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そこは小さな雑貨店

次話タイトルは「人出品子」

 沙十美は足を進め、喧嘩別れをした親友へ向けてしまった言葉を悔やむ。

 つぐみから誘われたとき沙十美は嬉しかったし、彼女との会話も相変わらず楽しかったのだ。

 その一方で笑って彼女と歩みながらも、自分の失くした純粋さを持ち続けるつぐみを見るのが辛いのを自覚せざるを得ない。 

 沙十美の中で焦り、もどかしさ、不安という負の感情がどんどん膨れ上がっていく。

 そしてついにはどろりと溢れ出した醜いその感情を、あろうことかつぐみにぶつけてしまったのだ。

 明日、きちんと謝りたい。

 それをするために彼女はある場所を目指していた。


◇◇◇◇◇


 多木ノ町にある小さな雑貨店。

 沙十美は店にかかっている「OPEN」の小さな看板を「CLOSE」へ変えて店に入る。

 この店の店長は一人の客としか対応しない。

 その際に他の客が入らないように、看板を客自身が変えて入店をする事になっているのだ。

 こんなやり方でお店の経営は大丈夫なのだろうかと、沙十美は尋ねてみたことがある。


「採算は気にしていません。幸いにして別のことで生活はできる程度に稼いでいますから」


 黒縁の眼鏡をかけた端正な顔立ちの男性は、そういって微笑む。

 店長の奥戸透(おくととおる)は、話をしながらも次々と商品を並べていく。

 ふわりとした髪をセンターで分けた大人の雰囲気をまとう姿。

 その白くしなやかな指の美しさに沙十美は見とれることが何度もあった。

 それだけではなく奥戸はとても聞き上手であった。

 沙十美は好きな人のことや、親友のつぐみのことなどを今までにたくさん話してきた。

 その度に奥戸は、とても有用なアドバイスを与えてくれるのだ。


「いらっしゃい。おや、元気がないようですが」


 店の奥から現れた奥戸は、驚いた顔で沙十美を迎える。

 穏やかに促してくる奥戸にすがるように、彼女は言葉を続けていく。


「今日、友達と喧嘩をして謝りもせず逃げてしまいました。もちろん明日は謝ります。でも勇気が出ないのです」

「ふむ、喧嘩のきっかけは何だったのでしょう? 私に話せますか?」


 真っ直ぐに見つめる奥戸の視線に沙十美はするりと心の中を吐き出していく。


「自分が失くしたものを持ち続けている彼女が、羨ましいという感情が湧き出て来るのです。それがとても、……苦しいのです」

「うん、よく頑張って、私に話してくれましたね。大丈夫。これを話せたあなたは、勇気をもってきっと謝れます。……そうだ、切っ掛けを差し上げましょう!」


 奥戸は少し離れたショーケースからブレスレットを二つ持ってきた。

 彼はその一つをそっと沙十美の手首に着ける。

 金色の小さな星のチャームのついたブレスレットは、彼女の手首で柔らかく揺れ動く。


「お揃いでつけてみては? これを見れば私に話した時のように素直になれますよ」


 緩やかに動く星を眺めていると、つぐみの穏やかな笑顔がふわりと浮かんでくる。


「確かに! 私、買います。包装お願いします! ありがとう奥戸さん。明日は必ずこれを渡してきちんと謝ります」


 沙十美は綺麗にラッピングされた小さな包みを受け取り、大切に鞄の中にしまう。

 先程までなかった自信が次第に自分の中に溢れるのを自覚する。

 ――大丈夫、きっとうまくいく。

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