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 パチン、と音が鳴った。叩かれた音だ。


「最低!」


 そう言って女の子は去っていった。彼女とは何度か寝たのだが、もう名前も覚えていない。我ながら酷いなとは思うものの、それが自分の日常になっていた。


 ズキズキと痛む頬を押さえながら屋上を後にする。女なんていくらでもいるし、とこぼしながら。それがただの強がりであることは自分が一番わかっていた。


 天草祈はイケメンだ。自分で言うのもなんだが有名アイドルよりもカッコイイ自負があった。

 

 さらさらとしたブロンドの髪にサファイアを彷彿とさせる青い目。それを覆う長いまつ毛。日本人離れした鼻に薄ピンクの唇。透けるような乳白色の肌は加工後のように美しい。それらが絶妙なバランスをとって顔を形成していた。180cmほどある身長はが程よく筋肉がついており、腹筋は彼女たちのお気に入りだ。手足もすらっと伸びている。


 自分の顔が良いことに気づいたのは小学校6年生の時だ。それまでも毎日のように告白されていたのだが、夏休みの終わりに強姦にあった。自分の学校の先生だ。行為中、何度もあなたが可愛いのが悪いのよと言われたが、そんなわけはない。結局その先生は首になりこの事件が公になることはなかった。その時に現実は無情などだと知った。


 そして中学生になる頃にはいわゆる「ヤリチン」になっていた。告白されるたびに行為をし、そして振られる。あんたは最低なやつだと。理由はもちろんわかっている。自分の誠実性のなさだ。思いやりがないとも言うのだろうか。


 好きでもないのに告白を受諾し、こちらが愛を囁かないと女性たちは激怒する。それを学んでからは嘘の好意を相手に押し付けることにした。しかしそれは結局薄っぺらく、すぐにバレてしまうのだが。


 今回叩かれたのも自業自得で、浮気したからだ。正確には俺はセフレだと思っていたのに相手は付き合っていると誤解したからだろう。最近は叩かれることが少なくなってきたが、まだまだだったようだ。


 ぼーっと考えながら階段を降りる。放課後なので部活動をしている運動部の男子とすれ違う。すれ違いざまにドン、と肩をぶつけられる。俺はこの学校で男子には嫌われている。よくない噂が回っているからだろう。しかもそれのほとんどが事実だから困る。


 はーっとため息をつく。友達なんていたことがない。それが自分のせいなのはよくわかるが、それが受け入れられるかはまた別の問題だった。


 教室に入る。高校一年生の場所は2階にあるので屋上まで行くのは億劫だ。しかし誰もいないので一人になりたい時はよく行っていた。

 

 自分の指定鞄を持って教室を出ようとしたところ。不思議な手紙が机の中に入っていた。差出人も書いておらず、ラブレター、とだけ表に書いてある。しかし長い封筒に入れてありとてもそうは思えない。


 恐る恐る中を開いてみると、そこにはこう書いてあった。「六月十六日。午後五時。屋上で待つ」

 そう書かれてあった。


「いやいやいや、果たし状かよ……」


 最初はいじめの前兆か、とも思ったがそれはないだろう。経験上そういう場合は女を使う。それじゃあ本当にラブレターなのかと言われると疑問が残る。


 悩んだ末に行くことにした。理由は字が綺麗だったからだ。美しい字は好きだ。パソコンのように均等な文章ではなかったが、何故か女だとわかる文体だった。


 日付は今日。あと15分程したら時間だ。それまで本でも読んでいようと思い机に座る。本を読んで少ししたら、もう10分経っていた。本は羊や鼠が出てくるのだが、次はいわしが出てきて驚いた。そろそろかと思い屋上に行くことにした。


 屋上に着くと一人の女が待っていた。しかも俺が知っている女だから驚く。


 彼女の名前は一橋楓。この学校一の美女だ。俺と同じ高校一年生でいいところのお嬢様だ。


 夜を纏ったような黒髪に、髪の毛一本一本が独立しているかのようなロングヘア。目はすったばかりの墨のようであり、ふわふわとしたまつ毛が墨を守っている。肌は反射したガラスのように真っ白だ。整った鼻は全体のバランスが考えられており、神様が作った人形のように美しかった。


 何度も彼女とすれ違ったことはあるが、会うたびにため息をつきそうになる。それは学校中のすべての人間もだろう。しかしそれ以上に汚してはならないという気がしてあまり近づこうと思わなかった。


「こんばんは」


 そう彼女が言うのでこちらも答える。


「ああえっと……こんばんは」


「早速だけど、あなたにお願いがあるの」


 そう言って近づいてくる。キスできそうなまで近づき、一言俺にささやいた。


「私の処女をもらって欲しいの」

 

 頭が思考停止した。ほぼ初対面の人に言うことではないだろう。しかし女慣れした口は簡単に動いた。


「ダメだよ、そんな簡単に体を許しちゃ。もっとよく考えて……」


「建前はいいから」


 そうズバっと言われた。本音をこんなに早く見抜かれたのは初めてだ。何を言おうか迷っていると彼女が追い討ちをかけてきた。


「天草祈。学校一のイケメンで好色男。色々と黒い噂も知ってる。それでもあなたがいいの。お願いだから処女を貰って?簡単でしょ?」


 そう捲し立てる彼女はすごく男らしかった。正直、こんな美少女を抱けることに魅力を感じないわけではない。しかし、それでは今までと一緒だ。俺は愛が知りたい。だから断ろう。そう思っていたがーー。


「わかった」


 気がついたらそう頷いていた。人はそう簡単には変わらないらしい。


「そう。よかった」


 そう微笑む彼女は美しかった。

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