表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/65

木津ヒイラギは進む

次話タイトルは『木津ヒイラギと奥戸透の場合』


 ヒイラギとシヤは、品子の指示通りにビルの細い路地に身を潜める。

 今回の発動は、失敗すれば相当な反動が来るのだろう。

 それはヒイラギも、もちろん承知している。


「品子にも言ったじゃないか。上手くやるんだ。上手く行かせるんだ!」


 自分に言い聞かせながらシヤを見る。

 彼女の横顔は、いつも通り。

 ……いや。

 やはりシヤの様子が違う。

 そう感じたヒイラギはシヤの頭に手を乗せる。

 こちらを見た瞬間に、その力を大きくしてゴシゴシと擦ってやる。


「いた、痛いです。兄さん」

「なぁ、シヤ。俺はお前に俺の力、全部を貸してやる。全部だ! ……だからさ」


 ヒイラギはもう一度、手でやさしくシヤの頭に軽く触れた後に、シヤの額にこつんと自分の額を当てた。


「お前も、俺に力を貸してくれよな?」


 伝わってくるシヤの温もりと同時に、先程の品子から受けた頭突きの痛みがヒイラギを襲う。


「うぅ、痛てぇ」

「兄さん、せっかくのいい雰囲気が台無しです。……でもありがとうございます。私の力の全てを兄さんに」


 シヤが目を閉じ集中を始めると、通りの方から品子と知らない男の声が聞こえてくる。


「品子姉さんが男の人が店の扉に触れたら、発動開始だと言っています」


 バチンと自分の頬を叩き、ヒイラギは前を向く。


「了解だ、シヤ。奥戸とかいうおっさんに、俺達兄妹の本気をしっかり見てもらおうぜ」


◇◇◇◇◇


 品子が連れて来た男が、店の扉に触れるのをヒイラギは目にする。

 同時にシヤの首に、今まで見たことのないとても強い光が宿る。

 光は店の扉に向かって、まっすぐに進んでいく。

 いや、もうすでに辿り着いているその光を、ヒイラギは握り駆け出す。

 目を閉じ集中すればシヤのリードの通りに、道筋が彼の前に見える。

 前へ、前へと進む彼のその先。

 閉じた目の中にも壁が姿を現す。

 シヤの光は壁の向こうに繋がってはいるが、壁から先はかなりか細く光っている。


「だったら壊すしかないよな。シヤはこんなに頑張ったんだ。後は俺が頑張らなきゃ駄目だろう? 思いを……、いや違う! それでは足りない。念いを込めろ!」


 シヤのリードに重なる自分の手のひらに、ヒイラギは力を込めた。

 リードの光の強さが増していくのを彼の目は捉える。


「……出来てる? これであいつを!」


 障壁にヒイラギの体が触れる。

 そのまま手のひらにヒイラギは力を集中させる。

 少しだが、彼は着実に前へと進めている。

 一歩、一歩と力を込め、ヒイラギは歩みを進める。

 自身に触れる不気味な感覚に、ヒイラギの肌がぞわりと粟立つ。

 まるで体中に粘着剤でも付けられて、障壁から剥がれようと藻掻(もが)いている様だ。

 想定していた以上に歩みは遅く、品子が連れてきた男が扉を閉めようとしているのが見える。


「嫌だ、ここまで来たんだ。諦めたくない!」


 ヒイラギの声に呼応するように、後ろからくる光が一層、強く輝く。

 シヤだ。

 彼女はまだ諦めていない。

 ヒイラギの脳裏に母の最期の姿が浮かぶ。


「そうだシヤも頑張っている、嫌なんだよ、あの時みたいな結末は!」


 だが言葉の勢いと反して、彼の体は力を失い、もう一歩すら進めなくなってしまっていた。


「ぐっ! ……進めよ! 体なんかちぎれてもいいから。前に出ろよぉ!」


 それなのに彼の顔は、自身の意志とは逆に力なくうつむいていくのだ。


「嫌だ、俺はまだ動けるん……」


 口からこぼれる言葉が、地面に落ちていく。

 無理に力を使った反動が近いのだろう。

 ゆらりと視界がぶれ、意識が消えいくその直前。


「……七十五点だな」


 唐突に、ヒイラギの耳元で声がした。


「まぁ、若いからこんなもんだろう。残りの二十五点は、今後の経験次第で何とでもなる」


 聞き覚えのある声にヒイラギは反応する。


「惟之さ、……ん?」

「ほらよ、二十五点分だ」


 どん、と背中を押されたような感覚の後に、ヒイラギの体がぐっと前に押し出される。

 よろめきながら足が進み、壁から抜けたことにヒイラギは気付く。

 だが今の彼に考えている暇はない。

 シヤのリードはまだか細く光を放っているのだ。

 再びリードを掴み、ヒイラギは走り出す。

 まだ扉を開けている男をすり抜け、ヒイラギは店へ入りそのまま店の奥へと走り続ける。


「ヒイラギ、一番奥の部屋だ。ただし中は真っ暗だ。冬野君は、部屋の中央に座らされている」

「惟之さん? これって一体?」

「説明は後だ。リードの光で相手はこちらが店に入ったのを気付いている。だが、心配はいらねえよ。俺の指示に従ってくれ。まずは……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ