レポート55:「畑と宇宙」
「畑と宇宙」
俺たちは再び町にあるホームセンターに来ていた。
ここには多くの種が存在している。
何で種なのかというと……。
「どれぐらいの速度で育つのかを確認するには種の頃が一番わかりやすいですからね」
という葵ちゃんの意見からだ。
あと……。
「種の方が被害が少なくて、一袋あたりの量も多いですから。苗は枯れると……」
「ああ、確かにそうだよな」
種は一袋にびっくりするほど入っているが、苗は一つだけだ。
まあ、種が全部育つかというと違うんだろうが、俺たちが苗の方は購入したことも目立つだろうしな。
そういう意味でも種を買う方がいいといわれた。
確かに手に収まる程度の大きさの袋を10個買うだけのことだしな。
「一度成功すれば、あとは出来た作物から種をとるだけでいいですから」
「あー、それで完結できるのか」
確かに作物から種を取って植えるとかいうのは、子供の頃は一度はやったな。
スイカを食べた後、スイカの種を植えてスイカを増やそうとか馬鹿なことを考えていた。
実際芽は出るんだが、実が育ち切る前にカラスとか虫に食われてボロボロになるんだよな。
農業の現実は甘くないということを知った。
しかし、葵ちゃんがいればできるという安心感もある。
これが農業経験者ということか。
「とりあえず一通り種は取ったけど、あとはどうするんだ? 何かほかに必要な道具とかあるか?」
「んー。一応土を耕す用の道具を買っておきましょうか」
「え? 畑を耕す道具はあるけど?」
既に俺たちはクワで畑を耕しているので、その手の道具はあるのだが?
「いえ。まずはプランターとか小さな作り方するはずですから、小さいスコップとかそういうのです。どうでしょうか?」
「そういうことか。いいと思う。というか、そういうことなら花の種とかも買ってみてもいいんじゃないか?」
「あ、それはいいと思います。野菜とかはリスクが高いですからね。まずはお花とかで様子を見てみましょう。えーと、これ」
そう言って葵ちゃんが取り出したのはアサガオの種だ。
「早く育つと言えばこれですね」
「随分懐かしいものが出てきたな」
アサガオの日記。
小学生の夏休みの宿題で定番のモノだよな。
「今でもアサガオの日記とか付けるのか?」
「さあ、もう私も高校ですし」
「そういえばそうだよな」
「でも、こうして売ってるってことはそうなんじゃないですか?」
「そうだな」
とまあ、俺たちは少し懐かしい気持ちになりつつ、園芸用の小さめの道具を買って家に戻った。
家に帰ると当然のように誰もおらず、俺たちは早速荷物をもったまま、家の中にあるワープポイントへとたち、宇宙船に連絡を取ると俺たちは一瞬にして、宇宙船に到着する。
そのまま拠点の方へワープはしないようになっている。
安全確認のためだ。
俺たちは一旦ワープ機械から出て、拠点にいるであろう椿たちに連絡を取ってみる。
「もしもし、今誰か返事できるか?」
『はい、こちら椿です』
「今宇宙船に戻ったんだけど、そちら、拠点にワープしても問題ないか?」
『はい、問題はありません。どうぞ』
椿の返事を受けて、俺たちは再びワープ装置に乗り込んで、ようやく拠点に転移する。
「お帰りなさい」
そう言って出迎えてくれたのは、返事をしてくれた椿だった。
「ただいま」
「ただいま戻りました」
「お買い物持ちますね」
そう言って、椿に軽い荷物を渡す。
「それで、セージとカカリアは?」
「2人はいま、培養室の準備をしていますよ」
「ばいようしつですか?」
「はい、こちらに」
案内をしつつ、椿が培養室の説明をしてくれる。
「培養室というとちょっと科学的側面が強すぎますね。葵ちゃんにわかりやすいように言うとビニールハウスですね」
「ああ、なるほど。それで大きさは?」
「それは相談したんですが、とりあえず大きすぎても生き渡らないだろうということで、25メートルプールぐらいの大きさに抑えてあります」
「それってどうなんだ? 十分に大きい気もするし、小さいような気もする」
ビニールハウスどころか畑をまともに作ったこともない俺にとってはよくわからないが、葵ちゃんは……。
「うーん、出荷するっていうなら全然ですけど。実験もありますし収穫速度が物凄いですからね。それを考えると大きすぎる気もします」
あー、そうか。
成長促進を使うから小一時間で作物ができるから、収穫速度は通常とは比べ物にならないだろう。
だから面積に対しての収穫量は劣っていても、期間収穫量は圧倒的に上になるわけだ。
簡単に言うと面積だと1つしか収穫できないが、期間収穫量は30日で1と30日で30だと実に30倍ということになる。
そんなことを話していると、畑の一面に確かにビニールハウスのような建物が経っているのが見えてきた。
「あれが成長促進ハウスです。外壁は強化透過セラミックで劣化はかなり遅いです。耐久度はメーカーからだと凡そ300年。そして外が曇りの時も人口太陽を照らすことでカバーができます。もちろんハウスの中の温度管理もできます」
うん、説明聞いているだけでとんでもないな。
中に入るとさらにとんでもない光景が広がっていた。
確かに25メートルプールぐらいの広さはあるのだろうが、区画が4つに区切られている。
だが、透明の強化セラミックのおかげで閉塞感は無い。
「あの、区切りはなんですか?」
「はい。4つに区切って四季に応じて作物を育てられるようにしています。分ける必要がなければボタン一つで収納も可能です」
椿はそう言ってボタンを押すと区切りの壁が自動的に動いて撤去されていく。
「すげー」
「ふえー」
いまだに宇宙の技術には驚きを隠せない。
「えーと、シャッターを自動で閉じるのと変わらないと思うのですか?」
「まあ、そうなんだけど。それをこうして農業に利用しているのは驚きだ」
「うん。驚きです。でも、あったら便利だなって思いました」
「確かにな。これは便利だよな」
区域を任意でわけて、季節ごとの調整ができるとか。
「それで、あとは目の前に置いている物ですが、葵ちゃんはわかりますか?」
なぜか椿は説明せず、葵ちゃんに質問してきた。
俺にはなぜか水槽のようなものがあるようにしか見えない。
だが、葵ちゃんは分かるようで口を開き……。
「水耕栽培ですよね?」
「はい。その通りです。基本的に培養システムは液体で行うので、土よりもこちらの方がやりやすくはあるんです。と、すいません。裕也さんは水耕栽培は分かりますか?」
「なんとなく。土を使わない水だけで育てるやつだろう?」
「うん。そうですよ。まあわかりやすいのはもやしとか豆苗ですかね」
「ああ、それは分かる」
奥さんたちがキッチンで育てて、切ってまた使うってやつだ。
「土でも促成用の液体とかを使えば行けるのですが、水でも大丈夫なので、どちらも試してもらえればと思います」
「そういうことか。葵ちゃん、やっぱり水耕栽培と土壌で味って変わるのか?」
「変わります。まあ、どちらが美味しいとかはやはり育てる腕次第ですけど」
そりゃそうか。
どちらが美味しいの前に育てられなければ意味もないしな。
そんなことを考えていると、ハウスの端にある小部屋みたいなところから、セージとカカリアが出てきた。
「あら、帰ってきてたのね」
「お帰り~」
「おう、ただいま。すごいのができたな」
「はい。これなら頑張れそうです」
「そう、それはよかったわ。じゃ、細かい説明を始めるからこっちに来てくれない」
「だね。大まかな説明は椿に聞いたんでしょ?」
「ええ。もう終わりましたから、あとは2人から詳しく話をきいてください」
ということで、椿からセージとカカリアにバトンタッチされて、俺たちへのビニールハウス?説明は続いていくのだった。
いやー、しかし全部覚えられるか?
まあ、なるようになるか。




