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火玉の雨が降り注ぐ夜

 一系の皇家の統治下で弐阡年余りの安寧を貪ってきた皇国。未来永劫に続くはずの平和が一夜にしてあっけなく終わりを告げた。

 夜空が寝静まった武士町をすっぽりと包み込んだ頃。打ち上げ花火のように開く焼夷弾が沢山の火の玉になって町全体に降り注ぐ。戦争の二文字すら知らぬ国が防衛措置を取るはずもなく、瞬く間に業火に舐め尽くされたのは、最早運命だと言えるであろう。


 最初に爆撃を受けた武士町へと駆け寄るも、既に火の海に飲み込まれた光景に絶望に打ちひしがれる。剰え今は丑の刻だ。多くの武士とその家族が脱出もできぬまま焼死するであろう。今この時間に起きている武士なんざ果たして何人いるだろうか。

 いや、その答えはもう分り切っている。精々夜番の見回りくらいだろう。

 主要武力を担う武士達の住む町が全滅した今、誰が皇国民(どうほう)を、皇国(そこく)を守るというんだ。


 遠くの方から聞こえる馴染まぬ銃声と、守るべき皇国民の断末魔に悔恨が湧き、奥歯を噛み締める。

 冗談にも程がある。つい先日までこの町へ訪れたのがまるで泡沫の夢のようだ。敗戦の灰塵が音も無く激しく、無数に舞い落ちて颯京の町々に降り積もる。

 これ程までに己の非力さや無力さに呪った日はあるだろうか。どれだけ人々に褒め称えられても天才だと崇められても、所詮只人。銃を突き付けられたらあの世行きだ。


「必ずや――祖国を取り戻そうぞ!」


 両の眼に闘志を燃やしながら脳裏に焼き付くように、魂に刻み込むように一瞬たりとも逸らさぬ。

 一世一代の忠義を貫くためにも。

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