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三十九話

 軍議が終わって少し経ったあとのことだった。


「報告です!! 」


穏やかな朝をつん裂くような声だった。


 叫んだのは、ホルンメランの偵察兵。


「西の平原をニフラインの軍勢が進軍中。真っ直ぐこちらに向かってきてます! 」


声はその場にいた多くの兵たちに、聞こえ、騒ぎになり始めた。


 その様子だから、このことはすぐに本団と分団の二人の司令官に知れた。


 ピオーネはすぐにテントから出てきて、指示をとばした。


「ホルンメラン分団は至急進軍の準備を始めなさい! 編成はここまでと同じです。」


指示されたホルンメランの兵たちはすぐにテントをたたみ始めた。


 本団の方も、司令が下ったと見えて、準備し始めた。まだ傷も疲れも癒えてはいないだろうに、気の毒だ。


 ホルンメラン一同は完全に陣営を取り払ってしまい、元の通りになった。


「私たちも行くぞ。」


メイデン少将に促されて、僕は巨大馬車に戻った。


 僕たちのいる部隊は、依然最後方だ。ホルンメラン分団は行軍速度を上げた。それにつれて、僕らの馬車も加速している。


 外のメイデン少将に、窓越しに話しかけた。


「少将、次はどこに? 」


「まずはこのまま進んで、ニフラインの軍勢とぶつかるだろうな。」


「迂回しちゃダメなんですか? 」


「ニフライン分団にそのままホルンメランまで行かれたら困るだろ? 」


 僕たちの軍は、ニフラインを迎え撃たなければならないという状況らしい。


 予定よりも遅れてしまったためだろう。こちらが後手に回っている。


「君が思っとる以上には悪い状況だよ。」


彼の言葉の通り、軍には一層の緊張感が漂っていた。


 本団はホルンメランの後方からついてきていた。


「あれ、本団は別れるんじゃなかったですっけ? 」


「どうせ行く手には敵がいるんだ。別れるのは共闘して前の敵を撃退してからで遅くはないだろう。」


あの二人が果たしてちゃんと共闘なんてするのだろうか?







 物々しい雰囲気で進軍を続けたホルンメラン分団だが、小高い丘が見えたところで停止した。


 ちょっとしてから、伝令兵が後ろの方まできた。


「弓兵は斉射用意! 」


なに、まだ一人の敵も見えていないぞ。


 ホルンメラン分団は横一線に広がった。


「何かがあるのだろう。」


「どうしてそれが? 」


「さあな。パゴスキー君が何かしら感じだんだろうな。私にはあいつの考えなんて分からんからな。」


結局誰もピオーネの頭の中なんて理解できないから、軍はかえってスムーズに動いていた。


 弓兵たちは、すでに矢を手にしている。そこに敵がいるかのような緊張感。僕も思わず息を呑んでしまった。


 その時だった! 丘の上に軍旗が現れたのだ。


「ニフラインの軍旗だ! 敵だ! 」


「構えろ! 」


本当に敵が現れた。分かっていたのか?


 しかし、我が軍が難を逃れたのは事実だ。もし丘の麓まで行っていれば、そこで自分たちの上に敵軍が現れるという形になってしまっていた。極めて不利な状態である。


 敵軍は僕たちを見るなり


「オォォォ! 」


と、けたたましい掛け声をあげて突撃してきた。


 敵軍は、騎兵が中心になっていた。


「弓兵、構えろ! 」


こちらも準備は万端である。


 敵兵は皆、丘の下り坂を利用して、猛烈な勢いで近づいてくる。


「放て! 」


それぞれの部隊の指揮のもとで、矢が敵軍目掛けて一斉に放たれた。


 距離が空いた中では、弓の方に分があった。騎兵たちはチラホラと倒れていく。


 しかし、その程度では敵兵たちは止まらなかった。勢いは少しも緩むことなく、僕たちの方へと向かってくる。


 僕は軍の後方にいたのだが、それでも相当な圧力を感じる。


 ピオーネは軍の中段あたりにいた。翡翠の長槍が目立っている。


「盾兵、構えつつ弓兵隊の前方に進出せよ! 」


彼女の号令と共に、大楯を抱えた兵士たちが弓兵を庇うように前に出た。


 敵騎兵はそれを見ても全く怯まず、そのまま盾にぶつかっていった。吹き飛ばされる者もいれば、踏みとどまる猛者もいる。


 ぶつかった瞬間、騎馬は一瞬止まってしまう。


「放て! 」


弓兵たちはその機を逃さなかった。


 至近距離で狙い撃ちにされては流石に騎兵たちもたまらない。矢で射抜かれた敵兵たちは、バタバタと落ちてしまった。鞍上を失った馬たちは四方八方へと逃げていく。


 我が軍は勢いづいた。急襲してきた敵騎馬団を退けて、そのまま丘を登ろうとした。


 その時だった。青天の霹靂とはこのことだろうか? 


「北から敵襲! 右手から敵の別働隊が現れました! 」


急報が軍を駆け巡った。


「敵は前方ではなかったのです? 」


「相手も馬鹿じゃなかったということだ! ちゃんと手を打たれていた。」


メイデン少将は僕に構っているひまは無いと言わんばかりに忙しなく指揮を取り始めた。


 馬車の中は場違いに静かな三人が取り残されている。


「けっこうまずいんですかね? 奇襲されるのって。ねえ、クロードくん。」


「かなりヤバいですよ! 不意打ち食らってるんですから。」


言葉の割に兵士くんは落ち着いていた。こういう時ばかりは、彼が元軍人であることを実感する。


 ホルンメラン分団は南方、つまりは左手に逃れた。戦争になってから、初めての劣勢だ。


 戦争なのだから、やられる可能性もあるのだと、今更ながらに痛感する。それと同時に情けなくも戦慄した。


「あまり追っては来ないでしょう。本団が残ってますから。そちらが標的になるでしょう。」


と、兵士くんは言っていた。


 が、敵軍は真っ直ぐこちらを追ってきた。


「ちょいちょいちょい! こっち来るじゃないか! 向こうが標的なんじゃなかったのかい? 」


敵は本団には見向きもしなかった。


 残念ながら、僕たちは最後方になってしまったので、追手の姿がよく見える。


「めちゃくちゃ血相変えておってきてるじゃないか! 」


「最初から僕たちが狙いだったみたいですね。」


「なんでさ? 」


「プレドーラを攻撃したからじゃないですか? 」


 追手の勢いは全く緩まない。どんどん僕たちに迫ってきている。


「ヤバイですよ。僕たちだけ取り残されていますよ! 」


やっぱりデカすぎるのが仇となった。僕たちの巨大馬車だけがついて行けなくなっているのだ。


「僕たち追いつかれちゃいますよ! 」


敵の先頭はすでに十メートルくらいのところまで来ていた。


 兵士くんの判断は早かった。


「命あっての物種です! この馬車を放棄しましょう。」


「大丈夫なのかい? 全部置いていっちゃって。」


「機材は貴重なので、敵軍も簡単には壊さないかと。生き物もこの馬車には唄い鳥しかいませんし、ひとまずは捨てていっても大丈夫ですよ! 」


 「クロード君も僕もタイセイさんもそれぞれの馬が部隊と並走してます。それに飛び乗れますね? 」


こんなときだ。出来ないなんてのは通用しない。


 馬車の扉を開くと、僕たちの馬が走っていた。先に兵士くんが彼の馬に飛び乗った。兵士くんは流石に軽快だ。


 次にライアンくんも飛び乗った。ちょっとバランスを崩しそうにはなったが、彼の馬がしっかりフォローした。


 さあ、いよいよ僕だ。こんなアクロバットはやったことがない。正直怖い。だけど迷っている暇は無かった


「ええい! どうにでもなれ! 」


僕はヒカルゲンジ目掛けてジャンプした。


 僕は一瞬宙を舞い、その着地点はちゃんとヒカルゲンジの背中だった。いや、彼が僕に合わせてくれたのもある。


 しかし、体勢を整えて加速しようとしたところだった。


「うわっ! 」


右の()()()を踏み外してしまった。


 バランスを崩してしまった。


「くそ! こんなときに! 」


緊張したのだろうか? やっぱりこういう技術は一朝一夕じゃ身につかないもののようだ。いざというときにボロがでる。


 バランスを崩した分、加速が遅れてしまった。


「ヤバい! 追いつかれる……!! 」


すぐ後ろに敵の気配がした。


 僕は確かに死を感じた。冷たく鋭いものを背中に押し付けられて、息が出来ないという感覚。この一瞬で、僕は覚悟した。





 その時だった! 


「な、なんだ! 」


ヒカルゲンジの白いたてがみが輝き始めたのだ。ボウっと、ほのかに明るみはじめたたてがみは、だんだんとその輝きを増していく。


 やがて逆立ったたてがみは煌々と白炎を灯した。


「ヒヒーン! 」


 彼のいななきに呼応して、炎は激しく燃え上がった。


 それと同時にヒカルゲンジは勝手に加速し始めたのだ。ちょっとやそっとじゃない、凄まじい勢いで駆けてゆく。


「なんなんだ、これは! 」


炎は不思議と熱くはなかった。まるで僕も光に包まれているようだ。


「これがリュセイホタルの力か……」


 スピードはどんどん上がり、追ってくる敵たちを引き離していく。


 僕は、ついに前にいた二人に追いついた。振り返ると、すでに敵は遥か後方だった。


 もう必要がないと悟ったヒカルゲンジは白い炎を消してしまった……。











 

 




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