レポート53:「侮りがたし自動調理」
「侮りがたし自動調理」
俺たちが拠点に戻ったときにはすでに食堂として用意した部屋には、画面タッチ式の券売機が存在していた。
お金を入れいるところは存在しないのが救いか?
「おー、出来てるじゃん! ちゃんと物資は届いたんだね」
「ええ。届きましたので自動で仕分けして、電気がついているのが今料理できるものですね」
「小麦粉も買ってきてくれて助かったわ。パンも焼けるからね」
「「そこまで!?」」
小麦は確かに袋で5キロ買ってこいとか言われてたが、そこまでできるとは思ってなかった。
こねたり、叩いたり、発酵したりもするのか。
よくよく見ればパンコーナーと書かれたボタンがある。
おそらく種類がそれなりあるのだろう。
「とりあえず、試しもあるし、おやつでも頼んでみましょうか」
そう言ってセージはお菓子のコーナーを押すと、先ほど買って来たお菓子が表示された。
ああ、なるほどお菓子は買って来たものをそのまま提供する……ん?
「あれ? このクッキーとかケーキって買ってないですけど?」
「それは材料の牛乳とか、バターもあったしできるみたいよ」
「「すげー」」
味はどの程度かわからないが、そこまで作れる機械なのか。
なので、俺たちは通常の市販のお菓子とともに、ケーキを頼むことにした。
ケーキはイチゴを買っていなかったので、イチゴなしのショートケーキとクッキーだ。
ちなみにショートケーキにイチゴというのは日本だけのものらしい。
生クリームだけのケーキというのはどうだろうと思ったが……。
「美味しい!?」
「普通に美味いな」
俺と葵ちゃんは素直に美味しいと言えるレベルの味だった。
やはり宇宙の技術は侮れない。
ただのレシピでここまで美味しくなるとは。
いや、それってこのレシピを考案した人がすごいってことか?
「2人がほめているなら大丈夫だね。僕もいただきまーす」
「「いただきます」」
俺たちの反応を見たカカリアたちも安心してケーキに手を伸ばして……。
「「「おー」」」
と、素直にケーキの美味しさに驚いていた。
「美味しいね。ケーキって初めてだけど、こういう感じなんだ。いや~幸せ~」
「なるほどね~。これは依存性があるわ。糖分補給にもちょうどいいし」
「テレビやネットで特集が組まれるわけですね」
3人とも笑顔でケーキをぱくついているところを見ると、気に入っているようだが、葵ちゃんはその様子を見て固まりぎこちなくこちらに振り向いて……。
「裕也さん。もしかして椿さんたちにケーキ食べさせたことなかったんですか?」
「ん? ああ、バタバタしてたからな。基本的に家で食事だし」
「お休みの日とかは?」
「自由にしてたんだけど、そういえばそういう時に外出に誘った方がよかったな」
葵ちゃんの言いたいことが分かって申し訳なくなってきた。
だが、その話を横で聞いていた椿たちは。
「これから連れて行ってもらえればいいですよ。最初に連れていかれても困惑していたでしょうし」
「確かにそうね。今なら普通にできるとは思うけど、前は情報収集不足だったし」
「うんうん。葵も私たちを気遣ってくれてありがとね。今度さ、美味しいところ一緒に行こうよ。知ってるんでしょ?」
「うん。知ってるよ。みんなで行こう」
さりげなくフォローしてくれて、今度みんなでケーキ屋に行くことになった。
ん? 俺も?
そういうのは苦手というのは空気読めないよな。
とりあえず覚悟をしておこう。
そういうお店ってきっと女性だらけの喫茶店で居心地が悪そうなんだよな……。
いやいや、今その時のことを考えても仕方がない。
今はこれからのことを考えよう。
「ケーキのことは次の休みまでに決めるとして、これからの仕事を考えようか」
「そうですね。ケーキのことばかりに意識が行っては意味がありませんから。それでこれからというのは?」
「一応、今日の内に魔術の実験はやっただろう? 明日も同じように魔術の試験をするのか? それともほかのことをするのか?」
「あー、そういえば意外と魔術の習得は上手く行ったよね。その分ほかのことに時間が回せるってことか」
カカリアは納得したように、ケーキを食べながらつぶやく。
「そうねぇ。全員が全員同じように魔術の実験をする必要はないわね。私は魔術の研究と実験をしたいと思うけど、どうかしら裕也?」
「セージがやりたいならそれでいい。というか魔術はまだわからないことがあるからな。一日一時間ぐらいは時間を取って魔術の練習時間はいるかなと思っている」
「いいわね。色々やってみる時間はいると思うわ」
「私も賛成です」
「僕も」
「私もそれがいいと思います」
魔術の習得、練習時間を取るのは全会一致で賛成と。
「あとは、セージが魔術の研究実験。椿とカカリアはどうする?」
「あれ? 私は?」
「葵ちゃんは、畑のための買い出しとか世話があるからな」
「あー、そうでした。というか、私の家の土を取りに行くとかいつにするんですか? 今日でも明日でも構わないって言ってますけど?」
「それもあったわね。そっちをまずはしないといけないから、明日10時に訪問するって伝えてくれる? みんなで行くわ」
そうだな。
畑のことで葵ちゃんを借りているんだから、みんなで行かないとだめだよな。
ということで、明日の一番の優先事項は葵ちゃんの家への訪問だ。
美味しい野菜や果物を作るための第一歩だ。
「はい。わかりました。あと、私だけじゃ畑のことは無理なんで手伝ってほしいんですけど?」
「ああ、そこは俺が手伝う」
「僕も手伝うよ」
「私も手伝います」
こうして明日の予定はセージ以外は畑仕事ということになった。
まあ、基礎的な訓練は拠点でするけどな。
そうしないと俺や葵ちゃんはいざという時、動けそうにないから。
そして翌日、俺たちは予定通りに小野田家に訪問をしていた。
「「「おはようございます」」」
「おはようございます」
「お待ちしていましたよ」
そう言って出迎えてくれた小野田夫妻はどちらとも畑仕事の恰好だった。
この前家に来てくれた時は、普通の恰好だったが、やはり畑仕事装備というのはあるんだな。
そして、もう一点違う所があって。
「おう、お前さんたちが葵の働き先の人か」
白髪がまぶしく、顔にもしわがあり年を召しているというのは分かるが、体自体はシャキッとしていて鍬を肩に担いでいる所を見ると元気そうなおじいさんが立っているのだ。
多分葵ちゃんのおじいちゃんなのかなと思いつつ。
「初めまして。私、野田裕也ともうします。葵さんにはお世話になっております」
「同じく、天野椿と申します」
「セージ・フォジャーです」
「カカリア・レーニーです」
「おう。よろしくな。いや、聞いてはいたが別嬪さんばかりじゃな。野田さんはやりてか?」
「いえ、偶然……というにはちょっとですかね?」
「ん? どういうこった?」
「まあ、研究室でも男女での差別があるんですよ。あの大学でこっちに来るなんてね」
と、設定を説明する。
今のところ説明することはなかったが、椿たちが何でこっちに来たのかっていう理由はそういうことになっている。
男尊女卑のため研究室で良い扱いを受けなかったってやつだ。
そして、それは伝わったようで。
「はん。つまらねえことするな。お勉強だけしてりゃいいもんを」
「まあ、美人さんがこっちに来てくれたことを喜びましょう」
「そうだな。そうにちがいない。そして結果を出して見返してやれってんだ」
どうやら、女が下とか学を持つなとかいうような古風なタイプではないらしい。
「ああ、そうそう。大学で思い出した。葵を進学させる気にしてくれてありがとうな。才能があるのにここで畑するって聞かなくてな」
「いえ、ただ畑を継ぐにしても、勉強してからでも遅くないって言っただけですよ」
「俺たちも同じことをいったさ。でも駄目だった。決定的だったのはそちらのお嬢ちゃんたちのおかげだな。立派な姿を見たのが効いたんだろう」
「うん。椿さんたちってすごいんだから」
葵ちゃんは自分のことのように笑顔で答える。
既に椿たちの正体を知っていてあんな感じなんだから、やっぱり葵ちゃんを雇ったのは正解だったなと思う。
「よし、なら、その嬢ちゃんたちがもっと頑張れるように協力してやらぁ! なんでもきいてくれ!」
ということで、小野田ご夫妻よりもおじいさんがメインで俺たちに畑のノウハウを教えてくれるのであった。




