レポート54:「宇宙の技術はやはりすごい」
「宇宙の技術はやはりすごい」
午前中は葵ちゃんのおじいさん、道郷さんから畑についてのレクチャーを受けてきた。
気合とか、勘とか言われるかと思ったが。
「改めて見てすごいわね。このノート」
セージは関心した様子でちょっと古くなっているノートに視線を向けている。
「道郷さんが畑仕事について書いたってやつだよね? そんなにすごいの?」
「ええ。どんな肥料をやって、どんな結果になったとか、その年の降水量とか、日照時間とか事細かに書かれているわ。畑に行ったときにやけに具体的に説明していたけど、こういうちゃんとした計測と記録の経験があったからね。でも、これを読んでよかったのかしら? これって、小野田家の家宝ってものじゃないの?」
確かに、小野田家がまとめた農法を記されているノートは彼らが生きていくための方法だ。
それを俺たちに簡単に貸し出してくれたのは驚きの一言だが……。
「別にいいですよ。よその土地で上手く行くわけないし。参考程度にってやつです。というか、おじいちゃんから畑を継ぎたいならこのぐらいのノートは簡単に読みこんで実行して、野田さんちの畑を立派にしないと認めん!って言われちゃったし」
「あはは……。おじい様はちょっと厳しい方ですね」
「というか、道郷さんはそのノートを見る限りかなり勉強ができる人だろう」
「そうね。こんな記録を取って、実践しているんだし馬鹿とは思えないわ」
「あー、なんか勉強したかったけど、昔は学なんて必要ないってこととお金がなかったから大学は行ってないみたいです」
「なるほど。だから葵ちゃんにはもっと勉強してほしいと思っていたわけか」
自分にできなかったことを頑張ってほしい。
しかも、成績優秀ならなおのこと夢を見るだろうな。
下手をすると夢の押し付けとかになりかねないが、せめて大学に通わせたいって言うのは俺としてはギリギリありかな?
それで、畑をしたいって言うのなら仕方ないだろう。
「でも、私としては大学で勉強しても、畑の役に立つことがあるのかーっていう疑問はあるんですけどね」
「確かにな」
葵ちゃんの疑問もわかる。
大学で勉強したことがそのまま畑に役立てるかというと、余程なことがない限り直接的には影響しないだろう。
とはいえ……。
「大学に出たことで人の繋がりも広がるからな。果物の糖度を増やす方法とか、俺たちがさっきやったように良い畑の土の分析とかは基本として、出荷先を増やすとか。あとは自分の畑のモノを他所で栽培するとかで知名度の向上。ほかにも色々あったりする」
「あー、なんか聞いたことはあるような内容ですね。でも、あんまりピンとこないんですよね。うちは契約している会社とかもないですから。畑自体もそこまで大きくないし、あって個人料理屋とか、小さい旅館程度ですから」
「それをどう発展させるか。っていうのを模索するのも大学で勉強しないと選べないからな。いや、絶対ってわけじゃないが、そういう選択を増やすためにも勉強ができる大学がいいってことさ」
「うーん。別に収入を増やそうとか、新しい野菜を作ろうとかっていうのは考えてないんですけど……」
「なら、より畑仕事が楽になる道具の開発とかでもいいと思うぞ。農作具でもいいし機械でもいい。あとはドローンを使ったとか別の方法とかもな」
「そういう方向もあるんですね~。確かにそういうのは考えてなかったな~」
「ま、俺が勝手に言っているだけだ。葵ちゃんの視点だからこそ見えてくることもあるだろう。そのためにも勉強というか、働く前の時間を作ってほしいって所だろうな。働き始めると、ほかのことを考えている余裕は意外とないからな」
人っていうのはその日を暮らしていくために精一杯になりがちだ。
自由にできる時間が多い学生という立場が一番いいわけだ。
「と、おじさんのお説教はこれまでだな。で、畑の土と日記を預かってきたんだが、どうするんだ?」
「そうね~。道郷さんの条件を考えると、家の畑も立派にしないと合格はもらえないでしょうし、そっちもやっておかないとだめね。魔術の研究もあるし……分担するべきかしら?」
「分担すると、葵ちゃんは畑に従事することになるし、魔術の習得が遅れないか? というか畑の知識は葵ちゃんだけじゃだめだしな。俺たちも覚える必要はあるだろう?」
「確かにそうですね。そうなるとバランスよくという感じでしょうか? 葵ちゃん、畑の予定とかはどうするつもりですか?」
「畑の方は一年で劇的に変わったりしません。とりあえず今年は試すだけです。来年に土壌の改良してまた作ってみるってところですね。そして3年目に大きく作ってみるって所かな? これでも早いぐらいですけど」
「それなら、異世界の拠点で働く時間が多いし、向こうの土壌で多く作ってみるっていうのはどう?」
「多くっていうのはどういうことですか?」
「育成を早くする技術があるんだよ」
「「え?」」
俺も初耳のことで葵ちゃんと一緒に驚く。
「いやいや、僕たちの体どうやってここまでにしたと思うんだよ。確かにアンドロイドではあるけどさ、生体アンドロイドだからちゃんと細胞から作っているんだよ。つまりそういう技術はあるってのに気が付かない?」
「そういえば、そうだな」
「確かに」
目の前の3人の美女は俺が考えたデータを斎藤さんに渡して作ってもらったものだ。
機械ではない子供も産める。生体人形というのは失礼だな。
立派な生命体として権利も認められているアンドロイドたちだ。
「つまり、成長を早くして色々野菜を作れるってことか?」
「そういうこと」
「すっごいです! あ、でも環境の変化とかどうしたらいいんだろう?」
「環境の変化?」
「はい。夏の野菜でいうと、暑い季節に収穫するのであって苗や種を植えるのはそこまで暑くない5月とかですからね。そういう期間の管理とかどうなるのかなって」
「ああ、そういうことか。でも、ビニールハウスって基本的一定の気温で育ててないか?」
「細かいところは違うんですよ。でも、実際ビニールハウスのような感じになるんですか?」
「えーっと……セージどうなの?」
「そこまで話しておいて私にふる? まあいいけど。そうね、育成促進の施設はビニールハウスのようなものというのは違うわね。特殊な培養液、つまり栄養素を送り込むことで成長を促すわ」
「つまり、味に変化が出るということですね?」
「一応、そういう影響がないように作られているわよ。そうでもないと、私たちの体も変なことが起きているはずだし」
確かにそうだな。
何かしら影響があるようなら、人体の細胞を作ることもできないだろう。
「とはいえ、野菜とか果物に関しては未知数ではあるけどね」
「やってみないとわからないってことですか。うーん、実際やるとどれぐらいでできるんですか?」
「そうですね。私たちの体は約2、3時間でできたので、野菜ならもっと短い時間でできると思いますよ」
「「早っ!?」」
いやいや、椿たちの体つきになるまでは10年後半も必要になるから、野菜ならもっと早いというのは分かるけど。
やっぱり驚きの一言だよな。
「元々、食べ物とかは複製機で作れるから、試したことなかったんだよね~。そういう研究の使い方は確かにできるし、やってたって記録もあるけど……」
「私たちはそこのデータを引っ張りだしましょう」
「そうですね。葵ちゃんと裕也さんはその間に拠点の畑の準備をして貰えればと思います。ああ、促成の場所は作っておきますので、育てたい野菜や果物などの選別と購入お願いできますか?」
ということで、俺と葵ちゃんは午後からはまた買い出しに出ることになったのであった。




