(2)贈り物
放課後、戦々恐々と生徒会室へ。
「失礼します」
「待っていたわよ、千堂くん」
生徒会長・久遠桃華先輩のみならず、生徒会の面々が出迎えてくれる。
並べられた長机に皆さん着席している。
「はじめまして、千堂つむぐ、です。なぜか、久遠会長に喚ばれて来ました」
「ああ、生徒会の皆には言ってあるけど、千堂くんは私の秘書、みたいなものをお願いしたいの。まあ、雑用係ね?」
「はあ、雑用ですか?」
「何? 文句あるって言うの?」
「いえ……」
「まあまあ、会長。千堂くん、いろいろ生徒会も雑務が多くてね? 皆で手分けして対処していたんだよ──」
副会長の三年、上原ゆうき先輩が補足する。さばさばした女子で話し方もそれなりの人だ。
「──と言う訳で、会長の厄介ごとを君にお願いしたいワケだよ」
「ゆうき、私の、ってことないでしょう?」
「まあまあ、言葉の綾ですよ、会長。──」
取りなすのは、会計の二年生の大葉さつきさん。
「──千堂くん、生徒会には五つの役職があるのだけれど庶務が空席なのよ。それを千堂くんにお願いしたい、ってだけなの」
「そういうことよ。副会長は話が迂遠なの」
そう言う会長も遠回しでしたよ、と上原ゆうき先輩が桃華先輩に突っ込んでいる。
「でも実質、会長の小間使いですよね~?」
「うるさいわよ、春日井書記」
書記を務めるのは、二年生の春日井はるか先輩。
こうして見ると女性率高いな~なんて考えてたら。
「千堂くんが、生徒会に来てくれたら男のメンバーができて助かるよ~」
「はあ、そうでしょうか?」
「女ばかりだと、男子の反発があってね。だったら男も入れ、ってもんだけど誰も厄介ごとは引き受けないだろ、男子は?」
「はぁ……」
これは、男子を代表して責められているんだろうか?
「だから、君に男子たちを黙らせて欲しいんだ」
「そんな……僕なんかには無理ですよ」
「大丈夫、大丈夫。生徒会には強権があるんだ。女子だと見下して言うことを聞かなくて、男子は」
「僕、まだ一年だし、先輩がたに言うことを聞かせられるとは思えません」
「大丈夫、大丈夫──」
生徒会の皆さんに説得を繰り返され、なし崩しに庶務を引き受けてしまった。
女子の上級生の囲まれて反論できる男子はいない。
まあ、そうしないと会長・桃華先輩との恋人関係が持続できないなら致し方ない。かな?
ちらっと見た桃華先輩は満足そうだった。
「そうじゃない」
「す、すみません」
早速、生徒会の業務、と言うより邪魔をしている。
「まあまあ、会長。千堂くん、ゆっくりでいい確実にやってくれよ」
「はい、上原副会長」
「ダメよ、ゆうき。最初が肝心。ビシビシやらないと」
「はっはっはー、そうやって今まで壊して来たでしょう。ほどほどでお願いしますよ?」
「これくらいで壊れるなら壊れればいい」
「おっと、極論ですねぇ。千堂くん、会長の無茶は聞かなくていいからね?」
「は、はぁ? 頑張ります」
僕の前途は多難のよう。
「僕たちは帰るけど……まだ残るのかい?」
上原副会長が桃華先輩に問う。
「ええ、私は千堂くんに教え込まないといけない事があるから」
「分かったよ」
「会長、お手柔らかにお願いしますよ。また、辞められると困りますから……」
会計の大葉先輩が注意してくれる。
「そうですよ。千堂くん、会長が無茶を言っても聞かなくて良いですからね」
書記・春日井先輩も援護してくれる。
「は、はあ」
「ダメよ。最初が肝心なんだから」
「いえ、そこで皆、挫折してしまうんです。自重してくださいよ」
「じゃあね」
「あと、お願いします。さようなら」
「さようなら~」
「お疲れ様でした。上原先輩、大葉先輩、春日井先輩」
皆、帰ってしまった……。
これから先輩と二人きり……。
否応なしに緊張が高まる。
「千堂くん」
「ひゃ、ひゃい!」
「こちらへ……」
桃華先輩は、スクールバッグから四角い箱を取り出していた。
「それは?」
「約束どおり生徒会に来てくれたお礼よ」
「はあ……ありがとうございます?」
「そうそう」と言って桃華先輩は、ドアへ行き内鍵をかける。
僕は、渡された箱を見る。
黒い飾りけの無い一辺一五センチくらいの四角い箱だ。重くもなく、深さも無い。
長い間、使われたように中央がへこみ、角が擦れて剥げ地肌が見えている。
でも、なにか重厚なものを感じる。
「さあ、開けて」と桃華先輩がほほ笑んで勧める。
「は、はい」
長テーブルに置いて徐に箱を開ける。
僕はフタを持ったまま、固まった。
「これは?」
中には、紅い首輪が入っていた……。