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恐怖小話  作者: 菅原一月
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持って帰ってきた茄子

薄緑にたっぷりの土。

薄紫の花が咲いている。


「重たいなぁ」

そのナスのプランターの重さは、息子の妊娠中の臨月の時の自分を彷彿させた。

「枯れたらプランターだけ、学校に持ってきてくださいね」

小3の息子の担任の先生に笑顔で言われながら、車のシートを調整して、ナスの苗がすくすく育ったプランターを運び込む。


一学期の終業式の前の面談後のことだ。


一学期は色々あった。

漢字に躓き、学力が散々だった息子。

お友達を遊具から突き飛ばし、骨折させてしまった息子。必死に頭を下げながらお金を握らせて許してもらった。


車から運び出すナスのプランターの重みより、この子育ての重みはずっしりとくる。


かんかん照りの日。

ナスの苗はすぐへたり、息子に水やりをしてもらった。

ナスの実はみるみるうちに育っていった。

水と太陽光だけで。


暑い日。

息子にアイスを食べさせながら、買い物から帰宅した。

冷蔵庫に牛乳をいれながら、お米が高くなったと思う。


「そうだ。夏彦。ナスに水あげてきて」

ナスの葉っぱが元気がないのを思い出し、水あげをお願いした。


そういえば、近所の安いスーパーでは息子が骨折させた息子さんのお母さんが働いており、気まずくていけなくなった。


「ただいまぁ」

夏彦の声がして、後ろを振り向くと、そこには紫のつるんとした肌の夏彦みたいな身長の人らしい異形がいた。


さぁーっと汗がひく。

「な.....夏彦」


「ママどうしたの?」

服の裾を紫の手でひっぱられる。


何故、夏彦がナスになっているの?

私頭おかしくなっちゃった?


「......夏彦に水をあげてきて?」


夏彦に水をあげたナスは、どんどん夏彦に似てきた。指は5本で服まできて。目鼻立ち、仕草まで夏彦だった。


「ママ、どうしたんだ」

主人に、顔色が悪いのを指摘される。


「夏彦、急に漢字が得意になったな」

一時期、塾まで検討した夏彦は、立派に勉学をこなしている。

そう、夏彦は立派に実っているのだ。


日光浴させるために、野球を習わせて、水を沢山やった。

夏彦は友達も増え、学力の伸びも著しい。


ナスの苗は枯れたが、私はプランターを返せない。

夏彦の黒い瞳は、時折濃い紫に光る。

夏彦はどこにもいない。


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