白澤の夢
――また今世も、混沌とした治世のようだ。
白澤は目を覚ました。
そして、時代の空気を感じて瞬間的にそう悟った。
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彼の役割は、<この世>での人間のストレス……人間関係での摩擦や抵抗といったものをなくしていくこと。
東洋思想風に言えば、老子や孔子といった高名な思想家が理想とした世界や治世の実現を、お手伝いする存在……といったものか。
人間が勝手に決めたルールや常識、階層や上下関係。そういった「迷信」「妄想」を打ち破っていくことが仕事でもある。
人間とは、人間関係とは、とても奇妙で奇抜な習性をもつ。白澤は長年彼らを見てそう思ってきた。
だが、その人間たちの習性を利用して、一見「悪」な存在に手を貸したこともある。そのおかげで人間全体の意識が底上げされたのだが、そういうことを人間側では誰も知らない。
人間自身、長い期間長い目で、彼ら自身を見つめたり評価することができない。出来ないというよりも、そういう事ができる知性というのは、なかなか育たないものだからだ。
育とうとしても、その地域の習慣や宗教観、関係性などに染まってしまい、色眼鏡をかけてしまう。そしてそれが外れず、人はその知性を偏らせてしまう。地域性、時代性、偏見などに。
まあ、そうはいっても、別に白澤自体は気にしていない。彼がやりたいことをやるだけだ。
古代の中国で、彼は「瑞獣」とされ、徳のある為政者の前には姿を表すなんて伝説が作られた。
ある意味正しいのだが、ある意味間違っている。
彼はいつでも「ここ」にいるし、誰にでも姿をあらわす用意があるし、誰にでも手を貸す。
ただ、人間がそれに気づいていないだけ。彼の、白澤の手を取る用意がないだけ。
神獣だの瑞獣だの、龍だの麒麟だの鳳凰だの神だの仏だのという「素晴らしい」「目に見えない」「人を超越した」存在に、自分は近づいていけないとか、変な思い込みをしている人間はたくさんいる。
そういったことも、全て人間の勘違いだ。
――早く、今世はその勘違いから目を覚ますといいよね。
そう白澤はつぶやくと、今日も特に悲観することも呆れることもなく、淡々と自分がやると意図したことを、やりたいように動いていく。
<終>