分岐ー1(3)『桃華先輩の仔犬愛』※千堂目線
「可愛いでしょ~♥️ 千堂くんがあまりにも可愛いから紅いの、買っちゃった~」
後ろから、桃華先輩が僕の肩に手を置く。
ビクっと身体が跳ねた。
「私ねぇ~、昔っから可愛い仔犬が欲しかったのよ~。でもね、マンションじゃ飼えないって言われて──」
それから延々、桃華先輩の仔犬愛が独白されていく。
戸建ての家が妬ましいとか、誰だれが飼い犬を自慢して悔しかったとか……
「──私はねぇ、仔犬が飼えないなら、仔犬じゃないものを飼えば良いと思ったの。でもねぇ~、良い子が居ないのよ~」
桃華先輩の両の腕が僕を抱く。
「──私に告白してくる駄犬はいっぱい居たけどね~、やっぱり駄犬は駄犬。主人が誰なのか分かってない屑犬ばかり……」
耳許の桃華先輩の唇から甘やかな調べが奏でられ、戦慄とも寒気とも分からない、僕の背すじがぞわぞわと顫動に支配されている。
「──私は待ってたの……。千堂くん、あなたのような可愛くて忠実な子を」
僕はごくりと、唾を飲んだ。
たっぷりと桃華先輩が間を取る。
恐る恐る、首をねじり先輩に視線を向ける。
そこには、見たこともない蕩けて恍惚とした先輩の表情が間近にあった……。
ああ、そんな顔を見せてくれる先輩が堪らなく素敵だった。
僕だけに見せる、見せてくれるなら……。
「──私が着けてあげる♥️」
「ありがとう、ございます」
取る手を止められ、首輪が先輩に渡った。
満面の笑みを湛え、ご主人様は僕に首輪を着けた。
〔完〕