こしていた人たちをみんな無力化して、運び出していってしまった。
お母さんは私に「パーティ、楽しんでね~」と言って、お父さんと一緒に行ってしまった。
辺りは、少し良く分からない静寂に包まれた。
——それから。
ミズリンド王女、もとい、ミザリー(本人から、ミザリーでいいと言われた)は、自身の死亡説を否定。そのまま王太子に即位してしまった。
王子は、王位継承権の剥奪こそなかったものの、城で幽閉されているらしい。
当然、私に詰め寄ってきた男性陣や、ニーラ嬢なんかも、処罰されたらしい。
勘当だったり、次期当主の座の剥奪だったり。
今は、ミザリーの婚約者、つまり、王配を探しているそうだ。
お見合いするたびに愚痴だったりを聞かされたが、最近はのろけが多い。
ミザリーにもいろいろあったらしいが、まぁ、今が楽しそうで何よりである。
私は、というと。
「ベル、おいしい?」
「お、美味しいから!自分で食べれる!」
ルートヴィヒに餌付けをされていた。
ルートヴィヒ、なんと、ペトロクニカ星を治める皇帝の一族で、次期皇帝らしい。
それが、小さい頃、クーデターに遭い、命からがらこの星まで逃げてきたところ、お父さんに保護された。
そしてそれを、幼い私が射止めた、らしい。
『わたしね、大きくなったらおーじさまとけっこんする!!』
そんな約束をルートヴィヒと交わし、そんな私の願いをかなえるため、父はルートヴィヒと一緒にペトロクニカ星に帰還。
見事にクーデターを治め、ルートヴィヒは皇太子に返り咲いたらしい。
話の全貌を聞かされた私は、今までうっかり忘れていた事実に絶望する。
そんな私をルートヴィヒは慰める。
「はは、仕方ないさ。その時、君は4~5歳だったし。私だってその頃の事はもう覚えてないよ」
そう言って、キスを落としてくるルートヴィヒに、いつもタジタジになってしまう私。
いつか、慣れる日が来るのだろうか。
——自信、ないなぁ……。
この小説を最後まで読んでくださりありがとうございました!
面白かったらぜひ、評価をお願いします!
皆様の読書人生に、幸在らんことを!